第125話ヤベ、可愛い! どうする。どうする私!
「じゃあ、次は私の出番だね!」
私の戦闘の後エレオノはそう言ったが、……正直。
「このレベルだと、エレオノや瑠璃じゃ訓練にならないでしょ?」
そう、ハッキリ言って私でも全力でクリーンヒットさせれば、一発で削り切れるという事は、この二人ならもっと簡単に倒せるって事だ。実際ここまでも多くても四発くらいで相手倒してるし……。と、なると……。
「えっ! 私の見せ場無し?!」
「私もですかハーちゃん?!」
君は君で下地があるから正直心配無い。とはいえここまで来たんだからいろんな経験積みたいし。
「その代わり、二人で組んで戦って」
「それだと逆に楽になってない?」
「まあね。けど、これから私がモンスター多めに引っ張ってくるから、それを二人で組んで対処して欲しいんだ」
「分かりました」
「うん。OKだよ」
「よし。じゃあ、二人はここで待機。皆も少し離れたら所で警戒してて」
「ご主人様。私もご主人様と行きます」
ん~。正直一人でも大丈夫だけど……絶対囲まれない保証も無いし、まあ良いか。油断したら私だと簡単に死ぬし。
「わかった。手伝ってアリシア」
「はい!」
こうして私とアリシアは、エレオノ達にぶつけるモンスターの調達に向かう。
「ご主人様? どれくらいモンスターを連れて行くのですか?」
「20くらい?」
「お、多すぎません?」
「駄目なら手を貸す。でも、私の目算なら行ける筈」
「そう何ですか?」
「アリシアなら一人で30はいける」
「ふえっ?」
「ここの敵は弱いからね。アリシアの全力魔法に耐えられるのはそうはいない」
「評価は嬉しいのですが……大きく出過ぎでは?」
「30は最低でもって事だよ。本気でやればもっといけるはず。アリシアはもっと自信持っていいよ。魔法の属性も、四属性あって偏りなく攻撃出来るし、魔法が効けばアリシアは、私達の中で一番強いんだから。実際私がここまで生きてこれたのも、アリシアの魔法があったからだしね。だから私はアリシアの事を凄く頼りにしてる」
「ご、ご主人様。~~~~はい! これからもずっとご主人様の為に頑張ります!」
「うん。お願いね」
それにアリシアには私達の世界の科学知識を教える予定だからね。下手したら世界最強の魔法使いになれるかも。
私はイマイチ自分の力を把握していなさそうなアリシアに、思っていた事を伝えると、アリシアはいい笑顔で返事をする。
はて? 若干視線に熱が籠っている気がするのは何故だろう?
『シルフィン:無自覚とか……恐るべし』
駄女神が何か言っているが取り合えず無視しとこう。それよりも。
「アリシア」
「……はい」
私はアリシアに声を掛けて前方を見る。
そこには五匹のズイパーと、大型犬よりも更に二回り程デカく、口から火の息を吐くモンスター、フレイムハウンドが十匹も居た。
数は少ないけど丁度良いか。フレイムハウンドはボスを覗けば一番強いモンスターだし、火が苦手なエレオノの訓練には丁度いい。攻撃をクリティカルで食らってもHPは3分の1位のダメージで済んでたしね。
「行こう」
「はい」
私達はエレオノ達の所までの順路を確認して、それから改めてモンスターに向い魔法を放つ。
私が放ったのは、下の階で倒したフレイムハウンドから獲得したファイアアローだ。
フレイムハウンドはその名の通り、火属性だから火に強い。
そして何より──。
「ご主人様。一体が魔法を吸収してパワーアップしました」
そう、フレイムハウンドは火属性の攻撃を吸収する事で、自身を強化する事が出来る。
これでエレオノ達と良い勝負になる筈。しかし、私から見ると赤が混じった黄色なんだけど?
「アリシア。魔法食った奴の脅威度は?」
「えっと……青と黄色が半々くらいですね」
一週間、一週間がとても憎い! どんだけ置いてきぼり食らってるの私!
