第261話あっ、死んだ
「こらー! 助けろー!」
「まあ、なんだ。頑張れ」
首輪を付けられた
取り敢えず売られる子牛のような目でこっちを見てるからにこやかに手でも振っておこう。
あっ、気が付いて暴れてる。
おっ、殴られた。
え~と、お・ぼ・え・て・ろ・よ・と、まあ、いつもの感じならズタボロにされるから覚えている必要は無いな。
「みーちゃん、ハーちゃんは大丈夫でしょうか?」
「まあ平気だろ。心ならアイツの事は良くわかってるし。何よりもアイツの生き汚さはG並みだからな。心配するだけ損だ」
私の言葉に誰も反論する事が無い辺り白亜に毒されてないか?
そう思いながらも私達はさっさと訓練を始める。
この一ヶ月私達がやって来た訓練は基礎体力向上の為の走り込み、それから筋力トレーニングと魔法理論の把握、それから軽い組み手を相手を変えつつ行うものだった。
大体の流れとしては午前中が魔法理論、午後が筋力トレーニングそれが終わると一、二時間程の組み手という流れだ。
まあ、私は午前中はたまにアイギスの手伝いをしていたがな。
フープの兵は個人指導ならば心がやっていたが、基本的に兵に必要なのは個人の技量よりも、隊における連携という事でカークス、フーリィーが指導を交代しながらやっていた。
その代わり魔法部隊の面々はテアに魔法の扱い。特に魔力の運用に関する事を聞いていた。
まあ、魔法部隊の面々も最初は体力トレーニング課され文句もあったようだが、これには「魔法使いだろうがなんだろうが、戦闘に参加してるなら動き回るし、組み手をして相手の動きを先読みしたり、対処したりする能力は必要じゃないの?」と、白亜に言われた事をきっかけに、渋々ながら納得した。
これも自分達よりも余程厳しいトレーニングをしてる人間から言われたのが一番の理由だろうがな。
因みに何故心が軍隊の指揮としての訓練を行わないのか? と聞くと「私は個の武勇なら良いが、他者を能動的に動かすのは苦手だ」と、言っていた。
正直それを聞いた時は彼の上杉謙信が何を言ってるんだ? と思ったが、これを聞いた白亜はしょうがないと言っていた。
それは何故だ? と聞くと、白亜が「心は、あくまで上杉謙信であると同時に、心であり上杉謙信じゃないんだよ」と、意味不明な事を口走り、周りで聞いていた私達が首を傾げるとこう説明を始めた。
テアのような純正の神やシルフィン等の概念が神格を得た神達と違い、心のような人が神格化した者達は特に、後世の語り部達の違いによりその有り様を歪められている可能性があるのだそうだ。
例えばだが、上杉謙信は男と言われているが中には女性説も存在する。そしてそれと同時にアニメや漫画でも、その作品に応じて男だったり女だったりと多様に変わる。
そして心の存在はその中の女、上杉謙信としての強さや偉業という記号が集まった存在なのだろうと。
それ故に本人でありながら、本人なら出来た筈の事が出来なかったり、この世界の魔法やスキル等の本物なら出来る筈のない事が出来たりするんじゃないのか? と、だから心は《上杉謙信であると同時に上杉謙信ではない》というのが白亜意見だった。
まあ、それでも理解出来ない人間には《上杉謙信っていう大元の粘土から、切り取って作った美少女フィギュアが心だ》と言っていた。
これにはテアは腹を抱えて爆笑し、流石に心は額を押さえて深い溜め息を吐いていたが、反論が無い辺り割りと的を射ているのだろう。
私としてはその後に白亜が言っていた。心が神として存在出来るなら、偉業だけでなく悪行でも功績になりそうで嫌なんだよね? なんて事を言っていたのが嫌なフラグになりそうで困る。
相変わらず無自覚にフラグを乱立する奴め……。
それが本当になったら歴史的な犯罪者から、本の中の悪役まで出て来る事になるだろうが。まあ、どの道そうなったら多分巻き込まれるのはフラグを立てた本人だろう。閑話休題。
さて、そんな私達は約一ヶ月間はほとんど体力トレーニングを含めた基礎トレーニングをしてきた。
まあ、何処かのバカは心から逃げる為に新しい魔法を開発するなんて事をしていたが、そんな訓練をしてきた私と瑠璃の訓練は、今日から一段階上がり魔法やスキルを用いた実戦形式の模擬戦だった。
因みに他の皆はそれぞれ、アリシアは【精霊融合】のスキルを使った状態を維持する訓練。エレオノ、シィーはクーから闇魔法を使った戦闘方法などを教わり、ヘルは自分の武装の開発をしている。
コロはフープの鍛治師と連携を取りながら装備を整えつつ、訓練に参加する時はエレオノやヘルとの格闘や、アリシアを相手取り魔法使いとの戦闘方法を模索している。
フロスト&結衣は、白亜曰くフロストの女神信仰が強すぎ女神側からNGが出ている為、結衣を専属で鍛えている。
フロスト、憐れな奴だ。
アクアは白亜のスキル【配下能力構成】で物理攻撃力の上昇値を全て魔法に回し、更に魔法特化にしたらしい。ここ最近では基礎トレーニングを終えると、町の診療所で回復の実地訓練を行っている。
容姿も相まって【神の使い】とか【天使様】とか【癒しの女神】なんて呼ばれ始めてると報告が来ていたな。アレクトラもアクアの手伝いをたまにしているとか。
私はそんな事を思い出しながら瑠璃との訓練に集中するのだった。
その日の夜、夕食の少し前に心がボロ雑巾のようになった白亜を連れ帰ってきて、流石にやり過ぎだ。とテアに怒られるのだった。
「……メ…………メシ……私……腹…………減った……」
あっ、死んだ。
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