ミニゴブリンから始まる神の箱庭～トンデモ進化で最弱からの成り上がり～

第128話お前のミノはどんな味だ！！！！

「それであんなにボロボロになってたんだ」

「うん」

　現在私達は九階中央部を抜け、ボスフロアに行くための外壁部分を歩きながら、エレオノ達と別の所でおこなった戦闘について話していた。

　勿論、影の中での事は話して無い。

　ま、まあ、言う必要無いよね？　ほら、本筋から離れるのはよろしくないし？

「それで何したの？」

「なにそのなげやりな感じの質問！？　しかも私が悪いって決めつけてるし！」

「いや、だってアリシアがハクアの事をずっと警戒してるし」

　そう、アリシアさんはあれからずっと私に近寄らない。

「しかも、ルリと被害者の会みたいの結成してるし」

　失礼な！　誰が加害者だ！

　そんな話をしているとやっとアリシアが話し掛けてきてくれる。

　ほらっ、ほらっ、気にしてなんか無いんだよ！　

「ご主人様どうぞ」

　そう言って、歩きながら食べられるように持ってきた携帯食を渡してくる。

　しかし、渡してくれた時の笑顔が少し怖い。

「あ、ありがとう」

「ハーちゃん？　後で私も一緒にお話し参加しますね」

「……はい」

(本当に何したのかな？)

(どうせロクでもない事だから、関わらない方がいいのじゃ)　

(ゴブ)

　おいそこ！　聞こえてるからな！

　私はどうなるんだろう──と、考えながらおにぎりを食べる。

　あっ、具がガガンの肉だ。

　ガガンとはイノシンのような姿のモンスターで、この世界で一般的に肉といえばこいつの物らしい。

　他にも、食べるのに適したモンスターはいるらしいが、強かったり、個体が少なかったりと、なかなか手に入らないのだそうだ。

　ドラゴンや竜の肉も旨いらしいし、出来れば食べてみたいな。それにしても……。

「牛肉食べたいな……」

「牛肉ですか？」

　私が漏らした言葉に結衣ちゃんが反応し、牛が分からない人間には後ろで瑠璃が説明している。

　ああ、言葉に出したら無性に食べたくなってきた。

「まあ、無い物はしょうがないかぁ」

「そうですね。私も出来る限りご主人様の食べたい物は用意したい所ではありすが、流石に無い物はどうしようもないですね」

「マスター、皆さん、階段です。この先がボスフロアになっているので気を引き締めて下さい」

「了解」

　私は牛肉への思いを断ち切り、なんとか気を引き締め直す。そして、皆の準備が整ったのを確認して、ゆっくりと階段を登り始める。

　ここのボスは何が出るのか分からないらしいから、用心しないと。

　私はそう思い更に集中を高める。そして、階段が終わり、広間のような場所に出た時、私達を牛が待ち構えていた。

「牛だ……」

　私はそう呟きながら、なかば作業のように牛のステータスを確認する。

【鑑定士】スキル成功

　ミノタウロス(亜種黒毛)

　名前：レイググ

　レベル：15

　ＨＰ：1800/1800

　ＭＰ：300/300

　気力：600/600

　物攻：500

　物防：380

　魔攻：200

　魔防：350

　敏捷：250

　知恵：50

　器用：30

　運 ：50

　スキル：【本気】【頑強】【突進】【噛み付き】【連打】【変化】【ホーンスラスト】【咆哮】【ぶん回し】【闘神の怒り】【蒼天破斬】【破壊の一撃】【ラッシュ】【火柱】【大地割り】

「そんなミノタウロスの亜種だなんて！」

「やっぱり牛だ！　しかも黒毛♪」

「うわっ、ハクアの目が今までで一番キラキラしてるかな！？」

「ご、ご主人様、ま、まさかあれを？」

「ハーちゃん落ち着いて！　あれ牛じゃないですからね？！　半分人ですよ！？」

　皆なに言ってるのかな？　流石の私も分かってるよ！

「皆安心していいよ。ちゃんと解体するし皆にも分けるから！」

「「「何も分かってない！？」」」

「あれは私が一人でやるから手を出さないでね？」

「ハクアやっぱり一人で何て無理……って、ハクアさん？」

「や・る・か・ら♪」

「おぉぉ、主様が凄く怖いのじゃ」

「で、でも」

「だ、ダメですよ皆。今のハーちゃんに近付くと噛み付かれますよ

「「「ええ～」」」

「ハーちゃんご飯の事になると我を忘れますから、前にもご飯を邪魔されて、見る影も無い位ボロボロにされた人がいましたし」

「うそ！」

「しかも、その人のお金奪って、それでご飯をお腹一杯食べてました」

「たち悪いゴブ」

「だから、最後まで手を出さずに見守りましょう」

「でも確実にハクアより強いよ？」

「ご飯がかかったハーちゃんは、その程度の事気にしません」

　皆が何か騒いでいるけど、その時には既に私の耳には何の言葉も届いていなかった。私はただただ目の前の敵を真剣に見詰める。

　ジュルッ！

　おっと涎が。

「ブモォ！」

　久し振りの黒毛牛に思わず口から出た涎を拭いていると、何故か私からしたら危険度赤な牛の方が後ずさる。

　コラコラ、逃げるなよ牛肉。

「モンスターが思わずビビってるのじゃ」

「ボクもあの立場なら逃げるかな」

「「「うん」」」

　私は牛肉……もとい牛の部位を順々に眺めながら包丁……では無く、刀を構える。

「……タン、カシラ、クラシタ、ザブトン、ツラミ、ネック、肩ロース、三角バラ、前バラ、前スネ、友スネ、友バラ、中バラ、リブロース、サーロイン、ランプ、マル、ヒレ、ソトモモ、しんたま、テール、ハチノス、ハツ、レバー、ネクタイ、シビレ、サガリ、ハラミ、ミノ、センマイ、ギアラ……ふ、ふふふふふふっ！」

