第126話(流石にそれはやり過ぎだと思うよハクア)

 ハクアに言われた通り、少し広い通路に待機するエレオノと瑠璃。

 そんな二人の前に、予定通りモンスターが現れる。


 事前にハクアからの連絡で、モンスターの種類と、数は聞いていたので慌てはしない。

 ──が、流石にわざと魔法を吸収させて、パワーアップまでさせるとは思わなかった。


(流石にそれはやり過ぎだと思うよハクア)


「エレオノちゃん。モンスターが私達に気が付きましたよ」

「うん。そうみたいだね。じゃあ作戦通りに」


 エレオノの言葉に頷き、二人同時に【闘気】を纏い、エレオノは更に【魔闘技】を重ね掛けする。


(うぐ。やっぱり二つ同時はキツい!)


 エレオノはここ最近、フロストに魔法剣の指導を、瑠璃に水転流の指導受けながら、この【闘気】と【魔闘技】の掛け合わせの修練をしていた。


 これはハクアに「制御さえ出来れば二つ同時に使えると思うよ」と、言われやってみた所、数秒ほどではあるが成功し、これは切り札として使えるのでは? と練習し始めたものだ。


 練習は難航し、フロストにもアドバイスを貰おうとしたが、フロストもそんな事が出来ると思わず「やった事が無いので自分には教えられない」と言われてしまった。

 その後、仕方なく邸の庭で一人練習していると、それを見ていたハクアが「二つのスキルのバランスが悪いんだよ。【鬪気】の方が強すぎるから片方が負けて維持出来なくなってる。もっと魔力の方を意識してやってみたら?」と、アドバイスをくれた。

 そこからなるべく二つのスキルの出力を同じようにした所、短時間だが維持が可能になった。


 それ以来エレオノは、暇を見付けてはこの訓練を続け、今日初めて実戦で使う事にしたのだった。


 エレオノが隣を見ると、瑠璃は武器である鉄扇に魔力を集中していた。

 これもハクアによるアドバイスだ。

 異世界人である瑠璃は、魔力の扱いに馴れておらず、エレオノのように暇を見付けては魔力制御の訓練をしていた。

 二人はそれぞれが、ハクアによるアドバイスを受け、その成果を今この場面で試そうとしていた。


 フレイムハウンドが二人を見付け、飛び掛かろうと身を屈めた瞬間を狙い、エレオノは【真空斬り】を放ち出鼻を挫く。

 それと同時に瑠璃が駆け出し、先頭のフレイムハウンドの首筋を【扇刃】で切り裂き、そのまま後ろのズイパー目掛け駆け抜ける。


(本当なら相性を考えても、私があっちを受け持つべきけど、私も火属性の敵を相手に立ち回れるようにしないと……)


 瑠璃が駆け抜ける時に首を切ったフレイムハウンドに止めを刺し、改めて剣を構える。


(残りは九匹)


 エレオノがこの戦いで心掛けている事の一つがスキルの維持だ。

 そして、もう一つの課題が防御である。

 元々防御が苦手だったエレオノは【霧化】のスキルを獲た事により、更に防御への関心が少なくなった。

 しかし、瑠璃やハクアの戦いを見る事により、防御の大切さを思い知り、瑠璃には水転流の防御や、回避に重点を置いて教わっていた。


 剣を構えると、フレイムハウンドは残り九匹でエレオノを取り囲む。

 その中の真後ろの一匹が、エレオノの背中に襲い掛かる。しかし、エレオノはそれを裏拳で横っ面を殴り飛ばし、別の一匹にぶち当てる。


「ギャン!」


 襲い掛かる一匹を迎撃した事で隙が出来たと思い、更に二匹が左右からエレオノの喉笛を噛みちぎろうと襲い掛かる。

 それをギリギリまで引き付け、バックステップする事で回避する。

 ギリギリの所で回避された事で、二匹は正面から衝突して「ギャンッ」と、声を上げながら互いに吹き飛ぶ。


 その間に先程吹き飛ばし、未だ倒れていた二頭にダークボールを放ち始末すると、目の前の三匹がそれぞれ口から火の粉を散らし、火球を二発ずつ飛ばしてくる。

 その内の二つをファイアブラストで相殺し、三つを魔力を纏った剣で切り裂く。しかし、最後の一つは迎撃する事が出来ず、なんとか朱骨でガードする。


(炎は効くな~)


