第622話……これ、なんか恥ずかしいね
「ハクア! シーナ! ムニ!」
黒い閃光がハクア達を呑み込み、ミコトの悲鳴のような叫びが木霊する。
しかし───
「助かったよムニ」
「それはこっちのセリフなの。ハクアが最初に一瞬でも防いでくれなきゃ間に合わなかったの。それにその後、ムーの結界を強化してくれたからなんとか防げただけなの」
「いやいや、二人とも凄い反応だったっすよ。助かったっす」
「「役立たず」」
「本当の事だけど酷くないっすか!?」
「良かった。三人とも無事だったんだね」
龍の姿から人化状態になったミコトが呆れながら駆け寄る。
その間にもトリスとシフィー、龍王の二人がベルフェゴールを引き付け時間を稼いでいる。
「ムニのおかげでなんとかね。それより……」
「うん。ハクアの鬼哭龍鳴を食らっても全然ダメージなさそうだね」
「あんなんどうすればいいっすかね?」
「むう。さっきから攻撃が効いてる気がしないの」
「あれ、知らんかったの? 神相手だと特定のケース以外からはダメージ減るんよ。んでもってダメージは増える」
「「そうなの!?」」
「うん」
ちなみにハクアの言う特定ケースとは勇者の称号と職業、光属性と神力の事だ。
上記のものが全くない攻撃はかなりダメージが下がる。
「時間なかったから私も聞けてなかったけどどれくらい下がるの?」
「なんもないとダメージ半分くらいになるね。受けるダメージも結構増える」
「そんなにっすか!?」
シーナの驚きは当然だ。
いくら強力な力を有する龍族と言えど相手は邪神。
そんな敵に対して自分達の攻撃は半分のダメージしか与えられず、向こうの攻撃はより効くようになるなど悪夢でしかない。
「職業や称号って言うのはどんなもの?」
「それは勇者とか英雄だね。聞いた話、あれは世界の免疫力みたいなもんだから、ああいう系統にとっての特効薬みたいな役割りらしいし」
「むう。ムー達の中にはそんなの居ないから、やっぱりハクアとミコト様が頼りみたいなの」
「あれ、でもさっきのハクアの攻撃はなんで効いてなかったんっすか? ハクアなら属性的にも効くはずっすよね?」
「それは超簡単。単純な実力不足だよね」
HAHAHAと自虐しながらヤケクソ気味に笑う姿はなんとも言えない。
とはいえこの状況で普通に自虐ネタにする精神も逞しい。
「やっぱりさっき言ってたあれを試すべきだと思う」
そんなハクアに構わずミコトは真剣な口調でハクアを見詰めながら自分の考えを口にする。
「なにか方法があるんっすかミコト様?」
「うん。一応ね」
「それならハクアとミコト様に任せるの。その間はムー達が時間を稼いでおくの。シーナ」
「了解っす。それじゃこっちは任せたっすよハクア」
言いたい事だけ言ってさっさと行ってしまった二人を見送るハクアとミコト。
「良いのか?」
簡潔にそれだけを口にする。
「うん。だってハクアの事は信用してるしね」
「それはポーズで、実は利用して色々とするつもりかもよ?」
「それならそれで良いかな。だって……ハクアと一緒なら何しても楽しそうだもん」
「……そっか。じゃあサクッと邪神倒して色んな事をしよっか」
「うん」
(……ふへ。ドラゴンの労働力ゲット)
「あっ、急に不安になってきた」
「もう遅い! それじゃやるよ」
「……うん(渋々)」
「一気にやる気なくなっとる!?」
冗談を交わしながら笑いお互いに向き合うと、ハクアは親指を噛み血を滲ませ、手のひらにその血を使い魔法陣を描き込む。
「今ここに汝との絆を結ぼう 共に学び 共に育ち 共に歩む誓いを ここに示す 汝の力我と共に 我の力汝と共に 契約を結び我が声に応えるならば誓いを」
魔法陣を描いた手を出し、正式な詠唱とは少し違う詠唱を唱える。
これからする事にはハクアの契約の仕方よりも、この契約の方が都合がいいのだ。
