第260話悪い事ナニモシテナイヨ?
「そうか~。罪人用の首輪か~。わ、私無実だよ? ナニモシテナイヨ?」
「そんな冷や汗ダラダラ流しながら言っても説得力無いですよ。ご主人様?」
「まあ、君の余罪は後で追及するとして」
ナニイッテル? 悪い事ナニモシテナイヨ? 証拠無い。だから無実。うむ。完璧な理論だ。
『シルフィン:それ自分が犯人だと認めてません?』
そんな馬鹿な!?
「まずはっきり言えば君は弱くなった。転生による体の変化、ミニゴブリンという種族としてのハンデ、短い期間での体の成長、原因を上げればキリが無いが全体的に動きが雑だ」
おふ。なんと無く自覚はあったけどハッキリ言われると落ちるな。
「まあ、一番の原因は体の不調が無くなった事でしょうね。地球に居た頃は時間制限がありましたからね。それが無くなって自由に動き回れる体になった事が無駄な動きが多くなった原因でしょう」
「だから波紋とかも雑になっていたんですねハーちゃん」
うぐ。
「だからこそ、今の君に必要なのは便利な魔法やスキルを封じて素の身体能力での戦い方を思い出す事だ。その為のコレという訳だ」
そう言って首輪を見せる心。しかし私とて今さらそんな面倒な事したくない。
私は愛想笑いをすると同時にその場から一気に離脱する。
しかしそんな私の動きにしっかり対応して心の木刀が私の後頭部に迫る。私はそれを飛び込み前転の要領で回避すると、風魔法で土煙を作り同時に気配を消し《
「くっ」
土煙に視界を阻まれた心は気配を消した私を見付けるまでに逃げられると踏み、一旦下がり土煙から私が飛び出て来る筈の私に備える。
ふっ、ふっ、ふっ、甘い! 甘いよ心! そんな行動はお見通しだよ!
私は内心ほくそ笑みながら土煙の中でじっと気配を殺す。すると徐々に私の起こした土煙が晴れていく。
「あ、あれ? ハクアが居ないよ?」
「は、ハーちゃんが消えちゃいました!?」
「ご、ご主人様? 何処ですか? 何処ですか?」
え~と、アリシアさん? そんな微妙に泣きそうな声出すの止めて頂けません? 修行から逃げる為の行動だから胸が痛いよ!?
私はアリシアの声に地味にダメージを受けながらもなんとか気配を殺してゆっくり移動する。
これで心が追い付けない所まで逃げ切れば良いだけだね。
しかし、そんな事を思っていた一瞬の隙に心が私に急接近してくる。その瞬間、過去何度も経験した体験からヤバイという三文字が頭に浮かぶ。
直後パリンッ! という、硝子が砕けたような音と共に私の魔法が砕け散り、そのまま心の持つ木刀に思い切り頭を殴打された。
「ギャース! 痛って~! 頭が! 頭が生卵のようにパカッってなっちゃう~」
「そこまで強くやってないから安心して良いぞ」
「えっ? えっ? 何も無い所からご主人様が出てきた?」
「また妙な魔法を作ったな主様?」
「それで、君が今使っていた魔法はなんだ白亜?」
「ノーコメントで……嘘です! 言う! 言います! ぜひ語らせて下さい! お願いします」
再び振り上げられた木刀の前に私は土下座して説明させて欲しいと願う。
次はきっと中身が、具が味噌が出ちゃう。
「え~と、今のは【結界】に光魔法を合わせたオリジナルの光学迷彩魔法。【ステルス】です。って、説明させといてなんで頭を押さえている?」
失礼な奴等め。
「そんな物良くできましたね? 原理は投影ですか?」
「うんにゃ。それも出来るけど今回のは屈折と迂回でねじ曲げる感じ?」
「そんな物、少し動く度に調整が必要だろう? まさかとは思うがリアルタイムで調整したのか?」
「えっ? だってそうしないと動けないじゃん?」
私の答えに再び頭を押さえる女神共。
失礼じゃないかな君達?
「もう他には無いだろな? 隠しているものがあるなら先に言っておいてくれないか?」
う~む。ここで嫌だと言ったら木刀でかち割られるんだろうな。経験則的に。
「え~と、戦闘用は教えた通り。後は影魔法を使った髪とかを黒くする【黒化粧】十五メートル範囲内の任意の場所に声や音を出す風魔法の応用【サウンドビュー】後は~もう一個。風魔法の応用の空気の振動を増減する【ボリューム】だね」
「またお前は、使い方次第では下らないとも言い切れないラインナップだな」
「ご主人様らしいですけどね」
「はあ、やはり君にはコレが必要だな。君はこの世界と相性が良すぎる」
おふ。遂に付けられてしまった。と、いうか。
「身体……重っ」
「君は常に身体強化をしていたからな。まあ、本来なら悪い事どころか立派な才能だが、今回に限りは邪魔だな。君は楽が出来ると神でさえ予想が出来ない事をしでかす」
「酷っ! う~、なんで私だけなのさ! 瑠璃や澪は?」
「澪は寧ろ抑えるよりも出しきる方が良いだろうな。限界を知ってその上で扱いを決めるべきだろうし、それに……正直澪については下手に教えると後で絡まれるからな」
あ~、専属がその内が来るのね。簡単に来るなコイツ等。
「お嬢様に関しては他の皆との訓練の方が良い筈だ。スキルや魔法を含めた戦い方にどう水転流を組み込むかが課題だからな。そして君はこの世界に順応し過ぎているから、逆に素の身体能力と身体制御が目的だ」
「つーか、なんで今さらだよ。そろそろ一ヶ月経つっつうに」
「それは単純に首輪が手に入らなかったのもあるが、君達の今の実力の把握。それとフープや他の冒険者も、という話だったからな。それには君の魔法やスキルの多才な使い方を見せるのが手っ取り早かった」
ダシに使われた!?
「まあ、確かにスキルや魔法は多才だしな。実際それを見て触発された者は何人も居るわけだし理に適ってるな」
「と、いうわけで大人しく付けるんだ。ほら、後ろ向いて付けるから」
既に逃げられないと悟った私は大人しく心に首輪を付けられる。
むう。何か屈辱。
「ハーちゃん。ハーちゃん」
「なんでい」
「私、新しい扉が開きそうです!」
「そうですね。私もなんだか白亜さんを無性にイジメたいですね」
「うるせぇよ! そんなん言われてどうしろと!? 後、テアはなんか違うからな!? つーか瑠璃! お前は目が怖いよ! 手をワキワキすんなや!」
戯言を吐く瑠璃とテアの後ろで、他にも何人か頷いていたのはきっと見間違いに違いない。違いないんだい!
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