第六章フープ滞在記
第258話あの子本当に一人なのよね!?
「ハァ~」
私は何度目か分からない溜め息を吐きながら目の前に積まれた紙の束を見る。
私の名前はアイギス。フープ現女王のアイギス・サンドライト19歳。
元々はラノベ作家をしていたハクアと同じ地球出身の転生者である。
「随分と溜め息が多いな?」
そしてこの子は、この世界で初めて出来た私の対等な友人にして同じく異世界から召喚された安形澪だ。
初めての友達。と言っても仲の良い友人が居ない訳ではない。幸運にも国王の娘として生まれた私相手では、対等な友人関係というものが築けないのだ。
仮に身分が同じなら今度はその友人と自国の利益を計り、他国の現状を調査しなくてはならない。
国を背負う人間としては当たり前の事だけど、現代日本の元一般人としてはそれを友人とはなかなか呼べないのである。
そんな澪は私の大きすぎる溜め息を聞いてそんな事を言ったくれたので、私もこれ見よがしにジットリと見詰めながら反論する。
「そうは言うけどこの溜め息の原因の大半が貴女の連れのせいよ?」
私にとって一見完璧に見えるこの子だが、唯一彼女に関してはウィークポイントらしく、冷や汗を掻きながらわざとらしく視線を顔ごと背ける。
そんな反応に少し満足した私は山のような書類の紙を一枚取り目を通して行く。
そこには最近の書類にほぼ皆勤賞を取っている一文がある。
『白い髪少女』『黒髪の少女』『仮面の少女』私の前に積まれた書類のほとんどに、この三つの内の一つが書いてあるのだから澪を責めたくなる私の気持ちはしょうがないと思う。
この三つの表現は一人の少女ハクアの事を指している。
曰く、白い髪の少女が貴族から子供を守った。
曰く、白い髪の少女が新しい革新的な魔法の使い方をしている。
曰く、黒髪の少女がスラムのアウトローを成敗していた。
曰く、仮面の少女が非合法なカジノを取り仕切っている。
等々、さまざまな物がこうやって報告として上がって来ているのだ。基本的に悪い事をする時は黒髪にするか仮面を着けているようだ。
でも、これでもほんの一部なのよね?
あの砦での戦いの後、ハクア達一行がこのフープに滞在し始めてから一ヶ月が経とうとしてる。
その間にハクアが行った事は、良い事も悪い事も含めてさまざまだ。
アリスベルとフープを繋ぐ道路を一週間で完成させた事から始まり。
土魔法建設設立、出店から始めた食べ物屋の出店、貴族の成敗、アウトローの成敗、アウトローと手を組んでカジノ経営、地下都市建設計画、学校開校の準備に宣伝、アリスベル商人との繋ぎと調整、戸籍の登録制度、医療制度に税金の見直し、色んなものが始まり。それと共に色んなものをなんとか阻止してきた。
あの子本当に一人なのよね!? とてもじゃないけど一ヶ月そこそこで起こした事じゃないわよ!?
地下都市計画なんてヘルが気が付いてくれなかったら危なかったわね。
今さらながらに少し前の騒動を思い出し身震いする。
非合法な地下カジノだって、結局首謀者は捕まえられなかったのよね。
報告では黒髪の仮面の少女が居たらしいが、彼女の妨害に遇い首謀者は全員取り逃がした。ついでに仮面の少女も取り逃がしたらしいが、次の日の朝食にはしれっと参加していたのだから肝が太い。
しかも証拠になる物は一切残していなかったから追及も出来ない。まあ、そのお陰でそこに通っていた反対派の貴族も捕らえられたんだけどね。
澪が言うには金儲けと同時にこちらの利益も用意する事で、追及をしにくくした結果だろうとの事だった。
本当にその通りだから悔しいのよね。
そしてハクアの改革は騎士達にも色々な変化をもたらした。
ハクアの魔法陣の解析、研究の成果で装備に魔法陣を刻む事で、魔力を流すだけで補助系の魔法を発動出来る技術が作られ、フープの戦力はかなりアップした。
更にはハクアの出した糸から作った防具は【軟鋼鉄】のスキルが確定で付くため、性能の良い防具が作れるようにもなった。
そして何より、ハクア達の多彩なスキルの扱い方を見た兵達は、今までのただ教えられた事だけをこなす訓練ではなく、自分に合ったスキルの使い方等を考えるようになり、特にハクアのオリジナル魔法を見た魔法職達のオリジナルの魔法作りが活発になってきた。と、フーリィーやカークスも喜んでいた。
そんなハクアの起こした色々な事を考えながら仕事を進めていると、不意に外から大きな音がすると共に「今日こそ逃げてやる!」という、後ろ向きな決意が響いてきた。
それに気が付いた澪が「もうそんな時間か?」と呟き。午後の修行の時間になった澪をそのまま見送り、執務室から見える訓練所を休憩がてら覗き見る。
そこには女神である心様相手に大立ち回りを演じる件の少女、ハクアが居た。
雷を纏ったかのようなハクアは、一ヶ月前まで方向転換が出来ないと言っていた筈のスキルを使い、さまざまな方向に方向転換しながら心様を撹乱して、その後ろの街へと続く道へと抜けようとする。
対する心様は目を閉じながらハクアの撹乱を見ず、泰然自若の構えで待ち構える。
隙が出来ずに焦れたハクアが、雷の勢いを使い一気に近付くと横をすり抜けようと駆け抜ける。
しかし、心様の腕は電光石火と言って良いハクアの動きに対応して掴みに掛かる。だが、その直前にハクアは急停止すると共に上へと高く飛び上がり、一気に場外へと飛び出して行く。
おっ、初勝利? 私がそんな風に思った直後、ハクアの体が城壁を越える直前不自然に後ろに倒れる。よくよく見ると太陽の光に反射する何かが、ハクアの首に繋がっていた。
鵜飼いの鵜のように引っ張られたハクアは、そのまま落下して今日も心様に引きずられていく。
私は山のような書類を築き上げた本人のその姿に、溜飲を下げながら再び書類仕事に戻るのだった。
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