第129話今日の夕飯はステーキだぁ!!

「うわっ、ハクアの方がギリギリな戦いしてるのに、相手の方が完璧に怯えてるかな……」

「そりゃ目の前で自分の体をむしゃっとされれば誰でもビビるのじゃ」

「……私、モンスターをここまで哀れだと思ったの初めてだよ……」

「「「確かに」」」


 何やら後ろの方で皆が話しているが、やはり私の耳には内容まで入ってこない。


 まあ、今はこっちが重要だ。


「ブモォオオオォォォオォオ!!!」


 私の宣言に何故か後ずさった牛肉は、斧を捨て、雄叫びを上げる。その雄叫びで私の体は硬直し、身動きが出来なくなる。


 これは【咆哮】か、確かガシャドクロの時も動けなくなったし。


 自身の経験からそう推測して、動けるようになるまで牛肉を観察しながらじっと待つ。すると、私を一時的に行動不能にした肝心の牛肉は、筋肉を膨張させ、私の目の前で体を膨れ上がらせていく。


 なっ!?


 雄叫びを上げながらただでさえ大きかった体を更に膨れさせ、牛肉は四つん這いになる。

そして、頭部の角は今までの倍ほど、体の方も二回りほど大きくなり、今までのミノタウロスフォームから、私が知っている牛の形、闘牛のような感じに変わる。とは言え、闘牛と比べると体は二回りは大きく、感じる殺意はビリビリと私の肌を刺激する程だ。


 恐らくこれが【本気】と【変化】何だろうけど……これはもう誰がどう見ても完璧に牛だよね!!


 私は牛肉の本領発揮状態に思わず嗤ってしまう。


しかしこれはしょうがない事だろう。なぜなら体が大きくなった事で可食部位を、わざわざ増やしてくれたのだ。更にミノタウロス状態からの闘牛フォームへの変化で、更に私の食欲を刺激して来たとあっては笑みが零れてもしょうがない。


「ブモォッ!?」


 牛肉も自分が本気を出して嗤われるとは思わなかったのだろう。私の笑みを見て何故か震えたように見えた。


「ブルモオォォォォ!」


 少し後ずさった後、気合いを入れるように雄叫びを上げ、私に角を突き出し突進してくる。


 チッ、早い! これが【ホーンスラスト】か!


 私は今までとは段違いに速度の違う攻撃に虚を突かれると、その一瞬が致命的な物となり回避が遅れてしまう。

その結果。

少しの遅れが空間に服を残し、角の先が服を絡め取り、私の体を乱暴に引っこ抜く。


「うわっ! くっあっ!」


 引かれた服は角の鋭さと威力に簡単に引き裂かれ、私はと言えば、引っこ抜かれた勢いで体が浮き、空中で服が裂けた事で錐揉み状態で宙を舞い、そのまま地面へと叩き付けられる。


 クッソ痛い。流石ハリケーン〇キサー威力が半端ない。


『シルフィン:ハリケーンミキ〇ー言うな!』


 クソ! あの角は食えないからいらないんだけど。


 吹き飛ばされ地面に投げ出された私を見て気を良くしたのか、牛肉は力を溜め再び突進してくる。


 くっ!


 先程よりも速い攻撃を今度はなんとか回避する事に成功。

だが、一度成功を目にした牛肉は、立ち止まる事無く旋回し、更に速度を上げ、私の事を貫かんと突進を繰り返す。

私は何とかその攻撃を避け続けるが、私が避ける度に速度は上がり、威力も増す。そしてまた私の服に角が掛かり、先程と同じように吹き飛ばされるを繰り返す。


 痛ッ! しかも止まんないし。このまま仕留めに掛かってる?! そっちがその気なら!!


 私を撥ね飛ばした牛肉が旋回している間に何とか立ち上がると、再び刀を構え直し集中する。そして牛肉は今までとは違い、明らかに私の事を角で狙いを定めながら突進してくる。

 その攻撃をギリギリまで引き付け、私は風縮で横に跳び牛肉の額を目掛け刀技【黒凶】を使い、頭蓋を割りに行く。


 ガギィィイ!


しかし私の刀が当たる寸前、牛肉の頭が振られ刀と角が激突する。

その結果、甲高い音を立てて私の刀が牛肉の角に弾かれた。


 クッソ牛肉の癖に生意気な。角硬いねん! 手が痺れるよ! しかも全力だったのに傷がちょっとしか付いてないじゃん。そろそろ泣くぞ!


 しかしこれで分かったのは、横に飛べば牛肉に対応の隙を与えてしまうという事。そしてそろそろ刀が限界に近い、後一発、全力で刀を振るえば危なそうだ。


 それを感じ取った私は覚悟を決め、今度は腰を落とし水転流刀術・止水の型の構えを取る。


 止水の型は水転流刀術の型の一つで、後の先を取る事に特化した構え、つまりはカウンター用の物だ。


 止水の型を使う事は私が回避をしないという事でもある。対する牛肉もこれが最後の攻防だと察知したのか、これまでで一番最速の突進を繰り出して来た。

牛肉の動く気配を感じると私はスキル【鬼気】を発動、それと同時に止水の型から放つ技の一つ、突き技の【氷雨】を牛肉の額目掛け突き込む。


 ガギィィイ!


