第402話つまり……頭の中パァンッしたら良いんだね!
私の言葉に今までの楽しそうな雰囲気から一転、苦虫を噛み潰したような顔になり、ポロポロと問題点や改善点があがり始める。
色々と言ってはいるが要約すれば一つ目は戦闘。
各自のコンビネーションと切り替え時の動作の悪さ、役割の欠如。
二つ目は索敵。
自分達が今まで如何に無警戒に旅を続けていたかが分かったようだ。
三つ目はその他の雑用だ。
水源の確保、道具や装備の整備、食料の確保に調理など。
改善点は概ねこの三つ。
そしてこの三つはこいつらがカイルにやらせていた事である。
索敵、雑用はもちろんの事、この間一緒にクエストに行って分かったのは、戦闘でも思った以上にカイルが働いていたという事。
前にカイルは逃げているだけで戦闘の役には立たないとアベル達は言っていた。
だが、その内容は百八十度違うもので、確かに攻撃力が無い事で攻撃には参加出来ない。
しかしそれを補うように、戦闘職が戦いやすいよう敵を引き付け、後衛にも敵意が向かないようにコントロールしていた。
これならばカイルの事を軽視していたアベル達が、曲がりなりにもこれまでクエストを上手くこなしていたのも頷けると言うわけだ。
まあ、それが分かってたから手っ取り早くあんな所に放り込んだ訳だが、でもこれで……。
「索敵の重要さは身に染みて分かったみたいだね」
「ああ、それは痛い程思い知ったよ。今までは強ければそれだけで良いと思ってたけど、実際は全く違った」
「ええ、戦闘において先に相手を見つければ、これ程有利に事が運べると思い知りました」
「そうね。ヒストリアの言う通りだわ。MP管理の観点から言っても、先に敵を見つければ回避する事も出来るし、戦闘は格段に楽になるもの」
「そうだね。戦闘においてそれは重要だ。無駄な交戦を避ければ体力の温存、有利な位置取り、奇襲なんかも可能になる」
「奇襲で少しでも手傷を負わせれば動きは鈍くなりますしね」
「それも体力の温存に繋がるし、相手が居る場合は手の内を隠す事も出来るな」
瑠璃と澪も私の言葉を引き継いで話を続ける。
「もう、そんなに言わなくても自分の仕事の重要性はわかったわよ」
「まあ、そう言うなよダリア。今回はお前だけにやらせたけど、次からはアベルにも覚えさせる予定だからな」
「……それって、私だけじゃ力不足って事?」
「違う。ぶっちゃけ平均がどれほどかは知らんが、少なくとも何回か仕事のした事ある連中以上のスキルはお前に叩き込んだ。それを本格的に使いこなすにはまだまだだろうが少なくとも劣っているという事は無い」
「ならなんで!」
「簡単だ。人の集中はそんなに長くは続かない。それに目は多い方が良い。それは今回の事で身に染みてわかったはずだ」
思い当たる節があったのだろう、ダリアが放っていた剣呑な雰囲気が和らぐ。
そもそも足らないなら足らせるようにするのが私の役目だ。力不足なんて状態で使い物にもならん奴を連れて来る訳が無い。
「索敵かぁ〜。苦手んなだよな」
「何が?」
「いや、その、人の動きや気配が分かるのが落ち着かないって言うか」
「ああ、常に意識しない情報が入ってくるからな」
「確かにアレは最初ちょっと慣れないですね」
「そうけ?」
アベルの言葉に澪と瑠璃も追随する。見ればダリアも頷いているが私には良くわからん感覚だ。
「まあ、お前は元から気配には敏感だったからな。スキルを得たくらいでは変わらなかったんだろう」
「んー。そんなもんかな?」
「ハーちゃんは索敵範囲も精度も私達とは段違いですからね」
「どうやったらそんなになるんだ?」
アベルの何気ない問いに腕を組んで悩む。
うーん。索敵範囲の広げ過ぎで情報の多さに頭の中が、パァンッなったら広がったとか言ったら怒られそうだよね。
ついでに言うと前に脱出の時、オーク倒すのに魔法を無理目に発動して、オーバーヒートしてからも索敵範囲広がって、精度も高くなったんだよなぁ。
つまり……頭の中パァンッしたら良いんだね!
うん。怒られる。
「えーと、毎日地道に使い続ける事かな?」
嘘は言ってない。
「……お前、何隠してる?」
「何も隠してませんのことよ」
「ハーちゃん?」
「だから隠してないんだよ!?」
「毎日かぁ〜。一日二、三時間って所か?」
「えっ? ずっとだよ?」
「ずっと?」
「そうずっと。最初は意識して出来る範囲でずっとスキルを使い続ける。もちろん寝てる間も切らさないように常に人の気配を察知する。それをだんだん常態化して行って無意識でずっと出来るようになるまで持っていくんだよ」
「……マジか?」
「うん。えっ、それくらいやらないとでしょ?」
索敵の重要性は分かったんだよね? なら、それがどれだけ大事か分かるよね?
「因みにコレは澪や瑠璃も同じだからな。今も私達三人はちゃんと索敵スキル常時発動してるぞ」
驚いた顔で皆が澪達を見るが、二人は涼し気な顔で飲み物を飲んでいる。
どうやら余程信じられないのだろう。
私達は弱いんだから常に周囲に気を配るのは当然だと思うけどね。
それでもそれを突破するスキルとかもあるんだから、用心に越したことはない。
「因みに帰ってからのダリアとアベルの修行はコレね」
「「ひっ!?」」
「大丈夫だよ。一週間もあれば使い続ける位は出来るようになるよ。それを常態化するのには時間かかるだろうけどね」
何やらカタカタ震えているが逃がさないんだよ?
「まっ、何はともあれ、お前達は死線を乗り越えたんだ。その事は誇っていい」
「そうだな」
「ですね」
「ああそうだな。もう油断してゴブリンなんかにやられないぜ」
「そうね。もうあんな無様な事にはならないわ」
いやいやいや、何を言っとるのかこの馬鹿二人は。
横を見れば澪達も呆れているようだ。
全く、根本的に勘違いしてるのはまだ治らんか。
もう少し教え込む必要がありそうだな。
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