第590話超簡単に流された!?
「そろそろ時間が無いからさっさと次に行くぞ。こっちに来な天魔の嬢ちゃん」
「そういやずっと気になってたんだけど、天魔って何? ミコトの覇龍は神龍の娘だしなんとなくわかんだけど」
私は第六天魔王になんぞなった覚えはないぞ。
「天魔とは白亜さんの知っての通り、仏教や神道において、魔術や邪法を使い、人々を惑わす存在や力を指す言葉です」
「うん。知ってる」
「一般的には仏や菩薩、神々に対抗する存在、強大な力を持ち、人間の欲望や迷いにつけ込んで利用する所なんざ、そっくりだろ?」
「失敬な!? 誰が人心惑わせ利用しとると!?」
うん。後ろからうわピッタリとか聞こえた気がするけどきっと気の所為に違いない。
因みにもっと詳しく言うと、仏教では天魔は六道輪廻の中で、悪の存在とされ、仏教徒は天魔から自分たちを守り、悟りを開くために修行や念仏などの実践を行う。
一方で、神道では天魔を邪神や魔神として捉えることもあり、天魔に祈願することによって、願い事を叶えるという信仰も存在するとかしないとか。
「まあ天魔は、それぞれの宗教や文化によって微妙に異なる解釈があるけど、一般的には人々の心を煩わせ、迷いや惑いを引き起こす存在として語られることが多いよね。そして確かにハクちゃんっぽい」
失敬な!?
「まあ、それは置いといて、俺が言う意味としては天へ至った魔なる者って事だ」
「なんそれ?」
「通常、モンスターや魔族が神の力に至る事は滅多にありません。しかし稀に天───つまりは神へと至る力を持った魔なる者、天に座す魔、そういった才ある者、至る者を総じて天魔と呼ぶのです。言ってしまえば魔王もそれに類するものですよ」
「つまり私は魔王の類似品と?」
「格でいえば魔王より上だね」
うーん。今まで散々、魔王っぽいとか言われまくっていたけど遂に魔王超えちゃったかぁ。その割にステータスは魔族の中堅レベルというアンバランスさ。名前負け感よ。
「理解はしたな? それじゃあそろそろスキルを作るぞ」
「あれ? くれんじゃなくて作るの?」
「ああ、お前に合う専用のスキルだからな」
むむ。そうか、このクラスになるとスキルを作る事も出来るのか。
「行くぞ」
「おー」
私が応えるとセカンドは私に頭を寄せカプリと手を甘噛みしてきた。
「にょわ!?」
ちょっと非難がましい目で見られるが、全く痛みはないけどくすぐったいのだからしょうがない。
しかしそれも一瞬の事、セカンドに甘噛みされた部分から、力の塊のような暖かいなにかが流れ込み、私の体の隅々にまで行き渡ると、体の中心に再び集まり熱い熱の塊が出来上がる。
▶個体ハクアがスキル【
▶個体ハクアがアジ・ダハーカの力でスキル【
個体ハクアがアーカーシャの真理から【
「おっと!?」
「む!?」
お互いに反応した私達の視線が合う。
そしてなんとなーく。そう、なんとなーく目を逸らしてしまう私。
するとそんな私の肩にポンと手が置かれる。
振り返るとそこには妙に楽しそうな保護者共の顔。
「で、次は何やらかしたの?」
「次はなんです?」
「そういうの良くないよ!? 少しは人の事を信じるんだよ。疑う良くない!」
「「で?」」
「ま、まず最初は確認だよ確認。セカンドは最初から私に四つスキルくれるつもりだったんだよね!」
そう。この一点勝負に掛けるしかない!
「いや、違うが」
はい。しゅ〜りょ〜ギャンブルって一瞬で決まるからやーよ。短い希望だったぜ。
「なるほど、つまり一つのはずのスキルが四つになったと……どうしたらそうなるの?」
「相変わらず白亜さんは摩訶不思議ですね」
それむしろ私が聞きたいのだが?
「俺様が力を渡した時、むしろ吸われる感覚があった。それが原因だろう」
セカンドの言葉に全員の視線が突き刺さる。必死に首を振るが何故か全員納得の色合いが濃い。
理不尽!
「まあ、恐らく【暴喰】の影響でしょう。それよりどんなスキルが生まれたんですか?」
超簡単に流された!?
