第107話〈だから毎回怒られるんですよ〉

 ゴブリン退治を終えた私達は早い段階でアリスベルへと帰って来た。

 永らく放置されていた依頼と言う事で近い所を受持ったから行きも帰りも早かった。


 そんな訳でただいま昼ちょい過ぎ、一番遠いアリシア達は多分夕方位まで掛かるからそれまで暇。


「主様、主様、我実は前から気になっている店が在るのじゃ。其処で飯食いたい!」

「全く、昼用の弁当食べといて何言ってるかな? 夕飯前だよしかも皆が居ないのに。で、場所は何処なの? 肉? 魚? デザート? それともフルコース? 何でも来い!」

「ノリノリじゃな主様!? 勿論肉じゃ!」

「全く、夕飯前にそんな物食べようなんて。良し行くぞ!!」

「お~。なのじゃ!」


 しかし、流石でかい都市なだけあって人が多いな。ウプッ! 酔いそう。


 〈それはもう酔っているのでは?〉


 そんな事を思いながらクーの案内の元、店へと向かう。その途中この世界で初めて見たメッシュを入れた長髪の人間をふと目で追う。


 珍しい。この世界にも髪にメッシュ入れる様な人間が居るんだ?


「なっ!?」

「主様っ!?」


 その瞬間、私はその人間が居た場所へと走り出し何とかその姿を見付けようとするが、人混みに紛れて仕舞ったのかその姿を見失ってしまう。


 勘違いか? いや、でも確かにあれは……。


「ハァハァ、どうしたのじゃ主様?」


 〈マスター?〉


「いや、知った顔が見えた気がして。気のせいかな?」


 〈探してみますか?〉


 お願い出来る? 黒髪に赤のメッシュ入れてる。メッシュは分かる?


 〈大丈夫です。今すぐ調べます──。どうやら視認出来る範囲には居ないようですね〉


「そっか……ごめん行こうか」

「良いのか? 心配なんじゃろ?」

「……見付けられれば良いけど、探し回って警戒されたらそれこそ手が出せなくなるしその方が面倒かな? それに一瞬の事だったから見間違いの可能性も否定出来ないしね」

「まあ、主様が言うのならなら良いのじゃが」


 〈私の方も警戒はしておきます〉


 頼むね。


 〈はい〉


 釈然としない気持ちを抱えながらも私達はクーの気になっていた店に向い食事をする。


 ──いやもう。肉が滅茶苦茶旨かったよ! 本当にナイフが抵抗無くスッと入って、口に入れると肉汁溢れて、肉はホロホロと崩れても~、あの店は当たりだったね。不審な男? そんなもんどうでも良いよ! 今気にしたってしょうがない! 今度は皆で来よう。勿論偶然装って初めての体でな!!


 その後、無事皆と合流した私達はクーの失言により夕飯前の食べ歩きが発覚、二人揃って怒られました。

 まさか正座までさせられるとは……だが私には一遍の悔いすら有りはし無い!


 〈だから毎回怒られるんですよ〉


 ……すいません。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 同時刻──アリスベルの外れに滅多に人が入らない酒場が在る。

 店主の愛想は悪く、スラム街に在るこの店は関係性を知られたくない人間達には重宝される店だ。


 そしてここにも一組の客が居る。


 一人は黒髪に赤のメッシュを入れた男、他には頭からフードを被った性別すら分からない人間が赤メッシュの男の前に座っている。


「あまり勝手な行動は控えて貰いたいのだが?」


 フードを被った人物は目の前の男に注意をするが赤メッシュの男は苛立ちを隠そうともせず「チッ!」と舌打ちをしてから軽薄に嗤い。


「別にいいっしょ? 誰に見られる訳でも無いんだからさぁ。それよりも、まぁだ駄目な訳? オレもぉ早くヤりたくてしょうが無いんだけど?」

「こちらにも色々と準備がある」

「んなこたぁ俺には関係無いしどうでも良いんだよ! あんま遅いとオレ、好きにヤっちゃうよ? オレはアンタ等がどうしてもって頭下げて言うからワザワザこんな所まで来てんだからさぁ。そんなオレに我慢しろとか、大人しくしろとか、アンタ等何様な訳? あんま調子こいてるとアンタ等からヤっちゃうよ?」

「なるべく早く舞台は整える。そちらも獲物を逃がしたくは無いだろ?」

「わぁーたよ。ハイハイハイハイ、大人しくします。これで良いか? じゃあ早く行ってその舞台とかっての用意しろよ愚図共!」

「……分かった」


 赤メッシュの男がそう言ってフードの人間を追い払う。


「クックック、ああ楽しみだ! まさか、こんな訳の分からない所でこんな良い思いを出来るとはね! コレも日頃の行いのお陰かね。女は選び放題。オレに逆らえる奴等はほとんど居ない。その上大概の事は何をしても罪にもならない。ああ最高だ! どうせ無理だと思ってたのにあの後輩ちゃんが本当に逃げたした時はもっと早くヤっていればと後悔したけど……、まさかこんな役目が回って来るとわな。狙ってたあの三人じゃ無いのは残念だけど、死ぬまでオレのペットにして弄んでやる! それに飽きたらあのお嬢様も……今のオレなら、本気を出せば何時でもヤれる筈だ! ああ、ああ早く逢いたいぜ! 神城 結衣」


 ただ一人残った店で赤メッシュは一人、これから先の未来の光景に一人嗤い続ける。

 その頃、赤メッシュと別れ外へと出て行ったフードの人間は別のフードを被った人間と接触していた。


「首尾は?」

「大丈夫だ。早く準備を進めよう」

「了解です」


 そう言って、もう一人の人間は影へと消えて行った。


「しかし、分不相応な力を与えられた人間はああも醜いか……」


 そう呟くとその人影もまた闇の中へと消えて行った。

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