第120話『シルフィン:いえ、別に……』
「ねぇねぇハーちゃん?」
「どったの?」
「うんと、さっきの話に出て来たムツクラ ショウって……」
「うん。多分……黒ちゃん。じゃ無くて姉さんの友達だったあの人だと思う。ムツクラ何て名前滅多に無いし」
「やっぱりムー君なんでしょうか? でも何で私達今まで忘れてたんでしょう?」
「それは多分、ショウがここに残る決心したから、元の世界で支障が無い様に記憶が消えてたんだと思う。で、私達はこっちで名前聞いたから思い出せたんだよ」
「そうなんですか?」
「うん」
ムツクラ ショウ。
恐らくは六倉 翔と書くこの初代勇者となった人物は、私達の知り合いだった。正確に言えば私の姉の友人。
私達も何度か遊んで貰った記憶が在るが、その度に姉にボコられていたのがとても印象に残っている。
この六倉 翔がどんな人物かと言えば、一言で言うと正に主人公の様な人間。成績優秀、運動神経抜群、人当たりも良く、悪事を見逃せない、強きを挫き弱きを助ける。それが六倉 翔と言う人物で姉が私達以外で唯一気を許している人間だった。
今にして思えば姉とはどんな関係だったのだろうか。恋人? いや、それだけは無いな。どちらかと言うと観察対象って感じか? それに、翔なら勇者として世界の一つ位救っていても納得だった。
子供の頃はただ凄いとしか思わなかったが。今にして思えばあの運動能力は異常だったしね。
「でも、それじゃあムー君って……」
「とっくの昔に土の下……だね」
「……悲しいですね」
「……まあ、ね」
しかし、瑠璃に翔、結衣ちゃんとその他の勇者。これだけ私の周りの人間が呼ばれるのはおかしく無いか? あの駄女神まだ何か隠してる?
そんな事を思いながらギルドに行き、それぞれで良い依頼が無いか探していると、ギルドの職員にギルド長が呼んでいるので執務室まで来て欲しい。と、呼び出しを食らう。
私、ギルド長に呼び出し受けすぎじゃね? 全く、私ほど品行方正な人間を何度も呼び出す何て。
『シルフィン:えーと、品行方正とは、心や行いが正しく立派なさま。「品行」は行い・振る舞い・行状のこと。「方正」は心や行いが、正しくきちんとしているさまですね』
何かな?
『シルフィン:いえ、別に……』
駄女神とそんなやり取りをしつつ執務室に入ると、ギルド長が椅子に腰掛け書類を読んでいた。
良かった。あのハゲ手前居なかった。居ると面倒だしね。
「急に呼び出して済まない。掛けてくれ。君達を呼び出したのはアリスベルとフレイスの決定を伝える為だ」
「「「決定?」」」
そこからギルド長が語ったのは、前に話した西の魔族はウィルドでは無かったが中位の魔族だったらしい事。
そして、騎士国と共同で各支部のギルドに情報を回し調べた所、ガダルらしき魔族がリクレス領付近で目撃され、調査の結果グロスやカーチスカを含めた、複数体の魔族と強力なモンスターが居たらしい。
アリスベルとフレイスはこれを受けて、共同で討伐する事に決めたらしい。
決行は二週間後、小型のモンスターもかなりの数目撃されている為、なるべく全員参加が望ましい。と、言うことだ。
とは言え、総力戦になるだろうからほとんど強制だろう。
「それで、君達はどうするかね?」
「何でわざわざ呼び出したの? それ、全員に伝える事だよね?」
「君達は因縁がありそうだったからね。それにこれは君達の功績でも有る。早期に発見出来たのは間違いなく君達のお陰だ」
「そうか……」
「私達はご主人様に従います」
「アリシア……、じゃあ、参加で」
「良いのかい?」
「うん。と、言うより戦力は少しでも多い方が良いでしょ」
「確かにな」
「でも、簡単に見付かり過ぎてる気がする。魔族だけならともかく、モンスターまで集めればどうしても目立つ。陽動の可能性も有るから出来れば防衛戦力は残すべき」
「確かに、私もその可能性は有ると思うが確証は無いだろう? それに敵の拠点は結界で姿を隠していた様だ。だからこその行動であるとも取れる」
「まあね」
「わかった。では、この件に付いては良しとしよう」
「他にも何か?」
「この紙は君がカラバス氏に技術提供したらしいね」
「そうだけど」
「その事で他の十商が君の事を快く思っていないらしい」
ほう。あんだけ毎日の様に書簡で会って話がしたいとか、いろいろと言ってるくせにか、良い度胸してるね流石商人。嫌いではないぜ。
「そして、その中の一人が君の事を狙っているらしいんだよ」
「そこまで分かってて何も出来ないの?」
「ああ、ギルドとしても何とかしたいのだが……ハッキリと言うと、君を狙う十商は後ろにこの国の王が居るんだ」
「なるほど」
アリスベルは商業都市と呼ばれているが実はちゃんと王が居る。
実質この国を取り仕切るのは十商だが、この国の商人は王に上納金を払い商売をしている為、王に販売許可を止められれば如何に十商と言えど商売出来なくなる。そしてそれはギルドも同じ事だ。
今回の件でギルドが手を出せば、確実にバックに居る王が取り潰しに来る。それでも何とかしたければ、取り返しが付かないレベルの証拠と共に一気に決着をけなければ、証拠もろとも消される事になるだろう。
う~ん。政治の匂い。超面倒。
「分かった。それはこっちで何とかする。もしもの時は協力して」
「分かった。約束しよう」
こうして私達は執務室を後にし、ダンジョン内の採取クエストを幾つかの受けてギルドを出る。
「ご主人様。やっぱり参加なさるんですね」
「まあ、私達そんな強く無いけどね。それに、ここに来られて私達だけで戦う事になった方が困るし、何より今回ので仕止められてくれれば苦労しなくて済むしね」
私のマイホーム壊れたらどうしてくれる。
「それもだけど十商の方が問題じゃない? カーラさんに相談してみようか?」
「一応するけど多分無理かな?」
「何でなのじゃ?」
「バックに王が居るって事は、カーラよりも多分上の位だからね」
カーラ曰く十商は数字が若い程発言力あるらしい。
「話し難しいゴブ」
「私も何が何だか」
アクアと結衣ちゃんはギブアップな様だ。
「取り合えず考えは有るから大丈夫だよ」
「まあ、ハクアが言うなら大丈夫かな?」
そして私達はその足でダンジョンへと向かうのだった。
く~。久しぶり! 頑張ろう!
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