第185話 「……うわ~」
同じ頃、地上に残りハクアの攻撃で運良く生き残り、砦から散発的に逃げ出して来たモンスターや、爆風に吹き飛ばされて来たモンスターを倒しながら、連合軍は一つの事を考えていた。即ち──。
(((容赦ね~!!)))
そう、国を守るため戦い続けて来た兵士も、数多のモンスターをその手に持つ武器で屠って来た冒険者も、今なお断続的に続く爆発音を聞きながら、ほぼ初めてに近い感覚でモンスターに対して同情を感じていた。
親を殺され、仲間を家族を友を恋人を殺された者達までもがそんな事を思ってしまう程、目の前で繰り広げられる地獄のような光景は今もまだ続いている。
そして、何故あんな駆け出しの冒険者の子供に部隊の作戦を任せるのか? 女王や隊長達に馴れ馴れしいと、心の中で密かに思い多少反発していた者も、その全員が逆らわない様にしよう! ──と、誰も彼もが心に誓いたくなる光景だった。
その頃、後方では散発的に現れるモンスターの相手を冒険者とフープの兵に任せ、魔族を相手取る予定の人間は後方部隊と共に何時でも動ける準備をしつつ、前方の未だ爆音が響く砦を眺めていた。
そして、上空でアリシアがハクア達に引いている頃エレオノ達も又、自分達の仲間が引き起こした惨状を半ば逃避するように眺めていた。
「……うわ~」
思わずエレオノの口から漏れでた声は、その場の人間の気持ちを代弁するかの様な物だった。そもそもここにいる人間はアリシアの様に「砦の真上から魔法を撃つ」としか聞いていなかったので、まさかこんな地獄の様な光景が眼前に広がるとは思ってもいなかったのだ。
クー等はなまじ元魔王として一度はハクア達と事を構えようとした事が有るだけに、下手をしたら自分こそがあそこでハクアの攻撃を受けて居たかも。と、そんな有り得たかも知れない未来を幻視して、両肩を抱き縮こまりながら青い顔をして小刻みに震えていた。
しかも時折りエレオノの耳に、クーの「腹パン位で済んで良かった」とか「逆らわなくて良かった」とか「もう調子に乗らないのじゃ」等と聞こえる気がするが、何を言っても恐怖を煽るだけになりそうなので全力でスルーするしか無かった程だ。
だが思わずここには居ないアクアが居たら、さりげなくクーの事を追い込んでいたんだろうな~。──等と思って、多少アクアの将来を心配するエレオノだった。
しかし、エレオノはエレオノでこの惨状を引き起こしたハクアは、きっとあそこの上空で大爆笑しているに違いない──と、見てもいないのにその姿を確信し、幻視して遠い目をしていた。
「きっと今ごろハーちゃんと、みーちゃんはヒャッハーしてますね」
どうやら、その姿を幻視していたのはエレオノだけでは無かったようだ。
見れば他の仲間も何かを諦めた目をするか、苦笑いをしながらその状況を眺めていたので、恐らくは自分と同じ様な姿を思い浮かべたのだろうとエレオノは一人納得していた。
因みに付き合いが古い人間ほど目が死んでいたし、その事に確信にも近い物があった。
そしてその状況を眺めながら、エレオノは今回の作戦を思い返していた。
今回澪の情報でモンスターの数が約八千、魔族も少なくとも十人は見たという事で、ハクアは何とかその数の差を埋める為、最初に魔法で奇襲をかけ、逃げ出したり統率の取れていないモンスターを冒険者とフープの兵で叩く事にした。
更に魔族の相手が務まるステータスの人間と、エレオノ達は魔族に集中する為に魔族が出て来るまで後方待機という事になったのだ。
そんな訳で、今ここに集まっているのは後方部隊と刻炎、暁の団長、副団長の二人づつと選りすぐり六名程、フーリィー、カークス、エレオノ達だった。
グロスとカーチスカを相手するハクア達とAランク以外は、ノルマとしては一人一体を相手取る計算で待機していた。本来ならばもっと人数を割きたかったが、モンスターの数とこちらの数の違いから、どうしても無理をする必要がある──という事だった。
そんな事を思い出していると、前方のモンスターと戦っていた冒険者達がいきなり吹き飛ぶ。
何が? と、思い身構えていると、前方から何かがとてつもないスピードで近付き、それが砦を囲んでいた壁らしき岩塊を投げ付けて来ているのだと理解した。
──その瞬間。ドガアァァア! と、轟音を響かせ地面に激突した超スピードで飛来する岩塊を何とか全員が避ける事に成功する。
幸い、戦いが始まった段階で後方部隊とは少し離れていた事で、後方部隊には多少の余裕を持って回避する事が出来、被害が出ずに済んだのだ。
そして、岩塊が叩き付けられた事で巻き起こった砂ぼこりが晴れるとそこには──。
「クカカ! 久しぶりだナ、お前ら」
「今度は逃げられないわよ」
かつてエレオノ達を圧倒したグロスとカーチスカが並び立っていた。
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