第377話いただきます
ベルゼブブの特性【群体】は、分裂と統率個体による数万にも及ぶ個体の完全な統制だ。
そして何よりも厄介なのが、その内の一匹でも逃せば、そいつは【暴食】のスキルであらゆる物を食い尽くす。
あらゆる物とは比喩でも何でもない。
私の【喰吸】のように生き物からだけではなく、森の木や岩を食べる事でも、ベルゼブブは力を蓄える事が出来る、正に災害のような存在なのだ。
そうやって力を取り戻し、直ぐにまたベルゼブブは、邪神として相応しい力を付け復活するという事だ。
だが、条件が整い、最大の賭けに勝った今ならば、私でも討伐出来る可能性が出て来た。
最大の賭け。
それはベルゼブブの最も厄介な特性である【群体】を発動させる事だ。
【群体】の特徴は分裂にある。
女神達から伝わった情報によれば、分裂とはつまり同一の個体を増やす事ではなく。
一つの個体を
それは言ってしまえば分裂すればする程、弱体化すると言っても良い。
これが同一個体の量産なら、私に勝ち目は全くと言って良い程無かった。
数万に分かれた個体でも、平均500のステータスと言えば、元のステータスが如何に化け物か分かるだろう。
だが、等分ならばその限りではない。
果てしなく細い、綱渡りのような状況だが、可能性はまだあるのだ。
一度【群体】を使えば、簡単に元に戻る事は出来ず、統率個体が全てを【暴食】の力で喰らい、取り込むしか方法は無い。
むしろ半端に取り込めば、その分私が倒す個体が減るという事に等しい。
ならばいっそ数の暴力で倒した方が安全なのだ。
つまり、私達全員が死ぬまで完全な力を取り戻すのは難しいという事でもある。
そして私の撒いた種はまだある。
最初の攻撃【黒蒼・墜星】を放った時、ベルゼブブは【群体】を使った。
それは、下手をすればその一撃が、自分の命に届いたかも知れないと、一瞬でも思わせる事が出来たという事だ。
ベルゼブブは強い。
だが、それと同じく慎重でもある。
だからこそ一瞬でもその考えを過ぎらせれば、自身の最大の武器でもあり、弱点でもある【群体】を使う。
広い空間で統率個体を逃がす事が出来る状況なら、脅威の一言に尽きる能力だが、女神の力を使った結界の中に閉じ込めた今なら、それは逆にチャンスになる。
しかも私は攻撃を放つ際、わかり易く【犠牲増幅】で左腕を捧げ、それをベルゼブブに見せ付けた。
実際あの時、最初私はあまり魔力を込めずに【黒蒼・墜星】を作り、【犠牲増幅】と自身の魔力をその時になって込める事で、大幅なパワーアップをしたように見せ掛けた。
それによってベルゼブブは、左腕一本の犠牲だけで、あれ程の威力を増幅させた。と、いう可能性を考えなければいけなくなった。
そしてそれは同時に、左腕だけでは無く、全てを犠牲にすれば、自分を打倒するまでの力を出せるのでは? と、いう可能性も頭を過ぎってしまうのだ。
死の間際、自分の命で全てを救う。
そういった英雄的行動をしたがる人間は多いだろう。それは、過去何度も人間と戦ってきたベルゼブブなら、数多く経験しているはずだ。
その考えがベルゼブブに【群体】を使わせる事が出来た理由だ。……多分。
〈恐らくマスターの考え通りだと思います。でなければ、わざわざ【群体】を使うリスクを負う価値が無いので〉
駄女神の結界は後出しだから、他の可能性も無いとは言いきれないけどね。
まあ、ここまでは良いんだけど……。
「チッ! それでも数が多過ぎる!」
”今更後悔か小娘? そら、もっと動かなければ死ぬぞ”
ベルゼブブの声を聞きながら、襲い来る蝿の群れをギリギリで回避。
しかしそんな私へと、別の群れが四方八方を取り囲むように突撃してくる。
それを見た私は、一番幕の薄い場所へと身体を投げ込みながら、爪で切り裂き包囲を抜ける。
だが、蝿の群れは抜けた先からも殺到する。
クソっ! この数を完璧にコントロールされるとここまで厄介なのか!?
一匹一匹の大きさは野球のボール程、中にはバスケットボール並の大きの個体も混ざっている。
身体が大きいほど力も強く、弱い個体に紛れる事で、こちらの意識を常に削ぐように、絶妙なタイミングで群れの中に混ざっている。
もしも少しでも気を抜けば、その一瞬で群れに包囲され、骨も残さず喰われてしまう。
そんな想像が常に頭を過ぎる。
既に何度も攻撃を避け、包囲を無理矢理突破した代償で、身体は至る所が裂け、血塗れだ。
それでも【自己再生】等のスキルのおかげで、なんとか持ち堪えている状況。
しかも、いくら倒してもその死体を回収、または完全に消滅させなければ、別個体がその死体を食べ、パワーアップ、分裂するのだから始末に負えない。
そしてそれは分裂個体だけには限らない。
当初、洞窟の広間だったこの場所は、ベルゼブブに壁も、天井も、地面さえも、全て食い尽くされ、今は私が駄女神と張った【神域結界】で囲われた、何も無い空間しか残っていない。
残っているのは私とベルゼブブ、ダグラスやアベル達と、囚われていた人達だけだ。
そしてその食い尽くした分だけ、ベルゼブブは強化され、分裂して増えていた。
更にいけ好かないのは、分裂個体を倒しても経験値にならず。【喰吸】で取り込んだ所で、スキルを会得出来る訳では無い事だ。
スキルは魂に付随する情報。
だから、意志の無い分裂個体では、いくら吸収しても無意味なのだ。
そんな事実が私の体に重く伸し掛る。
それでも常に動き続け、火系統の魔法を乱射して、動くスペースを確保する。
文字通り、息付く暇も無い。
常に動き続ける代償に、いくら息を吸っても身体が酸素を寄越せと訴える。立ち止まれと、息を整え休ませろと叫ぶ。
だが、そんな事をすれば待っているのは”死”だけなのだ。それも生きたまま、身体を内外の端から喰われるという、およそ経験したくない最悪な物だ。
だからこそ止まる訳には行かない。
休息を訴える身体に、無理矢理喝を入れ、腕を振るい爪の斬撃で切り裂き、バスケットボール並の個体を蹴りの一撃で吹き飛ばす。
「チッ!」
見渡す限りどこを見ても蝿だらけの癖に!
