第119話何だその波乱万丈な人生?!

「──と、言う感じだ」


 ライアスの訪問により始まった周辺諸国の動向調査の報告に、私達は何とも言えない空気になっていた。


 王都に関する大まかな流れはこうだ。


 1聖国の勇者召喚に呼応するように勇者召喚を行う。


 2召喚した勇者を囲い最低限の訓練だけして勇者を放り出した。


 3その勇者達に協力をしない国を魔族の手先として断罪すると公表し、幾つかの村はロークラに攻め込まれたらしい。


 実際、このフリスク地方には王都としてロークラが在る。──が、この他にも幾つかの小国は存在するらしい。それなのに何故ロークラが人種の王都と呼ばれているのか?


 少し長い話になるがそれはかつて魔族領が封印されるよりも昔、まだ様々な国にそれほど力の差が無く、レベルと言う概念すらこの世界に無かった頃、一体の強力な力を持った魔物が自らを魔物の王。魔王と名乗り他種族全てを蹂躙し全ての種族を巻き込んだ戦争を起した。

 しかし、この戦争で争ったのは魔族対全種族では無かった。

 魔族に攻め込まれた種族を他の種族が襲い我が物とし。また、魔族から守った代わりに属国として扱われる事も有った。


 この事が良くも悪くも今現在の多様な種族が生まれる切っ掛けになったとはいえ、様々な種族がこのアースガルドの覇権を争う泥沼の戦争になり、アースガルドは乱れに乱れた。


 そして、その中で唯一搾取されるだけだった存在が人種である。

 魔族やドワーフ、獣人の様な強靭な肉体も無く、エルフや精霊、妖精の様に魔法も使えない。そんな人種は多種族から見れば餌であり、家畜であり奴隷でもある、唯の資源の一つだった。


 魔王が生まれてから長い時間が経ち、人種が人としての尊厳を全て奪われた頃。それでも、人種の中には神に祈りを捧げる人間が居た。

 どんな目に合っても資源の様に扱われ、人としての生き方さえ出来なくても祈りを捧げる。その少女の姿に女神は心を討たれ、アースガルドにレベルと言う概念を作り、勇者と言う強力な力を宿す人間を呼び出す方法を教えた。


 その少女は長い刻の中、エルフの奴隷として扱われ、魔法を暴力として振るわれる内に、辺りに漂う微精霊を感じられる様になった。

 当時初めて人間の中で唯一魔法の素質を開花させた者だった。そして、少女が女神から教わったこの魔法こそ、勇者召喚の魔法である。


 少女は女神からの神託に震えながらも、勇者召喚の儀を執り行った。

 そして異界から召喚された少女と同じ歳の少年。彼こそが、後に人種の人間としての尊厳を取り戻し、他種族と協力して始まりの魔王を討ち倒し、人種を一つに纏め上げ人種の国を造り上げた。初代ロークラ王 ムツクラ ショウだった。


 因みにこの女神って駄女神?


『シルフィン:私じゃないですよ。その女神は私の前任者ですね。あの方なら邪神の方と一緒になり寿退社しました』


 何だその波乱万丈な人生?! つーか、前任者って?


『シルフィン:私はアースガルドを創造してからは、転生者を探すだけでしたからあの方が辞めるまであまり関わっていないんですよ』


 そうなん? ま、まあ良いか。


 そんな訳で、今存在する各地の王族はその殆どが元を辿れば初代勇者の血族に当たる。だからこそ王を名乗るのも必然だったと言えなくもない。

 だがそれも今となっては関係の無い事だ。

 それぞれの国々で領地を自治してきたにもかかわらず、ロークラの宣言により事態大きく変わってしまった。


 実際攻め込まれた村などが出た事でロークラ周辺諸国の村や街、国は今まで王都に与せず自らの力でやって来た。

 しかし、それも勇者を歓待するほど蓄えも稼ぎも無い為に王都の下に着き属国と成るか、王都の占領地となり軍門に下るか。

 もしくは王都や賛同国、勇者を相手に戦うかの選択を迫られて居るらしい。


 しかもその勇者何だがライアスが調べた結果、まともに勇者業をしてるのは少ないらしく、他は好き放題して町や村を食い潰したり、全く姿を現さなかったりと散々らしい。


 ロクでも無いな勇者! つーか、勇者と言うよりウイルスに近いな。


『シルフィン:私もここまでとは……』


 分かんなかったの?


『シルフィン:私が管理出来るのは転生者と世界のシステムですから』


 極端すぎね?!


『シルフィン:私達も万能では有りませんからね。それに、勇者召喚は私とは独立していますから、なかなか手が出せません』


 ふ~ん。


「他にもまだ情報有る?」

「そうだな。幾つかの国はロークラと対立する事を選び、軍備を整えてるって話だぞ。特にテンドラ領のオームって国は、勇者召喚までしたらしい」

「そうなの?」

「それに呼応して周りの国も徴兵してるらしいからな。かなり大規模な戦争になるかも知れん。それと、騎士国フレイスだが、王都に逆らいはしないが今回の事に反対らしく、魔族の動きがいつ有るか分からん。と、言って静観の構えらしいぞ」

「いろいろな国がかなり派手に動いている様じゃな」

「因みに、その周辺の国でトップが替わった所とか有る?」

「ハーちゃんそれって……」

「あるぜ。つっても嬢ちゃんが気にするもんでも無いと思うぞ」

「何で?」

「その国の王はロークラ王の腹違いらしくてな、小さくて廃れた領地を押し付けられて、いろいろと無茶をさせられて居たんだが、結構前から体の調子が悪くて今年遺っち待ったらしい。んで、その後を継いだのが17~8の子供らしい。まあ、噂だから正確な年齢は分からんがな。

 そんな訳でこんな時代だ。王都に吸収されるか、攻め込まれるかどっちにしても続かねぇーだろうな」

「そうか」

「あぁ後、聖国は勇者召喚してから訓練を続けているらしい。今は何でも近くのダンジョンに潜らせて力を付けさせてるとか……それと、その内の一人が先日魔族の襲撃に逢い、孤軍奮闘の末殺られたらしいぞ」

「……ほう」


 ふむ。そんな感じで公表したか。実際公表するかどうかは分かんなかったんだよね。だってあれだよ? 自国だからって遠慮何てしないでしょ? まあ、勇者が孤軍奮闘の末の戦死とか、良い感じのプロパガンダだにはなるか。それとも……。


「そんな……」

「くっ!」


 その話を聞いて、結衣ちゃんとフロストがそれぞれ反応する。


「嬢ちゃん。どうしたんだこの二人?」


 ふむ。まぁいいか。


 私はそう結論付けライアスに二人の事を話す。後ついでにあの勇者の事もね。


「……マジかよ」

「おう。勇者はキッチリ倒したぜ! つっても、私が知ってるのは生きて逃亡してる筈だけどね」


 まあ、多分死んでるのがそうだけど。つー事はあいつ等が殺した? でもなんの為だ。そもそも勇者召喚は何でしたんだ? ん~んん? 駄目だ考えても分からん。諦めよ。


「ライアス。とりあえずこれ」

「何だこれ?」

「情報料」

「おいおい、金貨10枚はやり過ぎだろ!」

「それだけの価値は有ったよ。んで、出来ればこれからも情報集めて欲しい」

「はぁ、たくっ、しょーがねーな。この情報料は前金含めて貰っておくぜ」

「好きにして良いよ」


 こうしてライアスは話を終え家を後にする。残された私達は暫くの間誰も話さなかったが、ここでこうしていても仕方がないので当初の予定通りギルドに行く事にした。


 本当にどうなる事やら。

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