第592話万象力
ふむ、これが黒化か。確かにこれはちゃんと知らないとダメだな。
この黒魔力と呼ばれる力。
これは恐らく鬼の力に性質が近い。
簡単に言えば鬼の力が破壊に特化したものだとすれば、黒魔力は崩壊に近い力だ。
例えるなら手を置いたらその場所から殴ったように壊れるのが鬼の力、対して黒魔力はその場所が砂のように崩れ去る感じだ。
こんなモノを知らず知らずのうちに使っていれば、そりゃ力が安定しないのは当たり前というものだ。
自覚したからと言って急激になんとかなる訳ではないが、それでも知ると知らないでは大違い。
これでも私は基礎を大事にするタイプなのだ。ちなみにトリセツは読まないタイプである。
こんな事、両方の力を扱えて理性を保ってる私だからこそわか───うん。ゴホン。私じゃなきゃ理解出来ずに見過ごしちゃう所だったね。
───流行ってるらしいのでやってみました。
”微妙にもう古いかなぁ”
”そうですね。情報が遅いです”
だから脳内へのツッコミやめてくださいません!?
「で、黒化してみたけどこれがなんなん?」
「もうすぐ分かりますよ」
テアの言葉に首を傾げるがどうやら答えは教えてくれないらしい。だが、その言葉の意味は数秒後に異変となってやって来た。
「あれ?」
初めは鼻血が出た。
その後に視界が揺れ始め、気が付いたら地面が目の前にあった。
痺れる身体に、脂汗が浮かび、体の中で雷がスパークしながら暴れ回るようだ。
「うっあ……」
▶個体ハクアの中で黒魔力を消し去ろうと神力が活性化しています。
なんそれ!?
「いいですか白亜さん。よく聞いて下さい」
頭の中に響くシステム音に思わずツッコミを入れていると、いつの間にか近くに居たテアが私の体を抱き抱えながら、ゆったりと諭すように言葉を紡ぐ。
「今、白亜さんの体の中では神力が黒魔力を消し去ろうとし、黒魔力はそれに対抗して互いに暴れ回っている状態です」
テアの話では、どうやら今までは黒魔力を正しく扱えていなかったから見逃されていたが、それを正しく使えるようになったから神力が駆逐しようとしているらしい。
それなら何故黒魔力を扱えるようにしたのか?
だがその疑問を投げかける前に、本人からその答えがやって来た。
「白亜さんその力も貴女の物です。それを扱わなければ貴女の成長はまた頭打ちになります。それを打破する為にもこれは必要なんですよ」
と、言うことらしい。
「呼吸を落ち着けて集中してください。白と黒の力は互いに互いを消し去る為、今は正面からぶつかり合っている状態です。その力の流れを変えることで互いに反発するように練り上げなさい」
私の中で暴れて衝突し合う部分───胸の辺りに手を置いてテアが言う。
その言葉に従い、目を閉じてその姿をイメージする。
正面衝突している力を軌道をズラして───。
イメージは螺旋。
テアの言葉を聞いてわかったが、白と黒の力は互いにぶつかり合っているだけの訳ではなく、磁石のように反発もしているみたいだ。
その力の方向性を少しズラしてやると、ぶつかり合う力で引き合い、反発する力で離れてを繰り返し、まるで元々が一つの塊のオブジェクトのように螺旋の塔が出来上がる。
身体が熱い。
最初こそ神力である白の力に押されていた黒の力も、白の力とぶつかり合う度に、皮肉にもその力が練磨され、互いに力を高め合う。
「良いです。そのまま……そのままゆっくりと力の根源を辿って下さい」
螺旋の塔となった事でその根元、力の根源は簡単に見付かった。
「その力を白亜さん自身の力で少しづつ染み込ませ、包み込むイメージを……そうです。慌てないで少しづつ……」
▶力の衝突がより激しくなります。
力の衝突によりハクアの身体が麻痺を起こしました。
▶生命力が減少します。
▶生命力が減少します。
