第183話ハクアの事を甘く見てるト手痛い目にアウぜ?

 エルマン渓谷の砦の中、モンスターと複数の魔族を束ねる立場のマハドルは、クールルアイズというモンスターの報告を受けていた。


 このモンスターは二体で一組のモンスターで、戦う力などは無いが気配が薄く見付かりにくい、さらにどちらか片方が死ぬと対になるもう一体も死んでしまうという特性を持っている。

 しかし、このモンスターは対になる一体が見た物を共有出来る能力を持ち、また片方が見た映像をもう片方がプロジェクターの様に映す能力も在った。魔族は大規模な作戦等に諜報役として扱っていた。


「人間ドもが動いタ様デス」

「そうか、お前達は引き上げろ」

「はイ」


 マハドルの言葉に従い気配を消すクールルアイズ。実はこの種族の個体数はそれほど多くなく、貴重な存在の為戦いの場からは逃がす決まりになっていた。

 マハドルはその決まりを煩わしく思いつつも、監視の為に澪に張り付かせていた内の一体を澪により処理されてしまった為、仕方がなくこの場から逃がした。


 本来ならば戦場を俯瞰的に見る為に使いたかったが、これから始まる戦いも所詮先日の騎士達の様に、大した手間も無く処理出来るだろうと思い、多少面倒だがしょうがないと切り替えた結果だった。

 そんなマハドルに話し掛ける者が二人いた。


「クハハ、やっぱり裏切りヤガったかあの勇者」

「まあ、承知の上で泳がしていたんでしょうけどね」

「グロスにカーチスカか……何のようだ?」


 今回の作戦に当たり援軍にとやって来たガダル付きの二人。マハドルはこの二人の事をあまり信用していなかった。


 マハドルはグロスやカーチスカの仕えるガダルでは無く、もう一人の二強である魔族の部下であったからだ。この人間の勢力を削ぐ作戦はマハドルが主の為に絵図を書いた物だった。

 それ故に雌雄を競うガダルの直属の部下は信用が為らなかった。しかし、実際こうして仲間として扱っているのは、この二人がそれほどに強力な力を宿しており、この作戦で役に立つ駒だと判断した為だ。


「ナニ、ただ単に釘指しにキタだけだ。ハクアやあの勇者は俺のエモノダから手ぇ出すなよ」

「次いでにそのお仲間もね」

「ふん。何に拘っているか知らんが好きにしろ」


 実際マハドルはハクアや澪の事は対して気にも止めていなかった。その理由の一端として、ハクアと澪の戦いを見ていたからだ。


 確かに並みのモンスターなら十分に屠る事は出来るだろうが、強めのモンスターましてや魔族相手ではなすすべも無く、一方的に虐殺されるのが関の山だろう。と、いうのが戦闘を観察したマハドルの考えだったのだ。


「クハハ、オイおいハクアの事を甘く見てるト手痛い目にアウぜ?」

「そうね。アレは何をするか分からないわ。十分に注意するに越した事はない」


 その二人の言葉にたかが転成者しかも元ミニゴブリンと言う、最弱種からの進化個体に魔族とも在ろう者達が何を警戒する必要がある。と、内心では思っていたが。


「下らん。と、切り捨てるのは早計か注意はしておこう」


 と、返した。

 二人はその言葉に満足し「奴等が来たら勝手に動く」と、言い残しそのまま部屋を出て行く。マハドルはその背中を見送りながら、あの白い少女の何があの二人をしてあそこまで警戒させるのかと考える。

 しかし、所詮は雑魚とクールルアイズの報告で見た戦闘の情報しか持っておらずその考えは保留した。


 そして考えるのはもう一人の勇者、当初仲間に降ると言った時マハドルも必ず裏切るだろうとは思っていた。(予想外だったのは以外にも積極的に動いていた事だった)


 だからこそマハドルは勇者一人一人に与えられると言うギフトの能力を探ろうと仲間に引き入れた。

 結果としては芳しく無かったが、その代わりに共に降った仲間の騎士と女騎士の実力は知れたので十分に成果は在った。

 そして今回の戦いで澪とハクアの本気の殺し合いを見た事で、二人の実力、更には澪のギフトまで判明したのはマハドルに取って僥倖と言ってもいい成果だった。


(ギフトの力は領域系。範囲内の温度を下げる事で身体などに影響を及ぼすと言う物、驚異にはほど遠いい。他にも二人程戦闘力のあるものは居たが、数に物をいわせモンスターを宛がい、疲弊した所を叩けばどうという事は無い)


 マハドルは一人、先の戦闘で得た情報を整理し相手の戦力に上方修正を加えたが、それでもこの戦いの勝率の高さにほくそ笑む。

 向こうはフープの兵を加えても精々三千、それに引き換えこちらはモンスターだけで一万に魔族も私を含めて十人いる。

 来るなら来いここが貴様ら人間の墓場になる──そう思いながらマハドルは窓から砦に待機させてあるモンスターを見た。


 しかし、マハドルは知らなかった自分がこれから相手する者の中に、正々堂々も正攻法も無い、非常識の塊が居るとは──。


 そしてそれは、頭上から突如降り注いだ大量の氷柱と、目を焼く様な爆炎による爆風と熱風にさらされ、血や臓物、焼けた肉や炭の臭いをさらして死んでいく、地獄の様な光景を彩る為に使われた自軍のモンスターを見て思い知らされる事となる。

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