第127話ろくでもないな天使と悪魔!

 ──それは少し前の事。


 全てのモンスターが私達の前を通り過ぎるまでの間、私達は魔法を使い影の中に隠れていた。


「ご……主人……様……んぅっ!」


 自分の意思に反して動き続ける手を無視して、私は何とか理性を保つ。


 大丈夫! 私はまだ大丈夫! 手? こいつは知らんよ。別の生き物だよきっと!!


 潤む瞳、上気する頬、漏れでる吐息、途切れ途切れに私を呼ぶ声。


 正直、私の強固な意思が無ければどうなる事やら、だから手は知らん! とはいえ、もうこのまま押し倒してもいい気がして来た。


「ご主……人……しゃま?」


 あっ、ヤバイ。何か私の中の天使と悪魔が「ここは雰囲気を醸し出して」とか「獣のように押し倒せ」とか言ってる?! って、結局どっちも押し倒すのかよ!? ろくでもないな天使と悪魔! あっ、コイツら私だ。オマケに凄くいい笑顔でサムズアップしてる幻覚が!?


 私が熱気と雰囲気に当てられ混乱し、そんな思考に傾き初めて来た時、不意に新たな気配を感じ急激に正気に戻る。


「アリシア出るよ!」

「へぅ?」


 アリシアの返事にならない返事を聞き、私達は影の中から飛び出す。


「きゃん」


 影から飛び上がるように外に出てアリシアが尻もちを付く。


 よし。まだ遠いみたいだな。


「あう、ご主人しゃま? もう終わりれすか?」


 アカン! ろれつ回って無いし、自分が何言ってるか理解してない! 再起動、再起動の仕方! 説明書プリーズ!


「ご主人しゃま~」


 余程頭が回っていないのか、舌ったらずな状態で抱き付いてくるアリシア。


 やっぱこれ押し倒した方が……てっフンッ! ……痛いの。でも、正気には戻った気がする。こういう場合は外的ショック! ええいままよ!


 私は抱き付いていたアリシアを離し、今度は思いきりアリシアの胸を鷲掴みにする。


「きゃん! あれ? 私何して? ご主人様? えっ、えっ? 胸揉まれ──」


 あーもう、柔けぇなぁ。……うん。これでこの後のやつも耐えられるよ。


「ひっ! キャアアアァ!」


 思いきり掴まれた事で意識がハッキリとしたのか、アリシアは事態を把握するとみるみる顔を赤くする。そして完璧に正気に戻った時、拳に魔法を纏い私の顔面を狙ってくる。


 わ~、痛そう。

 これは使えそうなスキルだし、今度、接近戦ようにクーに【魔法拳】教えておいて貰おう―――と、私は迫りくる拳を見ながら思うのだっ……。


「ギャース!」


 ドパンッと、およそ人体から聞こえたら駄目な音を響かせながら、アッパー気味に殴られた私は、その攻撃に吹き飛ばされ、顔面から壁にゴスっと当たり、そのままズルズルと落下し、ポテッと虫のように落ちる。


「は~……は~……は~……はっ! ご、ご主人様! すいません! 大丈夫ですか?!」

「だ……大丈夫。世界……狙おうぜ」

「しっかりしてくださいご主人様ー!」


 そんなこんなで、自分で治療魔法を掛けつつ、アリシアに戦闘準備を始めてもらう。


 アリシアは弓と矢を用意しないとだからね。それにしてもあの咄嗟の状況下で、威力の無いブラスト系の魔法を選ぶとは……流石アリシア、恐ろしい子。


 そんな事を思っていると、前の方からアリクイの様な、顔の先細りした四足歩行のモンスターのジーアが四匹。

 身体が岩でできた鳥型モンスター、ロックバードが四匹こちらに向かってきている。


「アリシアは弓で鳥を、極力魔法は使わないでやろう。使うとしてもなるべく危険になるまでは、使わないように私はジーアをやる」

「わかりました。あっ、ご主人様?」

「ん?」

「帰ったらお話がありますからね?」

「………………」

「あ・り・ま・す・か・ら・ね?」

「……はい」


 さて、この状況どうするかな? 勿論二つの意味でな!!


「来ます」


 アリシアが注意を促すと、敵に向かって弓技【村雨】を放つ。


 【村雨】は魔力で矢を分裂させ面を攻撃出来る技だ。


 いきなりの面攻撃にもジーアはなんとか避けるが、ロックバードの一体は攻撃をまともに受け息絶える。

 ジーアが避けた事によりモンスターは見事に分断され、私はジーアに素早く近よりまずは一体、水転流抜刀術奥伝【落水】で両断する。


 このレベルでコロの武器なら、私でも業があれば一発でいけるな。


 【落水】を放った直後の硬直を狙い、二匹のジーアが襲ってくる──が【結界】をジーア二匹の目の位置に出し、見えない障害物に衝突させると、私は刀をしまい、もう一匹のジーアの舌による、高速の攻撃を避けながら【結界】を拳に集中、そこに火魔法をプラスする。

 そして、武技による連続攻撃、拳技【ラッシュブロー】をジーアに向けて放つ。私の拳がジーアに一度当たる度に、ジーアの体に爆発が起り、最後の一発が当たると、体が吹き飛び壁に激突する。


 うんうん。痛いよね~。私も今さっき食らったから分かるよ。手加減はしないけど。見たか私のオリシナル爆裂拳! オラオラとか無駄無駄とか叫びたくなるな……。


 すると今度は、【結界】との衝突から立ち直った一匹が、口から涎のような粘液を吐き出してくる。

 咄嗟に受けるのは危険だと思い、それを避けると、その感が正しかった事を証明する様にジュッ! という音と共に地面が溶ける。


 ウゲ! こんな攻撃持ってたのか!


 その攻撃が私に効果的と見たのか、今度は二匹揃って涎を飛ばしてくる。

 私はそれを避けながら【結界】も使い、何とか回避し続ける。しかし、流石に数が多く避けづらい為、ダメージは確実に増えていく。

 これではジリ貧だと感じた私は、思いきりジーアの真上にまで飛び上がる。

 すると案の定ジーアは、自分の真上にいる私に向かって涎を飛ばして来た。


 掛かった!


 しかし、私はそれを【結界】で阻むと、二匹分の涎が当たり、重力に従いそのまま真下にいたジーアへと降り注いだ。


「ギギャァアユ!」


 私は【結界】を足場にもう一度跳躍、今度は天井を蹴りつけ真下に加速すると、鎌鼬でジーアを両断する。

 元々自分の攻撃でダメージを食らっていたジーアは、その攻撃でHPを全て無くし簡単に倒れた。

 そしてそのまま、最後の一匹に鎌鼬を突き刺し、ジーアの体の中で魔法を解放すると、ドパン! と、いう音を体の中から響かせ、ジーアの体がゆっくりと倒れていった。


「ふぅ……」

「ご主人様終わりましたか?」

「うん。アリシアも無事みたいだね。さっ、エレオノ達の所に戻ろうか?」

「そうですね」


 アリシアが顔を赤くしながら私に近寄らずに言う。

 私が一歩近付くと一歩遠ざかる。


「早く戻りましょう」

「う、うん」


 何かさみしい……。


「あっ、そうだご主人様。後でちゃんとお話はしましょうね?」

「……はい」


 ……私の戦いはまだまだ続く。

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