第591話さ、索引ないとキツくない?

「あれ……?」


 濁流のようになだれ込む知識の波。


 脳にかなりの負荷が掛かっているのか、それに誘発されるように鼻血がタラリと垂れてくる。


 しかしまあ、そんな事はだいたい慣れているのでスルーすると、今度はズキンズキンと頭蓋骨を直接叩かれるような頭痛に見舞われる。


 それにも耐えていると次第にズキンズキンがガンガン、ズガンズガンとレベルアップしていく。


 あー、これスキル貫通してるなぁ。


 たまに起こるスキルを貫通する痛みに耐えながらひたすら待っていると、次第に痛みが引いてきた。


 おっ、終わった。


 脳を無理矢理圧迫する痛みから不意に解放された事で、知識の流入が終わった事を悟る。


「ふむふむえーと……うわ、なにこれ?」


 両こめかみに人差し指を当て頭を捻る。


「どうしたの?」


「えーとなんというか。送られて来たデータ容量が多すぎてフリーズするわ、フォルダもファイルもめちゃくちゃで検索出来ない感じ?」


「ああ、スペック低いと良くあるよね」


「そうそうって誰が低容量の弱機種でい!」


「あー、でも……うんうん」


 どうにか検索出来た情報を見て私は確信する。


「ふふふふふ。この知識さえあれば……遂に炊飯器が作れる!」


「えー……アジ・ダハーカクラスの魔導の知識でやりたい事がそれなの?」


「何言ってんの大切じゃん!」


「いや……まあ……大切だよ? 大切だけどその知識だけで世界滅ぼせるようなモノなのに、作るのがそれなのかなって?」


「いや、世界滅ぼすとかつまんないしどうでも良いわ。それより食! もっと言えば地球以上の家電が作りたいっす!」


 似た物なら確かに今までの私でも出来た。


 しかし試作一号の炊飯器なぞ、パッサパサだったり芯が残ってたり、逆にネチャネチャだったりと散々だった。


 しかもそれが安定した結果として出ないという。


 失敗の方向性が毎回同じなら調整も利くというものだが、毎回結果が違うとなるとそれすら出来ないのだよ。


 だからこそ頓挫していた計画だが、この知識があれば細かい調整も可能!


