第589話……メイド空間とは?
「……わかった。従おう」
あれから少し経ってザッハークの口から出たのは私の提案───と言うよりも、セカンドの提案を飲む言葉だった。
私の言葉に従うのは癪だが、セカンドに説得されてからは明らかに傾き方が違った。どうやら私の予想以上にセカンドの言葉は信用されているようだ。
「嬢ちゃんもそれでいいか?」
「OKだよ。もともと報酬が不足してるって話だったからね。その不足分が貰えればこっちに否はないよ」
うん。本心で言ったのに何故か全員から胡乱な目で見られた。解せぬ。
「決まったのなら仕方がない。それではまずは吾から報酬を渡そう」
「あっ、その前に質問。結構場当たり的に決めたけど、ミコトってアーカーシャを貰ってなんかスキルや魔法覚えられんの?」
「大丈夫ですよ。普通の子ならいざ知らず、ミコトは神の力がありますからね」
「それなんか関係あるの?」
「あるよー。神は大小あれど空間を操る力があるからね。神の力を活性化させた今なら空間魔法も使えるようになる」
逆に言うとそれくらいないと使えないくらいレアな属性だったのか。
「二人ともこちらに来い」
その言葉に従い近寄るとファストが何やら呟き始める。しかしその言語は私が今まで聞いたことのない言語で、音としては聞こえるが言語という形では理解できない。
うーむ。不思議言語。
理解できない不思議言語を興味深く聞いていると、それは不意に終わりを告げ、ファストの身体を光が包み込み、その光が私達二人の方へ来る。
その瞬間、脳を揺さぶられるような衝撃とともに何かが侵入してきた。
「「ほわ〜」」
「おおぅ。二人共フレーメン反応してる動物みたいに」
「まあ、アーカーシャは知識と言うよりも一種の悟りに近いものですから、脳への負担とよりも衝撃の方が大きいでしょうからね」
「ハッ!? そうかこれがアーカーシャなのか」
「おっ、戻って来た。大丈夫二人共?」
「うむ。平気。頭の中に宇宙が見えた!」
「わぁ。安定的にダメっぽい台詞」
なんでだよ!?
「うぅーん。まだ少しクラクラする……」
「宇宙が見えたと言うのもあながち間違いではないでしょうね。一つの真理や悟りは一種の宇宙にも通じますから。それで何か覚えたんですか?」
「私は空間魔法と神龍領域っていうのを覚えました」
「なんか心躍るワードが聞こえた!?」
「えっと……範囲内に居る龍族の味方のステータスを引き上げるみたい」
ただでさえ厄介なドラゴンのステータスを、身体強化と別枠で引き上げるとか……なにその怖いスキル。
「流石に強力なスキルが生えましたね」
「やっぱミコトが龍神の娘だから?」
「ええ、恐らくそうでしょう。それで、ハクアさんはどうです?」
「えっとパッシブスキルのアクセラレーションってのだな。内容は全ての速度を50%引き上げるって書いてあるけど、全てとは?」
「恐らくは全てと言うのは文字通りでしょう。通常の移動、反射神経、判断能力。それらに付随する文字通り全てが引き上げられているのでしょう」
「ですね。しかも50%という事は、ハクちゃんの能力が上がったり、強化されれば、引き上げられる速度も増すって事ですしね」
「ほほう。つまり元が100で身体強化で2倍とかになれば、そこに×50%で300になる計算って事でいいの?」
「ええ、恐らくそうなるでしょう」
アーカーシャなんて大仰なものの割に地味かと思ったが、私が思ったよりもかなり汎用性が高い良いものだったようだ。
それに知覚も引き上げてくれるなら、思考も速度に追い付かなくなることはないだろうし、そう考えると実は物凄いスキルだな。
「後は【
私がその名を言った瞬間、ミコト以外の全員がその言葉に反応した。
「ハハッ……さっすがハクちゃん。この段階で覚えるかぁ〜」
「なんなん? 説明読んでも全くわからんのだが?」
因みにこれがその説明。
【異速】
異なる空間を移動する事が出来る。
と、ただこれだけである。
「そうですね。白亜さんは移動術式は持ってますよね?」
「うむ。魔法陣の設置は必要だけど、一瞬で行き来できる」
「ええ、ではその一瞬の移動を知覚出来ますか?」
「いや無理だが?」
だって発動したら次の瞬間には移動済みだもの。
「そうです。普通それは誰にも出来ません。しかしそのスキルはそれを知覚する事が出来、またその空間を移動する事で、文字通り異次元の移動が出来るようになります」
うん。わからん!
「そうだな。瞬間移動や空間跳躍と呼ばれるものは、実はこの空間───いや、次元よりも上の次元に移動してその中を通る方法なんだよ」
「……つまり四次元ポケットとスペアのポケット間を移動してる感じか!!」
「うん。もうそれでいいや。で、普通はそれを知覚出来ないで移動するんだけど、そのスキルはその空間を認識、移動出来るスキルなんだよ」
「じゃあこのスキルで一瞬で移動したみたいに動けると?」
「ええ、相応に疲労はするでしょうが出来ます」
おお、便利。
「じゃあその状態で攻撃は?」
「無理です。出来るのは同じ次元にいる相手に対してですね」
「うーんと、じゃあ出来るのは、瞬間移動して来た奴の迎撃と逃亡阻害くらい?」
「そうなります」
「意味ある? いや、あるにはあるけどなんか微妙」
「そうだね。でもハクちゃんには無理でも、上位の相手なら無理矢理干渉する手段を持ってるのもいるし、使えて損はないよ」
まあ、確かに。
感知出来るなら奇襲も防げるし、また勇者の中から瞬間移動能力者が出ないとも限らない。それを思えばいいものではあるか。
「にしても、なんでファストがアーカーシャを提案したのかと思ったけど、ファストの権能もこれを元にしてんだな」
恐らくは空間を指定してその範囲内に居る相手の思考、行動を映し出す。それがあの権能の正体なのだろう。
「……よくわかったな」
「まあ、詳しい事はわからんけどそれくらいわね。それにテアも似たような事出来るよね?」
「フフッ、流石ですねもうバレてしまいましたか」
「これだけヒントがあればね。おかしいと思ったよ、いつもすぐ料理や服出て来るけど、どんだけ早く動いても服は作れたとしても料理は無理だから」
「ええ、おっしゃる通りです。私は固有のスキルとしてメイド空間を持っています」
「……メイド空間とは?」
なんだろう。せっかく分かりかけたものがまた分からなくなった。
「私専用の異なる時間軸の空間を作り、その中でメイドとしての活動が出来るんですよ。それが料理や服を持ってこれるカラクリです」
「それはなんでも出来る空間って事?」
「いえ、出来るのは私がメイドの仕事だと思っている事だけです」
それはなんでも出来ると言うのでは?
「他人に干渉までは出来ませんよ?」
「あらそう」
もうそんなレベルの話じゃないんだよ。
「しかし、なんでそんな勿体ない空間に。私が言うのもなんだがもっとないのか他の使い道!?」
「……白亜さん? この世にメイドの仕事以上の崇高な行動があるとでも?」
「あっ、はい。すいませんした。ナマ言いました。ごめんなさい。私の勘違いでした。どうぞお許しください!」
うん。思わず土下座しちゃったけど目が本気だ。これ、逆らったらいかん奴や。
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