第184話「「燃~えろよ燃えろ~よ♪」」

 それは偶然だった。思案中、何かに反射され光が顔に当たった。外には反射する物等無いのに何故? ──その事を不思議に思い窓から眼下のモンスターを眺めると、マハドルの目に写し出されたのは人間の子供程の大きさの氷柱の様な物が、待機させていたモンスターの頭に当たり、そのまま地面に縫い付けている光景だった。


「はっ?」


 思わずそんな間抜けな声を出してしまったマハドルの目に、頭上から更に物凄い勢いで大小様々な大きさの氷柱が、眼下のモンスター目掛けて降り注ぐ光景がうつる。


 その時になって漸く呆然とした状態から抜け出したマハドルは「避けろ!」と叫ぶが、眼下のモンスターに頭上から高速で降り注ぐ氷柱を避けるすべは無く、貫かれる者、地面に縫い付けられる者、四肢を落とす者、頭部が弾ける者、臓物を撒き散らす者で眼下は溢れ返り、まるで地獄の様な光景を作り出している。


 そしてその氷柱は地面に到達し突き刺さると同時に、自らが貫いたモンスターや血液と共に地面をも凍らせ、その周辺に居るモンスターの足を縫い付け、致死の氷柱があたかもそれ等を狙うかの様に降り注ぐ。


 居ても立っても居られずにマハドルは窓から飛び出し【結界】を張りながら上空からの襲撃者を睨むが、やはりその姿は見えない。

 しかし、それでも上空に向い魔力その物を砲の様に放射して、牽制と氷柱の撃墜を同時に行ないながら、周りのモンスターや騒ぎに気が付きやって来た魔族に迎撃と防御をするよう叫びながら指示だす。

 そして同時に空を飛ぶ事の出来るモンスターに上空に上がり、襲撃者を殺すように命令を下した。──が、その指示を出すのは少し遅すぎた。


 マハドルの指示に従い動き出そうとする周囲の者達。

 だが、その行動を果たす前に上空から今までの物とは違う光が降ってきた。──いや、頭上を見上げていた者からすれば、それは降ってきたというよりも、迫ってきたという方が正しかったのかも知れない。


 それは蒼い太陽の様だった。頭上から眼下に向い放たれた事で超高温の蒼炎の塊は大気中の酸素を巻き込み、地上に到達する頃には更に巨大化し激突の瞬間巨大な爆発を生み出した。


 更には先に降り注ぎ地面をも凍らせていた氷柱は、その超高温の蒼炎に一気に蒸発しその水蒸気が更に水蒸気爆発を起し、頭上にばかり気を取られていたモンスターや魔族を不意の一撃が襲う。

 そして攻撃はそれだけに留まらない。

 万が一の場合を考え、各所に分散していた火薬にも炎は燃え移り、至る所で爆発が起こり被害は更に広がっていく。


 この時点でマハドルの用意した手駒は四分の一程減らされ、残りの手駒でさえ無傷な者は少なくなっていた。

 だが、この時点でマハドルにはどうする事も出来ず、ただ頭上を睨み付け怨嗟の声を吐き出す事しか出来なかった。


 そして、砦を焦土と化しその状況を上空から見下ろし爆笑している人間が居た。それはもちろん眼下の惨状を引き起こした張本人達だ。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 砦が悪夢の様な状況になる少し前、遥か上空からハクア達は砦を見下ろしていた。


 エルマン渓谷にある砦は、砦とそれを囲む壁で構成されており、澪の言っていた通り、壁の上には四方にそれぞれ大砲が設置して在り、壁の中には所狭しと様々なモンスターがひしめき合っていた。ハクアはそれを上空から確認すると、一緒に着いて来た仲間に振り返る。


「いい感じにモンスターだらけだね。一万位はいるんじゃない?」

「ご、ご主人様本当にあの数のモンスターを何とか出来るんですか?」

「全部は無理だが最低でも半分にはするつもりだろ白亜」

「まあね。じゃあ始めようか?」


 現在この上空にはハクアの他にアリシア、澪、アクア、ヘルの五人が居た。今回の作戦にはこの五人が不可欠という事でハクアが選んだ人選だ。


 ハクアがそう言って準備に取り掛かる。

 するといきなり澪と二人で「「三分魔法クッキング~」」等と、妙なノリと軽快な音楽を口ずさみながら、空間魔法でしまってあった油を大量に取り出した。(この油は作戦開始前にアリスベルでハクアが大量に買い込んだ物だ)


 ハクアは「本日の材料は油と油です」と、言いながら澪に油を渡し、受け取った澪はそれを混ぜ込みながらギフト【氷の女王】を使い、大気中の水分を先の尖った巨大な氷柱に形成し何本も作っていく。


