第259話触らぬ神に祟りなしだね
「全く、君は毎度毎度良く飽きずに逃亡するな」
「それを言うなら心は毎度捕まえなくても良いんだよ?」
「何を言うんだ? 私は君の事をちゃんと鍛えるぞ」
おかしい話が噛み合っていない気がする?
現在私は15回目の逃亡に失敗して地面に正座して説教を受けている最中だ。
今私の首にはいつの間にか括り付けられていた私が出した糸が付いている。
何が悲しくて自分の出した糸で自分の首を絞めなきゃいけないんだ! 私産の素材の優秀さが憎いぜ。
全く私ったら優秀なんだから。
現在このフープでは、私のスキルで産み出した糸がかなりの数出回っている。
何故なら私の糸を素材に使うと、防具や籠手系の武具には確定で【軟鋼鉄】のスキルが付くのだとか。それを知ったアイギスに私の糸が搾取されまくっているのだ。これが権力の力。
『シルフィン:いや、貴女がここ一ヶ月程でやらかした分を請求されているだけでしょうに』
ぐっ、確かに少~しだけやんちゃはしたけど可愛いものじゃん。
ちょっと食に旋風巻き起こして、ちょっと土魔法普及の為に会社作って、ちょっと突っ掛かって来た冒険者やアウトローな方々を蹴散らして、ちょっと気に食わない貴族ぶちのめして、アウトローの非合法カジノ乗っ取って地下にカジノ作って経営したり、地下帝国とか格好良くない? って作ろうとしたりしただけじゃん!
『シルフィン:十分な戦犯ですね』
……急に難聴が。
『シルフィン:頭に直接だから耳は関係無いですが?』
難聴だね。何も聞こえない。
「ちゃんと聞いてるのか、ハクア」
「勿論だぜ。夕飯はパスタだよね?」
「……誰もそんな事言ってないぞ」
あれ? おかしいな?
「……時々思うが、君は本当に私と同じ次元で会話してるのか? 変な電波受信してないか?」
「私は電波じゃねぇぞ!」
「時々受信するけどな」
「澪」
私と心の会話に乱入してきた澪は槍を持ち近付いてきた。
この槍はコロが澪の為に作った物で、澪もかなり気に入りずっと使っていた。
何故澪の武器が槍なのかそれは私が道路工事を終えた数日後まで遡る。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
「澪の武器? 要らなくね? だってこいつチートの氷で好きな物創れるし。いらない。いらない」
「お前と言う奴はここぞとばかりに」
「それで澪はどんな武器が良いのかな?」
「あっ、スルーなのな」
「ふ、ふん。そ、それくらい仲良くなったって事だい!」
「震えてる震えてる。まあ、そうだな……一通り使えるがこいつと同じで取り回しが良い物が良いな」
「……ゴリラなんだから大剣持ってウホウホ言えば?」
「はいご主人様。話が進まないのでこっち来ましょうね?」
慈愛に満ちた目で言わないで!
そんな風に話していると、丁度テアと心が来て不思議そうに槍ではないのですか? と言ってくる。
「そうだな。私も君には槍が一番合うと思うが?」
「槍か、確かに槍術は叩き込まれたな」
「確かにみーちゃんは良く
そういやそうだったっけ?
水転流を習っていた人間は私達三人の他にも沢山いたが、その中でも当主である瑠璃の祖母、巡 朝霞の他に師範役をやっていた人間が三人居た。
まあ、その内の一人は女神だったけどな。
その内の一人が、先程瑠璃の話していた
後の二人は
そんな師範達は道場がやっている間は師匠も師範達も門下生を見ていたが、道場が閉まったり休みの時は、私達三人を其々で個別指導していたのだ。
因みに澪は咲葉に習い、瑠璃は当主である朝霞が担当した。そして何故か私だけは心と聡子の二人から監視……もとい稽古を付けらていた。
考えてみればその頃から信用が無かったのか?
とはいえ心は熱血指導だったが、聡子とはよく二人でどうやってサボるべきかを話していた。
まあ、聡子は私と同じで体弱かったからね。何時も咳してたし。まあ、それでも十分元気だったが。
まあ、そんな訳で咲葉が槍が得意だった事もあり、澪はその咲葉から才能を認められ徹底的に仕込まれていたのだった。
「まあ、確かにお前は槍で良いんじゃね? ギフトが氷だし貫通特化、みたいな?」
「確かにそれはアリだな」
「みーちゃんっぽくて良いと思います」
「私もそれが良いと思うぞ。何せ君はかのスカサハに槍の才能を認められている訳だしな?」
「「「えっ?」」」
「……心」
「ハッ! い、今の言葉は忘れないか?」
「無理だからな! は? スカサハ? あのケルトの? それに今の言い方まさか須賀咲葉って!?」
「マジか」
「わぁ~。女神様って身近だったんですね?」
ちょっと待て! それで良いのかお前は?