「クックック。これで踊り炊きを超える炊飯器を作ってやる」


「あっ、それはちょっと興味あるかも。でも、なんで炊飯器? お米炊くの嫌いだっけ?」


「大好きだが? お焦げとかちょー美味いじゃん」


「だよね? ならなんで?」


「大量に作るのはめんどくさい。たまにだから良いのであって毎回は面倒」


「あー、確かにそれはあるか。私も現代で炊飯器使って、いちいち釜の前に張り付かなくても毎回美味しく炊けるのは感動したっけ」


「でしょ! それにほら、炊飯器あれば時短料理とかも簡単に作れるし」


「あっ、ハクちゃんに教わって作ってたなぁ。本当にこれで良いのって思いながら適当に入れて作ったのに、あのカレーとか味しみしみで美味しかったし」


「うむ」


 他にもシチュー、肉じゃが、煮物にパンまで焼ける。もうこれは作らない手がないだろう。


 それに圧力鍋に洗濯機、冷蔵庫は簡単だったからもう既に作ったが白モノ家電は大体作ってみたい。


 夢は広がるばかりである。


 ▶個体ハクアが古代の魔導知識を継承しました。????の種が魂に根付きました。


「フャニァ!」


「うわっ!? シッポ踏まれた猫みたいな反応してどうしたのハクちゃん?」


「うゅ……なんか……えっと……」


 うん。とても不本意だが本当の事を言ったら何を言われるかわかったものではない。だからこそ私もソウに聞かれて口ごもってしまった訳だが───。


「なるほどまたなにかあったんですね」


 そんな私の気持ちをテアが普通にぶった切ってくれやがった。


「見せて下さい」


「うい」


「どれどれー?」


 ヘルさんが居ないので今のログを可視化出来ないが、どうやら元女神二人はそんなの関係なく私を見るだけでそれを覗けるようだ。便利な奴らめ。


「んー? なんですかねこれ?」


「あれ? ソウも?がわかんないの?」


「うん。私でも見れない。テアさんはなにか───」


 ソウの言葉が止まる。


 しかしそれもしょうがない。だってテアが口元を押さえてとても愉しそうに笑いを堪えているからだ。


 正直こうなった時のこいつはもの凄く怖い。だって確実になにか起きるから、その証拠にもう既にソウは私達二人から距離を取り、気の毒そうな顔で私を見ている。


 助けようよ……。


「ごめん無理」


 心の言葉に反応して謝られたなり。


「ザッハーク。白亜さんに黒化の項目の見つけ方を教えて下さい。白亜さんは黒化を試して下さい」


「うい!」


「何故俺が───」


「ザッハーク。私はやれと言ったのですが聞こえなかったですか?」


(おいコラ馬鹿。喧嘩売るなら相手を確かめろ。マジでダメなのはやったら駄目なんだよ! 私だってあの状態の時は逆らわないぞ。私への嫌悪は一旦仕舞っとけマジで!)


「くっ……わかった。小娘、頭の中に本をイメージしろ。そうすれば自ずと分かるはずだ」


「ふむ。本ね……」


 とても不本意そうに言うザッハークの言葉に従い、目を閉じて本をイメージする。


 さっきまではスマホでネット検索するイメージだったが、それでは情報が一気に出て来て全く必要な項目に辿り着けなかった。


 炊飯器作りに必要な情報を見つけられたのも偶然でしかない。


 なので本のイメージをした所で果たして変わるのかと思いながら想像を固める。すると想像の中に一冊の本が現れる。


 これは……。


 本の表紙はアジ・ダハーカをデフォルメ化したなんとも私らいしモノ。


 しかしそれ以外の本の装丁、イメージは私が作ったと言うよりも、デフォルトのイメージに合わせた感じ。ハッキリ言えば私が考えるようなイメージの本ではない。


 古く、重厚なイメージの本。


 しかしそのイメージが、表紙のデフォルメしたアジ・ダハーカの絵で台無しである。正直すまん。


 そんな風に頭の中に突然現れた本の表紙を捲る。


 するとそこには膨大な目次が書かれていた。


 おおう……。さ、索引ないとキツくない?


 パラパラと捲り、先程覚えたばかりの黒魔力と黒化の項目をじっくり探す。


 文字細か。あ、あった、えーと……12458ページ。えっ、この本そんなにページあんの!?


 週刊漫画くらいのページ数に見えていた本だが、何故か私がページを確認しようとしたら厚みが倍以上に増えていた。


 えー、なにこれ? もしかして私が認識出来てないと本当のページ数がわかんない感じ? 本当のページ数いくつよこの本……まあ、気にしてもしょうがないか。


 そのまま目的のページまで行くと、黒魔力、黒化に就いて書かれたページが本当に出てきた。


 ほうほう。大体はさっきミコトに聞いた通りだな。んで、黒化の詳しい方法はっと……。


 目を開けると黒化の方法が書かれたページのやり方通りに力を練る。


 すると体の奥の方から、今まで微かに感じてたドス黒い力の塊が吹き出すのを感じる。


 これか!


 感じた力の手網を握り、吹き出した力をかき集める。


「くっ、あああああああああ!」


 吹き荒れる力が収まると、いつの間にやら私は龍人化していた。


「わぁ、黒髪なのは変わらないけど目まで真っ黒になってるよハクア」


「マジか!? えっ、そんなに変わってる?」


「うん。漫画に出てくる魔族っぽい感じかな?」


「ええ、黒化には成功したようですね」


「ほほう」


 鏡がないから全くわからんが、どうやら無事にちゃんとした黒化には成功したらしい。

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