瞬間──またしても甲高い音が鳴り響き、角と刀が互いにぶつかり激突する。だが今度は私も【魔闘技】だけでは無く【鬼気】も併用、さらに【結界】で足を固定する事で何とか均衡状態になる。


「ブルモオォ!」

「はあぁぁぁ!」


 互いに全ての力を使い攻撃を放つ。

だが──最初に悲鳴を上げたのは私の刀の方だった。しかし私はここで牛肉の体の下から、上に向かって突き出すように【結界】を作り、牛肉のバラを打ち、空中へとその巨体を突き上げる。


「ブモォ!?」


 大したダメージにはならない物の、想定外の衝撃に力が緩む牛肉。私はその隙を狙いこの一瞬に全て力を凝縮する。


「があぁぁぉぁぁ!」


 咆哮──声をを上げながら全ての力を腕へと集約する。

瞬間、私の刀が折れるのと同時に【黒凶】で傷付けた角の方が根本の部分から、力の衝突に耐え切れず圧し折れた。

足を固定していた私と違い、その互いの衝撃に牛肉が一瞬仰け反った所を私は見逃さない。

その瞬間、折れた刀を使い【鬼崩剣】を牛肉の眉間にぶち込んだ。


「ブモォォォ!」


 牛肉は悲鳴と共に吹き飛び、体をピクピクと動かしていたが、やがてその動きもゆっくりと止まった。


「フウッ……」


 はぁ、結構ギリギリだったな。


 今、私は酷い状態だ。

服はあちこち引き裂かれ素肌を晒し、その肌も痣や打ち身、切り傷、そこから流れ出る血で赤く染まっている。左腕は未だ治っておらず、【結界】で支えた足は大腿骨を、あばらも二~三本折れ、【氷雨】を放った腕も激突の瞬間、咄嗟の機転で骨を【結界】でコーティングしてみたが【鬼崩剣】打った段階で確実に折れていた。


ハクア

レベル:18/20

HP:9/1130

MP:30/570

気力:10/500



 うわっ……ギリギリ。それに無事なのは左足だけか、後は全部折れたから身体中痛い。

 早くアクアに治して貰おう。しかしこれ【結界】解いて骨のコーティング辞めたら立ってすらいられないな。でも、咄嗟の判断だったけどこの骨のコーティングは役に立ちそう。


「ご主人様!」

「ハーちゃん!」

「あいた~!」


ハクア

レベル:18/20

HP:5/1130

MP:30/570

気力:10/500


 何これデジャ・ビュ?! しかもHP減ってるよ!? あっ、でも柔らかい。


「無茶ばかりしないで下さい」

「む~、ハーちゃん! ちゃんと反省して下さい」


 その言葉に自分がどれほど心配を掛けたのか考え、抱き付いてきた二人の頭を撫でる。


「ハクア後ろ!」

「へっ?」


 エレオノの声に従い振り返ると、牛肉が震える足で立ち上がり、ゆっくりとだが確実にこちらに向かってくる。

私は迎撃しようとするアリシアと瑠璃を制し、何とか立上がり構えを取る。しかし牛肉は私の前まで来るとそのまま倒れ込み、今度こそ本当に動かなくなったのだった。


▶ハクアのレベルが19になりました。

HPが1160に上がりました。

MPが590に上がりました。

気力が525に上がりました。

物攻が314に上がりました。

物防が306に上がりました。

魔攻が215に上がりました。

魔防が258に上がりました。

敏捷が374に上がりました。

知恵が420に上がりました。

器用が360に上がりました。

【集中LV.9→MAX】になりスキルが【思考加速LV.1】に変化しました。

【鬼気LV.5→LV.6】になりしました。

スキル【並列思考】を習得しました。

スキルポイントを20獲得しました。


▶アリシアのレベルが25に上がりました。


▶エレオノのレベルが25に上がりました。


▶コロナのレベルが25に上がりました。


▶クーのレベルが20に上がりました。


▶クーのレベルがMAXに成りました【進化】が可能になりました。


▶彼方 瑠璃のレベルが20に上がりました。


▶キュールのレベルが18に上がりました。


▶神城 結衣のレベルが22に上がりました。


▶フロストのレベルが38に上がりました。


 レベルアップを果たした事で、私の体が何時ものように全回復する。


「わっ! き、傷が……」

「ああ、結衣ちゃんは知らなかったんだ。モンスターはレベルアップすると全回復するんだよ」

「凄いですね」

「ハーちゃん狡くないですか?」

「仕様です!」

「マスターやる事をやって帰りましょう」

「そうだね」

「じゃあさっさとソウルテイカー──」

「ターイム!!」


 あぶね~、私の苦労が。


「どうしたんですかご主人様?」

「私がやる!」

「えっ。あっはい」


 私の勢いに押されたアリシアが、若干引くのも構わず作業を始める。私は影魔法で皆との間に区切りを作り、牛肉の解体作業に移る。


「な、何か……嫌な音が聞こえるよ!? グチュッてピチャッて!?」

「ご、ご主人様は一体何を……」

「わかるけどわかりたくないです」

「我も」

「ゴブ?」

「まっ、まあハクアの好きにさせてあげようよ。多分それが一番良いかな?」

「そうですね。あ~いう感じのハーちゃんは放って置くのが一番です」


 そして私は皆に盛大に引かれながら、念願の牛肉をgetしたのだった。


 今日の夕飯はステーキだぁ!!

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