「ご主人様?」
「何でもない。って、来るよ!」
私達は全力で逃げながら、フレイムハウンドが放つ火球を避け、逃げ続ける。そして追い付かれないように土魔法を使って、障害物を設置する。
しかし、これも良い魔法の訓練になるな。
走りながら魔法を使うのは意外に難しい、しかも効果的に相手を邪魔する物を……となれば尚更だ。この塔に入ってから何回かやったけど、最初は出来なかったアリシアも、大分慣れてきたみたいだ。
横で並走するアリシアを横目で見ながら考える。
最初は走りながらの魔法も覚束無かったが、今では的確に相手の行動を疎外する障害物を作り、設置して行っている。それを見ていると、アリシアは本当に才能の塊だとしか思えない修得スピードだった。
そして何より、随所に光る土魔法様の偉大さだね!
この塔に入ってからというもの、私は土魔法の偉大さに感銘していた。
今現在のような障害物の設置から、簡易的な武器の作成&使用、土魔法単体の攻撃力、そして何より、休憩中の椅子やテーブル、簡易的な竃の作成など正に土魔法様々。土魔法はやっぱり偉大だった。
と、そろそろか。
「ご主人様そろそろ着きますよ」
「了解」
ヘルさんには【念話】のスキルで、もうモンスターの種類と数は伝えてある。後は私達が上手く引継ぎすればOKだ。
「アリシア曲がったら影を張る」
「分かりました。では、私はその前の曲がり角に……」
そう言ってアリシアは少しスピードを落とし、曲がり角の手前の壁に手を触れ、自分と同じ高さの薄い壁を生成する。
「ナイス」
私はアリシアが壁で最後の障害物を作ると同時に、影魔法を使いアリシアと私の姿を、塔の柱の影に紛れ込ませる。
──すると、私達が隠れると同時にアリシアの作った壁が壊れた。
私達はそれを影の中から眺める。
この魔法は影魔法のシャドウハイドという物で、影の中に潜り隠れる事が出来る。しかしデメリットとして、この状態で自分の入った影になった物を攻撃されるとダメージを負う事になる。つまり柱の影に入った場合、その柱に魔法や剣、槍を突き立てるなどの攻撃を受けると、その柱へのダメージが襲ってくる事になる。
これはあくまで推測だが、柱が壊れる程のダメージなら、中に入った私も粉々になる可能性がある。と、いう事なのだ。
怖すぎて流石の私も検証出来んがね!
そんな事を考えながら、アリシアと二人、影の中でモンスターが通り過ぎるのを待っていると。
「あ、あのご主人様? 手が胸に、ンっ、それにこの格好……」
そう、今私とアリシアは大変いい感じの格好になっている! 簡単に言うと私の手はアリシアの胸を掴み、私の足がアリシアの足の間に入っているという状況だ!! まあ柱が細いからしょうがない! しょうがないんだ!!
「あの、手……うご……かしちゃ……ダメ、です。足も……動かさないで……下さ、い」
ヤベ、可愛い! どうする。どうする私!
そんな事を考えながらも、手の平に伝わるあまりの柔らかさに、自分の意思とは無関係に手は動き続ける。
何コレ、柔らかっ! え? こんなに柔らかいとか凄くない?
「ダメ……ンっ……です。ご……主人……様」
私達の状況も知らず、モンスター達は私達を見失う。
その変わりにモンスター達は、少し広い部屋の中に立つエレオノと瑠璃を発見したらようだ。
そしてモンスター対エレオノ&瑠璃のコンビと、私対私の中の何かの壮絶な戦いが今始まる。
『シルフィン:貴女少しは真面目に生きてみたらどうですか?』
失礼な! 私ほど真面目に生きてる人間もそうはいない。
『シルフィン:言い切った!?』
『ほぼ全員:オオ~~。パチパチパチ』
『シルフィン:拍手しない!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます