第130話何か……そこはかと無くバカにされた?
牛肉を解体終えた私は、血塗れになりながらも満足感に浸っていた。
あぁ、ステーキ、牛丼、ビーフシチュー、ハンバーグ、すき焼き。暫く肉には困らないね! ご飯が待ちきれないよ!
「ご主人様、血くらい落としましょうよ」
「そうだね。アリシア、ウォーターボール威力低めで撃ってくれる?」
「あっ、はい。わかりました」
「ワプッ! あ~、さっぱりした」
「フ、フロストさん見ちゃダメです!!」
「ご主人様!? は、早く着替えて下さい」
アリシアに頼んで水を掛けて貰うと、何故だか知らないが皆が騒ぎ出す。不思議に思い自分の格好を見ると、なる程、と言わざるを得ない格好ではあった。
牛肉との戦いの最中にボロボロになった衣服は、大胆に色々な所が見え、加えて水を被った事で、アニメに登場する謎の光や湯気並みに最低限を隠すくらいになっていたからだ。
これがアリシアとか瑠璃だったら良いけど、私だと誰得って感じだな。
確かにあられもない格好ではあるし、一応最低限の礼儀として、予備に持っていた服を着て外套を羽織る。
「あれ? ハクアそんなの持ってたっけ?」
「うん、まあね。それよりコロ。折角作ってくれた刀、一日で壊してごめんね」
「ううん。あんな凄い戦いの役に立ったなら、あの刀もきっと喜ぶかな」
「そっか。その代わりと言ってはなんだけど、あの牛肉の角。ドロップアイテム扱いみたいだからこれ上げるよ。ヘルさんには後で魔石渡すね」
「ありがとうございます。マスター」
「ありがとうハクア! これだけの魔力を秘めた素材があれば、エレオノのクリムゾンローズを強化出来るかも知れないかな!」
「えっ! 本当に!?」
「強化?」
「あれ? ハクア知らないの?」
「何を?」
「マスター。前にも話しましたが、武器にある威力は自身のステータス値まで耐えられる、耐久値だというのは話しましたよね?」
「うん。聞いた」
ゲームや漫画では普通に受け入れてたけど、確かにそうなんだよね? 仮に自分の攻撃力が一万あったとする。
そんな人間がその辺の鉄の剣を使っても、実力何て出せないだけでは無く、普通は武器の方が威力に耐え切れず、壊れてもおかしくない。
どんな力を持ってても、物がショボすぎれば実力を発揮出来ないのは当たり前だ。
現実の前には、ひのきのぼうなどすぐに折れてしまうのだ。
「これも前に話しましたが、等級が魔法級以上になると、魔法やステータスup等の付与がされています」
うん。これもゲームなんかと同じで、使えない魔法が使えるようになったり。後は、攻撃力何%upみたいな感じだよね。
「そして幾つかのダンジョン級や、それ以上の等級の装備は、鍛冶により強化する事で等級や、補助効果を上げる事も出来るんですよ」
「マジか!」
そんな……素材集めてレア度upとかソシャゲじゃあるまいに。しかもそこはかと無くやり込み系の匂い。
しかも、中には素材を集めれば更に強力な装備へと、進化させる事も出来る物もあるとヘルさんは教えてくれた。
「これは言っていませんでしたが、等級を上げて秘宝級以上になった装備には、その武器専用の武技やスキルが付くようになります」
違ったこれ本当にただのソシャゲ仕様だ。しかも武器スキルとか廃課金させる感じの運営方法だよ!?