「ブモォ！？」

「ひっ！　ブツブツ喋ってると思ったら急に笑いだしたのじゃ」

「……マスター。完全に補食対象と捕食者の構図ですね」

「肉どころかホルモンまで……しかも聞いた事無い名前の部位まで沢山ありますよ。私」

「……ハーちゃん牛肉大好きですから」

(((それで済ませていいのか！！)))

　二度ほど後ずさった牛肉が、何故か意を決したように両手持ちの巨大斧を構える。

　これが生きた食材って奴だね。クククッ！

『シルフィン：違いますからね！？』

「ブモォ！！」

　牛肉が雄叫びを上げながら巨大斧を振り上げ、いきなり斧技【大地割り】を放ち私に襲い掛かる。私はそれを余裕を持って避ける。──だが、【大地割り】は強烈な一撃と共に岩壁を作り出す技で、その岩壁が私の予想より大きく、私は下から押されるように空に跳ね上げられてしまう。

　不味い。

　私の予感は的中し、牛肉はそのままの勢いで斧技【ぶん回し】を発動する。

　しかし私は【結界】を空中に作り出し、足場にする事で攻撃を回避。逆にスキル発動により硬直したタイミングを狙い、刀技【比翼】を使い前スネを切り裂く。

　チッ！　硬い、落としきれなかったか！

　私の斬撃は見事にに入ったが、前スネを半分ほど切り裂くに留まる。そして牛肉も私が着地すると同時に【ぶん回し】をもう一度放ち攻撃してくる。

　私はそれを【結界】を最大で展開して纏わせた刀で受け、それと同時に威力に逆らわず、同じ方向に跳ぶ事で衝撃と刀へのダメージを逃がす。

　くあっ！　キツい。

　牛肉は更に追撃で【突進】を仕掛けこちらに向かって来る。

　それに対し私も正面から牛肉へと突撃する。

　お互いが激突する瞬間、影魔法で牛肉の視界を奪い、風縮を使いながら急激に方向を変えると、牛肉の【突進】をひらりっと回避する。

　すると激突する筈だった私が消え、視界を奪われた牛肉は、盛大に音を立てながら壁に激突してダメージを負う。

　私はそれを好機に牛肉の背中へオリジナルの魔法、旋刃鼬と火魔法を組み合わせた螺旋焔を放ち、牛肉の身体全体を焼く。次に水転流刀術皆伝【霧雨】を使い、牛肉のロース部分を切り刻むと、その次いでに少しだけリブロースを切り落とす。

　よし！　牛肉get！！

　私が、切り落とした牛肉に少し気を取られた瞬間、生意気にも牛肉が体を捻り私に殴り掛かる。私は何とか【結界】を腕に集中し防御するも、バキャンッ！　と、防御した腕が音を立てた。

　牛肉の攻撃は【結界】を突き破り、そのまま私に攻撃を加え、身体を吹き飛ばした。

　クソ左腕が逝ったか。

　私は折れた腕に治療魔法を掛けながら、刀を鞘ごと腰の紐に通し、今度は自ら刀技【散華】を使い牛肉へと斬り込んでいく。

「はあぁぁぁあ！」

　牛肉は私の全力のスピードを見誤ったのか、対応が間に合わず私の攻撃をまともに食らう。

「ブモ！」

　それに対し牛肉は、私の攻撃に意を介さず、カウンター狙いで斧技【火柱】を使う、すると斧を打ち付けた地面から火柱が立ち上ぼり、私に迫ってくる。

「なっ！」

　私はいきなり立ち上ぼり向かってくる火柱に対し、セルフで焼肉になるだと──と驚愕しながら、先程切り落とした肉を刀に差し、火柱を避けながら火にくべる。

　勿論切り落とす前段階で剥皮は済ませてある。刀を差しているので中までちゃんと火が通っているから安心。

「おお～。いい匂い！　はむっ！　うまっ！」

　私は戦闘中にもかかわらず焼いた肉を食べ、その余りの旨さに思わず感激する。──そして、牛肉を見て。

「ミノタウロス。次はお前のミノを食う！　お前のミノはどんな味だ！！！！」

「ブモォォォ！」

　私の宣言に牛肉が悲鳴のような鳴き声を上げ、何故かその目と声が怯えているように感じた。

　何故だ？　解せぬ？

　ミノタウロス(亜種黒毛)

　名前：レイググ

　レベル：15

　ＨＰ：1000/1800

　ＭＰ：200/300

　気力：300/600

　名前：ハクア

　レベル：18/20

　ＨＰ：550/1130

　ＭＰ：370/570

　気力：400/500