「えっと……【疾風迅雷】【超神速】【空無】【拡魔】の四つ」
それぞれの効果がこちら。
【疾風迅雷】パッシブスキル
全ての物理攻撃にスピード依存の強化効果を得る。
敏捷の50%を物攻に転化。
攻撃のスピードにより更に攻撃力が上がる。
【超神速】アクティブスキル
10分間、全てのスピードを二倍にする。
再使用30分
【空無】アクティブスキル
5秒の間自身の肉体を別の次元に移し、全ての攻撃を回避する。
再使用24時間。
【拡魔】アクティブスキル
相手の任意の行動を1秒遅くする。
再使用5分
「おお、流石専用スキル。どれもハクちゃんの役に立つね」
「ええ、白亜さんの武器であるスピードの強化に、それを攻撃力に転化する【疾風迅雷】。相手の攻撃を見極める目を持つ白亜さんなら【拡魔】も十分使いこなせるでしょう」
「それに、日に一度とはいえ完全回避が出来るのも大きいですね。ハクちゃんは回避型とはいえ、全ての攻撃を避けられるものじゃないですし。同じようなスキルで【透過】もあるけど、あれは一部の攻撃には適応しないですからね」
「そうなんだ?」
つまり分かりやすく言うと、【疾風迅雷】の攻撃スピードにより攻撃力が上がると言うのは、早い話が力を入れていないジャブが、ストレート並の攻撃力になると思えばいい。
【空無】は次元なんちゃらは置いといて、ホログラムのように、そこに見えるのに触れない。というようなイメージがわかりやすいだろう。
「つまりはこういう事ですな」
「身も蓋もないけど確かにわかりやすいね」
「そうですね」
まあでも、【疾風迅雷】の攻撃力は検証が必要だろうが、牽制目的の攻撃に攻撃力が付くのはありがたい。戦闘の幅が大きく広がってくれるだろう。
しかし逆に【空無】は注意が必要だろう。
使えば5秒間回避出来るらしいが、空間そのものに干渉してくる攻撃にも有効なのか? 次元そのものを攻撃してくる相手も居るかもしれない。
何より、放射系の攻撃を回避した場合、5秒以上攻撃が続いたら結局攻撃を食らうことになる。そこの見極めは極めて重要だ。
【拡魔】の任意の行動を遅くするのも使いようによっては強い。例えば居合、この攻撃を避けるのは難しいが、そこに【拡魔】を使えば1秒の余裕が出来る。
高速の戦闘においてこの1秒という時間は、勝敗を分ける要素に匹敵するだろう。
ただし、その対象をどこまで絞るのか、どこまでを許容範囲とするのか、その辺は検証してからでないと使うのはあまりに危険だ。
反面【超神速】は再使用に少し時間がかかるが、欠点はなく使いやすい性能になっている。
「まあ、なんにせよ使える手札が増えたのはええこった」
「そうだね。ハクちゃんの場合は特にだもんね」
「うむ。さて、それじゃあそろそろ最後の報酬も貰うか」
「チッ……」
私がチラリとザッハークを見ると露骨に舌打ちして来た。
どうやら、一応納得はしたがまだまだ気に食わないようだ。
なんだ、やんのか? ガチンコ勝負以外ならなんでも受けんぞこら。血の一滴まで搾り取ってカスになっても材料にすんぞ。
一瞬ザッハーク達がビクリと震えた気がするが、どう転んでもアイツらの方が強いし気の所為だろう。
そう思って睨んでいると不意にザッハークがニヤリと笑う。
「フッ、良いだろう。そこまで言うのならくれてやる。しかしわかっているのか?」
「あん?」
「知識だけとはいえこの俺の魔導の知識に加え、ファストとセカンドの知識もだ。ただの人間が耐えられると思っているのか?」
勝ち誇るように言うザッハークにちょっとイラッとする私は悪くない。
「この手を握れば知識をくれてやる。しかしこの手を握る事は死の淵を渡る事と同義だと思え」
「いや、前置きくそ長ぇ。死の淵を渡るのと同義だ? 舐めんな、こちとら死の淵なんざ昔からお散歩感覚で行ったり来たりしとるわボケ」
「不憫な子……」
「自分で言い切る所が流石ですね」
だからうるさいよオーディエンス!
ザッハークの言葉をバッサリ切り捨て手を握る。
その瞬間、知識の洪水が頭の中に濁流のように流れ込んで来た。
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