「補足で言うと、一部のダンジョン級にもたまに武技がついてるかな」
「知らんかった。でもそう言う事ならエレオノの武器に使ったげて
「ありがとハクア!」
「どういたしまして」
まあ、牛肉の副産物だしね? おまけおまけ。本命は肉の方だし。
「でも、エレオノの武器ってどれくらいレアリティ……じゃ無くて、等級上がるの?」
「詳しい事はまだわからないけど、ボクの見立てでは幻想級に届くと思うかな」
「この子そんな凄かったんだ!?」
「うん。まあそこまで強化するのには、本当に色んな素材が必要になるけどね。その代わりちゃんと育て上げればその強さは折り紙つきかな」
「頑張る!」
「私達も協力しますよエレオノ」
「でも、ハクアの武器や防具も作らないとね。ボク帰ったら市場やオークション行ってくるかな」
「ご主人様。格好もボロボロですけど、装備も全部ダメになってしまいましたからね」
いや、申し訳ない。つい肉に目がくらんでしまって……。
「とりあえずコロさんが別の装備を用意出来るまで、間に合わせで買ったらどうですか白亜先輩?」
「う~ん。それはいいや。まだ幾つかしか使った事無いけど、コロの武器の方が良かったし……う~ん。違うか? 私がコロの武器を使いたいだけ……かな? うん。そうだな。まあ、私の我が儘だけどね」
「うっ、あ、ありがとうハクア」
何故か真っ赤になったコロに礼を言われる。そして皆から、またか。という空気が漂う。
解せぬ? 私は私の我が儘を言っただけなのに?
「では、そろそろここを出ましょう。あまり遅いとアリスベルに着く頃には暗くなってしまいます」
と、ヘルさんに言われた通りさっさとダンジョンを出て帰路につく私達。
「明日もここ来たら牛居ないかな……」
「あそこは一日でボスが復活する代わりにランダムですよ」
「そっかぁ~」
クソ! こんな時の為の【レアイベント遭遇率up極大】だろうに……。
『シルフィン:無茶振りにも程がある!?』
チッ、役に立たん。私の牛肉養殖計画が……。クッ! 無念なり……!!
『シルフィン:いつの間にそんな大胆な計画を……』
「そう言えば主様? ここに来る前にギルドが言っておったのは大丈夫なのか? 何か考えがあるとも言っておったが」
「そうですよご主人様! 考えがあるなら話して下さい」
「たまに夜脱け出してたのがそうなのですかハクア殿?」
チッ、鋭い! あんまり会話に参加してこない癖にこんな時だけ参加すんなし。
「皆には素のリアクションして欲しいからまだ言えないかな」
「「「素のリアクション?」」」
「そう。瑠璃とヘルさんにはそれぞれやる事があったから協力して貰ったけど」
と言うか、二人には初期段階でバレたし。早かったな……バレるの……。
「そうなんですか?」
「今回の計画は昔やった事があるんですよ。だから私もハーちゃんの行動がわかったんです。それに前回は私も教えて貰えませんでしたし」
「まあ、私の予定ではそろそろ動くと思うから、その時は何も考えずに流れに任せて行動して。さっきも言ったけど、皆には話さないけど私達よりも皆の方が役割としては重要だから」
「……わかりました」
やっぱり皆、理解出来ないからか微妙な反応だな? でも、本当に重要だしな~。
そうして話をしていると、話題は今回の戦闘の話に移っていき、それぞれ思った事、考え付いた事などを話して情報交換、戦い方の検討をしている内にアリスベルが見えてくる。
「うわっ! 凄い人今日って何かあったっけ?」
「いえ、特に何も無い筈ですよ? ハーちゃんは……知らないですね。もしかしたら、十商の誰かが大量に仕入れでもしたのかも知れません」
何か……そこはかと無くバカにされた?
「ハーちゃん興味無いじゃないですか」
「心を読んだ上にバッサリ言ったな! とはいえ今度の戦いの装備類じゃない?」
「あっ、そっか」
今度の戦いは結構大掛かりだからね。商人としては稼ぎ時でしょ。って、何か人の塊が……。
私達がそうやって話しながら人混みの中を進んでいると、後ろの方から足早にやって来た一団に、私達のグループが呑み込まれ、全員が少し離れて散り散りになる。そして──。
「ガッフッ!」
人混みの中に呑まれた私は、いきなり誰かから痛烈な一撃を頭に貰い、一瞬意識が飛びそれと共に口に布を被せられ、何かに覆われる。
「ご主人様!」
「人多いゴブ! 邪魔! おねちゃん」
「人ごみが……ハクア!」
「先輩!」
「ハクア! この! 皆邪魔かな!」
薄れ行く意識の中で、私を呼ぶ声を聞きながら私は意識を手放した。
こうして私は街に入るなり呆気なく拐われたのだった。
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