 フレイムハウンドは、火球を受けてよろめいたエレオノに向い、一気に押し寄せ【突進】してくる。だがエレオノは自ら前に出て、ダークボールを先頭の二匹に当てる事で、真ん中を走る一匹に【閃光】をカウンターで放ち、仕止める事に成功する。


 そして更に襲ってくる四匹に対し【鉄壁】のスキルを使い、防御を固める。三倍の防御力になった事で、攻撃したフレイムハウンド達の方が弾き飛ばされ地面に転がる事になる。

 そこから先はエレオノの独壇場だった。

 魔法を受けたフレイムハウンドが、先に立ち上がり向かって来た所を二匹を倒し、残り四匹を盾でいなし、回避しながら危なげなく倒していき、戦闘は終了した。


(う~ん。結局あんまりガードはしなかったかも? でも回避は前よりも楽になったかな? さて、ルリの方は……)


 エレオノが自分の戦闘の分析をしつつ瑠璃の方を見ると、残り二匹のズイパー相手に戦っている最中だった。


 金属音を響かせながら、瑠璃は鉄扇でズイパー二匹の攻撃をいなし、ハクアの様に戦いながら実験を繰り返す。


(やっぱり、この方法だとハーちゃんほど上手く出来ませんね)


 瑠璃は先程から、ハクアがやっていたように【結界】で鉄扇を包み戦ったり【魔闘技】や【闘気】を使って戦ったりとしていた。

 そして、ステータスの固有技として水転流が出ていた事から、補正を受けるとどんな状態なのかを確かめていた。


(ハーちゃんが言う通り、体が勝手に動いていく感じですね。慣れるまでにもう少し掛かりそうですけど、やれなくはない)


 ズイパーの両腕の叩き付けを避けると、その隙を狙い、もう一匹のズイパーが体を掴みにくる。それを懐に入り込む事で回避し、扇技【炎舞】を使う。


 すると、瑠璃の持つ鉄扇が炎を放ち、瑠璃の体が何かに突き動かされるように高速回転しながら、目の前のズイパーに炎を放つ鉄扇を何度も叩き付けていく。


「グギャァ!」


 瑠璃の体が回転を止めると、目の前には黒く焦げ力尽きたズイパーがゆっくりと仰向けに倒れて行く。

 それを見たもう一匹は怒り狂い、瑠璃に向かって【正拳突き】を放つ──が、それを下から掬うように力を反らされ、先ほどのズイパーと同じ様に簡単に懐へと入り込む。そして今度は水転流奥義【水破】を放つと、最後の一匹も力尽きるのだった。


(う~ん。やっぱり戦いかたが違うな~。なんていうか綺麗? 私ももっと頑張らないと)


「エレオノちゃん。お疲れ様です」

「うん。ルリもね」

「二人ともお疲れなのじゃ」


 二人の戦闘が終わると離れて見ていた皆が近付いてくる。


「あれ? ハクアとアリシアは?」

「まだ来とらんのじゃ」

「お待たせ~。そっちも終わった?」

「ハーちゃんどうしたんですか?」


 瑠璃の言う通り、怪我こそしていないがハクアはボロボロになり、アリシアは少し離れて歩いていた。


「いや、ちょっと戦闘を……」

「へっ? どういう事?」


 ハクアの言葉の意味が分からず聞き返すと、ハクアはモンスターをやり過ごした後の事を話し始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る