そしてこれはアジ・ダハーカから貰ったアーカーシャで、ひたすら検索してやっと掘り当てた古い契約の呪文。
長い年月の中、忘れ去られ変わってしまった古い対等な立場の契約。
「汝との絆を誓う 我が力汝の為に 汝が力我が為に 共に歩み 共に学び 共に生きよう」
ハクアの詠唱に応え、ミコトも頭の中に浮かび上がった言葉に魔力を込めながら詠唱する。
互いの魔力がこもった言葉が魔言となり、溶け合い混ざり一つになっていく。
「我が名はハクア」
「我が名はミコト」
「「今此処に互いの名を刻み悠久の絆を誓う」」
ハクアの力がミコトに流れ込み、ミコトの力がハクアへと流れる。
互いの中を互いの力が流れ、循環し契約が完了する。
「……これ、なんか恥ずかしいね」
「そういう事言わないでくれる? こっちもなんかてれりこしそうだから」
「うん。冗談っぽく言ってるけど、本気で照れてるのが感覚で分かる。凄いねこれ」
「わかっても言わないのが礼儀ですのよ!?」
言葉を交わし緊張を解して笑い合う。
「さて、それじゃあ行こうか」
「うん。皆が待ってるもんね」
頷きあった二人は戦場へと駆け出した。
所変わってベルフェゴール戦の真っ最中。
攻撃は効かず相手の攻撃は想像以上にダメージを負う。
そんな状況の中でも龍王やシーナ達は懸命に戦っていた。
熊のような両腕から放たれる攻撃は龍族の身体を以てしても致命の一撃。
皮肉にもハクアが自分達に感じる圧力を自分達が味わう羽目になっていた。
しかもその手から放たれる蜘蛛の糸がまた面倒だ。
拘束するための攻撃を避けてもその糸は残り続ける。
それが戦場を彩る事でシーナ達の行動を制限し、ベルフェゴールのフィールドを作り上げていく。
「くぅ……ガァ!」
「うわっ!?」
「なんだこれは!?」
「し、舌っす! 舌を延ばしてるっす!?」
シーナが言う通り高速で動くそれは、カエルのように伸ばした舌の攻撃だ。
変幻自在に動きながら獲物を狙うそれは、舌の一撃とは思えぬ程の威力を誇り、もしもまともに当たればいとも容易く身体を貫かれるだろう。
そして更に厄介なのが───
「くっ、また増えたか!?」
「私が対処する。トリス達は向こうを!」
戦闘が長引けば長引く程、ベルフェゴールの生み出す怠惰の軍勢はその数を───そして、その強さを次第に増していく。
素早くシフィーが対応するが、徐々にだがアトゥイ達だけでは抑えきれなくなって行っているのも確かだ。
だが、それだけではない。
「ムッ……」
「これがハクアが言っていた怠惰の邪神の力って訳か。クソッタレめ!」
ハクアの言っていた怠惰の力。
それは敵対する者の力を時間経過と共に削っていく呪いのようなものだ。
ハクアの加護が宿るトリス、シフィー、シーナ、ムニ、そしてベルフェゴールよりも離れて戦うアトゥイ達は比較的その進行も緩いが、ベルフェゴールと対峙する火龍王と地龍王はその力の厄介さを如実に実感していた。
「しまっ!?」
「「シーナ!?」」
一瞬の隙を狙われたシーナの身体が糸に囚われる。
そして相手もまたその隙を逃す程甘い相手ではない。
自身に歯向かう厄介な虫を叩き潰さんと、巨大な拳がシーナを襲う。
間に合わない。
誰もがシーナの死を予見した瞬間───
「【拡魔】【超神速】嘶け 雷装!」
赤黒い雷光が戦場を一直線に切り裂き、今まさにシーナを叩き潰そうとする拳に向かう。
「
陰陽両義を発動し、それぞれに手に白と黒のオーラを纏わせたハクアの一撃が、ベルフェゴールの拳を弾き飛ばす。
そして───
「
体勢が崩れたベルフェゴールは、上から強襲したミコトの一撃を叩き込まれその巨体を地面に倒れ込ませた。
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