「まあ、何だ? 良いじゃないか槍で、な?」
「確かに良いん──」
「それ以上に衝撃がでけぇよ! まさか聡子もそうだとか言わないよな!?」
「「ノーコメントで」」
否定が無い……だと。
なんなの。女神ってそんなに湧いて出る物なの? もうあれか? 一人居たら三、四人居ると思えば良いのか!?
『シルフィン:人を黒い脅威のように言うのは止めて貰えませんかね?』
えっ? あれって女神でも脅威なの?
『シルフィン:……過去に何度か全女神の総意で絶滅させようとしましたが、どれだけ殺っても必ずどこの世界にも現れるんですよ。本当になんなんですかねあれ?』
マジかよ。魔王や邪神よりも上なのかあの黒い生物。一番身近な物が実は最強?
「え~と、よく分からないけど澪の武器は槍で良いのかな?」
「ああ、それで頼めるか?」
澪の言葉に一つ頷き工房に向かうコロを見送りながら一言。
「お前もうクー・フーリンとでも名乗れば?」
「その冗談は笑えんな」
ですよね~。
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澪の槍を見ながら私はこの槍の作られた経緯を思い出し、再び常識とはなんぞや? と、考えていた。
「今日も派手に暴れたな? 流石にあの勢いで首はもう駄目かと思ったぞ?」
「あれは私も死んだと思った」
「大丈夫だ。ハクアの強度は理解してる」
やだ、この人怖い。人の事を強度で判断しないで欲しいのだが。
心や澪とそんな話をしていると今日の逃走劇が終わったと判断した皆が近寄って来る。
因みにジャックやメル達は三日程前にアリスベルへと帰っていった。なんでもクランや連合というのはギルドから恩恵がある代わりにそれに見合った働きと、上納金が必要だそうだ。
ボロい商売してるな冒険者ギルド。
「さて、ではいつも通り始めるか。魔法組はテアに格闘組は私だ。と、その前にハクア。君はこれを付けるんだ」
そう言って心が差し出したのはなんと首輪だった。私を含めた全員がそれを認識した瞬間空気がビシッと固まる。
その空気を敏感に感じ取った心は理解した瞬間、自分の行動に赤面しつつ「い、いや、違が──」と、誤解を解こうとする。だが、私は敢えてそこで言葉を被せていく。
「そうか。私も遂にオトモ枠に昇格か」
「それ降格してないか?」
「私のスキルは大タル爆弾Gとマヒ罠設置、落とし穴設置、採取と昼寝ですニャ~」
「意外に有能!?」
「三食昼寝付きを所望しますニャ~」
「むしろ君はそれで良いのか? 相変わらずプライドとか無いのか!?」
「えっ? ……お、おやつも付けてくれないと嫌なんだからね?」
「そこじゃないだろ」
「心さん! 雇い主権限でハーちゃんの飼い主の権利を買い取ります! 何を渡せば良いですか! お金ですか? この国のお金で足りますか!? 足らないと言うのなら二、三日待って貰えればなんとか調達します」
「うん。君も何を言ってるんだお嬢様? そして二、三日とか具体的な数字が嫌だ。何をする気だ!?」
「心、私にも譲って欲しいニャ~」
飼い猫に飼われる飼い主とか、人生にエッジが効きすぎてないかい? しかもシィーに対抗してなのかアリシアとミルリルも参加してるし。
「と言うか! テアからも誤解だと言ってくれ!」
「ふふふ、私もかつては女神と呼ばれた一柱ですからね。昔からの友人の隠れた性癖など寛容な心で受け入れますよ?」
ノリノリなテアは顔に片手を当て、何やら奇妙な冒険でも始めそうなポーズまで取っている。
本当に私と心を弄る時はノリノリだな。
「オイー! 何を言ってるんだ!」
「女神にも変態は居ますからね?」
ああ、アスモとかアスモとかアスモだね。
「ここで信憑性を醸し出すな! ちゃんと説明しろ! でないとお前の部屋の──」
「説明しましょう。心の渡した首輪は罪人などに使うスキルや魔法を封じる為の物です」
心の叫びを無視して楽しんでいたテアは、心の脅し文句に被せるように説明を始める。正直心の言葉の続きは気になる。気になるがテアの目が語っていた。
踏み込めばただでは済まさない──と。
目が合うだけで明確に伝わる眼力に、触れてはいけない部分だと私の中の警鐘がなるのでテアの説明を黙って聞いた。
うん。触らぬ神に祟りなしだね。いや、マジで。
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