▶生命力が減少します。
▶生命力が減少します。
▶生命力が減少します。
▶生命力が減少します。
▶生命力が減少し、命に関わります。今すぐ行為をやめる事を推奨します。
▶システム過負荷がかか───ま───。システムが───した。
頭の中にアラートが響き渡る。
それでも止めないのは、こんなモノよりも信じている人の指示だから。例えそれで死んだとしても、それは私が信じた結果なので悔いはない。
辛い。苦しい。寒い。熱い。辛い。苦しい。寒い。熱い。辛い。苦しい。寒い。熱い。辛い。苦しい。寒い。熱い。辛い。苦しい。寒い。熱い。
何秒、何分、何時間も経った気がする瞑想。しかしそれは突然アラートが消え、身体にのしかかっていた力がふっと軽くなると急激な終わりを告げた。
「おめでとうございます白亜さん」
▶個体ハクアが反発する聖と魔の力を一つにまとめ上げ、聖魔の力を獲得。ハクアの中に芽吹いた万象の種が芽吹きます。
▶個体ハクアが万象力を生み出しました。
▶この世界で初めて生まれた聖魔の個体です。世界は貴女を新たな祖として祝福します。
テアの純粋な賛辞の声。それと同時に聞こえた正常に動作したシステム音声。
「もう起き上がれますか?」
「うん……とっ……なんか頭……ボーッとする」
「テアさん。ハクちゃんのこの力って」
「ええ、万象力です」
「システムも言ってたけど何それ?」
「万象文字通りの意味です。広い範囲の事物や出来事を指す言葉でもあり、あらゆる現象や事象、出来事、状況、観察可能なもの全般を指します。白亜さんの中に芽吹いた力は、神力よりも希少なものですよ」
「……それ今の私が持ってて平気なん?」
「……大丈夫ですよ」
「こっち向けや!?」
こやつ。普通に顔を背けて言いやがったぞ!
「まあ、今までと変わりませんよ」
「ん?」
「今まで通り……扱いが難しい力を手に入れたので修行あるのみですね」
「だから力に慣れる前に強化しようとするの、止めればいいんじゃないですかねぇ!」
「いえ、それは出来ませんでした」
「何故に!?」
「一つはここが最適の場だった事、もう一つはタイミングです」
「どゆこと?」
「万象力は神ですら持つ者が少ない希少な力です。先程言った通り万象───全ての力を一つに纏める事でその力へと錬成します」
「でもね。善神に邪神なんて、神でさえ区別されるのに、万象力に昇華出来る程の聖魔の力を宿してる人って、神でさえ───ううん。神だからこそ少ないんだよ」
神になる一番の近道はどちらか片方に突き抜ける事、いや、突き抜けた力を持つからこそ神に至る資格がある。
そんな中で、聖であり魔でもある存在などどれほど居るか。この話の根幹はそこの部分にあるらしい。
「なるほど……つまり、私の力が偏る前に万象力を身に付けさせたかったと?」
「ええ、白亜さんなら万象力を使えるようになると確信していましたから」
そして何より、今回の戦いで疲弊しまくって省エネモードになっているのも大きな要因らしい。
その方がバランスが取りやすいのだそうだ。
「ですが気を付けてくださいね白亜さん。万象力は今までで群を抜いて強い力なので、下手に制御を誤ると辺り一帯消滅するので」
「あー、前にいましたね。調子に乗って自爆して辺り一帯消滅させた子。確か今は大きな湖か何かになってるんでしたっけ?」
「ええ、確か名前が間違って伝わってシーミズー湖と呼ばれているはずです」
それ明らかに清水とかって奴がやらかしてね? そしてまた私のヤバさが増した件。
なんで強くなるよりも、爆弾や素材としてどんどん付加価値が付いていくのだろうか?
人間の評価のされ方ってこんなんじゃなかった気がするの。解せぬ?
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