 アリシア達はハクアに上から魔法をぶち込む。としか聞いていなかった為、アリシアとアクアがメンバーに選ばれた時点で、インフェルノを放つものだとばかり思っていたが、予想が外れた事で二人の行動を興味深く眺めながらハクアへと質問する。


「ご主人様? それを落とすだけなら、私達は来なくても良かったのでは?」


 と、聞くとハクアは「いや、二人にはこの後インフェルノ撃って貰うから、合図で撃てる様に準備しといて」と、言われ。アクアと二人、魔力を高め何時でもインフェルノを放つ事が出来る様準備を始める。

 暫くすると出した分の油は使いきりいよいよ攻撃を開始した。


 澪の作った氷柱は音もなくどんどん落ちていき、その内の幾つかはハクアの風魔法で、時には思いきり風で押し超スピードに、時には風で方向を調整し大型のモンスターへ、更には小型のモンスターに向かう氷柱は、風魔法で砕き散弾の様に突き刺さって行った。


 しかし、モンスター側も殺られるだけでは無く、何体かは反撃の為火などの魔法や、固有能力を放つがそのどれもがこの遥か上空には届かず、なまじ距離が有る為届いても威力が減衰しており、威力の減衰した攻撃ではハクア、アリシア、ヘルが足場にする為に張っている【結界】の前に虚しく散っていった。


 また、一部の先走った翼を持つモンスターは、その羽や翼で飛び上がりハクア達の元へ飛ぼうとしたが、それらは全てヘルのスナイプにより羽や翼を撃ち抜かれ落下して行き、氷柱の餌食になっていた。

 そして、いよいよ突然の奇襲から立ち直ったモンスターが、本格的に迎撃に出ようとした瞬間。ハクアがアリシア、アクアにインフェルノを放つ指示を飛ばす。


「「インフェルノ!!」」


 瞬間、二人の成長した魔力により今までとは比較に成らない程の高温の蒼炎が眼下へと放たれる。その蒼炎は大気中の酸素を巻き込み、距離を進めば進む程巨大化していく。そして地上に到達する頃には二十メートルは越えそうな、特大の火球となり地上へと炸裂した。


 ドガァぁぁぁぉぁぁお!!!


 地上へと到達した特大の火球は轟音と共に爆発を起し、眼下のモンスターを駆逐し焼き尽くしていく。

 そしてハクアが澪に向い「行け!」と言うと、今の今まで何かに力を集中していた澪が集中を解く。その瞬間、またしても眼下で大量の爆発音が大量に響き渡り、爆発によって散っていった炎の欠片がまた別の場所で火薬にも引火し爆発を連鎖させていく。

 そして数分も経たないうちにアリシア達の見ている前で、砦だった物は形や意味を失い、壁の内側でひしめいていたモンスター達は、地獄の様な光景を演出する為の、おどろおどろしいオブジェと化す。


 自分でやった事とはいえそのあまりの光景にアリシアが引いて居ると、目の前ではハクアと澪が爆笑しながら「「燃~えろよ燃えろ~よ♪」」と、何やら肩を組ながら陽気にテンション上げて歌っていた。

 その光景にアクアがボソリと「……鬼畜ゴブ」と、言っていたが、反論のしようも無いのでアリシアとしては必死に全力でスルーに勤めるのだった。


 更にハクアはひとしきり歌うとまたも空間魔法で油を出し澪と二人、文字通り遥か上空から火に油を注いで楽しそうに笑っていた。そして、アリシアが眼下の惨状に若干同情を覚え始めた頃、油を全て出しつくしたハクアは、次に火の魔石を取り出し盛大にばら蒔いた。


 火の魔石とは通常の魔石とは違い、魔石自体に属性が宿っており、それを材料に使う事でより効果の高い道具等が作れる物である。

 そして、一部の家具等にも様々な属性の魔石が使われているが、属性の魔石は貴重でそのどれもが総じてべらぼうに高い。ハクアはそれを有る方法で大量に入手し眼下の炎の中に投げ入れた。


 属性の魔石は魔石の中に、その属性自体が凝縮される形で入っている様な物だ。すなわちその火の魔石を炎の中に投げ入れば当然──ドガァァィァア!!!! と、投げ入れられた魔石は、その中に眠る火の魔力を解放し爆弾と化し、留めとばかりに眼下の惨状をより悲惨な物に変える。


 手持ちの道具をほとんど使い終えたハクアは、その光景を眺めつつ「戦争って悲しいね」とでも言いたげな顔で、一人うんうんと頷くハクア。

 そして、ひとしきり頷くと更に火の魔石を纏めて投入して──ドガァァィァア!!!! と、最後に一際大きな爆発を起こした後、「さて、そろそろ下に戻ろうか?」と、実に良い笑顔で皆に振り返るのだった。


 そして、このハクアによるファーストアタックで、マハドルの用意したモンスターはその数を三分の一にまで減らすのだった。

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