しかし、吹き飛ばした先を見て、何度目かもわからない、舌打ちが漏れる。
蝿の群体は、一個の意識によって統率されている。
その為、適当に攻撃しても当たる程、見渡す限りに空間を埋め尽くしている。──だが、時に避け、時に身を呈して犠牲になる事で、被害を最小限に抑えている。
そんな中、意外にも有効だったのが風魔法だ。
どうやら風魔法を使う事で起きる気流の変化。
これが飛行に影響を与えるようで、一個の意識だからこそ、個々でなら簡単に対処出来る気流の乱れによる飛行阻害を、いちいち把握出来ないらしい。
だからこそ攻撃では無く、全体の空気の流れを掻き乱すように魔法を行使すれば、ベルゼブブの思考リソースを、大幅に姿勢制御に割く事が出来た。
それも私が何とか生き延びられている理由になっている。
そしてもう一つ大きな理由がある。
それはなんと、このベルゼブブ。邪神にもかかわらず状態異常攻撃が効きやすいのだ!
どうやら等分される事で、各種抵抗値も下がっているみたいだ。
石化、麻痺、毒、昏倒、盲目、鈍重、混乱、幻覚、威圧、恐慌、呪い、腐食、邪死。
この怠惰の魔眼による全てのデバフが効くのだ!
かつてここまでデバフが効いた強敵は居ただろうか! そして今こそ、状態異常攻撃特化型モンスターとして腕の見せ所なのですよ!
ただ惜しむらくは、魔眼系の攻撃は一種類に付き、二体ずつしか効果掛けられないんだよねー。目が二個だらな!!
”気を抜く暇があるのか?”
って、ゲッ!?
私が倒し、回収出来なかったベルゼブブの死体を食べた、別の個体が一メートル程の巨体になって突進してくる。
「くっ!? 貫けグレイプニール!」
フェンリルモードの時のみ使える武装、グレイプニールの鎖。
地獄門の鎖が、私の神力を取り込み、より強靭な鎖になったのが、グレイプニールの鎖だ。
鎖自体が、私の神力でコーティングされている為、魔物には絶大な効果を発揮する。
普段なら縛り上げる位しか出来ないが、この状態なら攻撃にも防御にも使える程に優秀だ。
私の腕から伸びた鎖は、ジャラジャラと音を立て伸びて行く。
その姿は、まるで大蛇が獲物に飛びかかる様に、大型の蝿を貫き、そのままの速度で、意志を持っているかの如く、次々に蝿を襲って行く。
”ほう? ならばこれはどう対処する?”
ベルゼブブから放たれた言葉、その意味を理解する前に、別の群体が私を襲う。
数十体から放たれる、ランダムな魔力砲撃。
あらゆる角度から放たれる砲撃を【結界】を使い、最小限の被害で済む場所へと、後先考える暇すら無く、身を投げるように飛び込み、回避する。
だがそんな私に数体の蝿がまとわり付くと、今度は、自分から魔力を暴走させ、自爆攻撃を放ってきた。
なっ!?
一個体に操られる、意志の無い分裂個体だからこそ出来る攻撃。
一匹づつの爆発は大きな物ではないが、それでも、私の身体を吹き飛ばすには、十分過ぎる程の威力を持っている。
その証拠に、出来うる限りの防御をしたが、今の攻撃で私の左腕は吹き飛ばされた。
糸を使い、急いで止血すると【自己再生】のスキルに任せ、再び自爆せんと近付く個体から急いで距離を稼ぐ。
”おお!? くくくっ美味い。美味いぞ!! 雑魚かと思えばなかなかの力を秘めているようだな”
吹き飛ばされた私の腕を、食い散らかしたベルゼブブが歓喜に震える。
どうやら私の腕は、ベルゼブブにとって、なかなかの食材のようだ。
その光景を見て、根幹的な恐怖が私の身体を支配する。──訳も無く。そこにあるのはただ一つ。
自分を獲物として見て、今もこの肉を喰らおうとしている、ベルゼブブへの怒りだけだ。
気を良くしたベルゼブブは、私の腕を食い散らかした個体を含めて、更に数を増やし、私へと殺到する。
このままではこの数は捌けない。
そう考えた直後、身体が、頭が、この状況を突破する為の最適な行動を導き出す。
「オオォォオオ!!」
【セイクリッドハウル】
これもフェンリルモードの時に使えるスキルだ。
自分よりも弱い相手に咆哮する事で、相手のステータスをさらに下げ、聞いた者全てを威圧する事が出来る。相手が魔族や魔物ならさらに効果が上がる。
ステータスを下げ、スピードが下がった蝿を、自爆する前に、風圧を伴う勢いの【剛脚】で一気に蹴散らし一蹴する。
自爆前に倒してしまえば爆発はしない。
仮に倒しきれなくても、私の近くに居なければ、自爆に他の個体が巻き込まれるだけだ。
更に、後ろから来た群れには【アイアンテイル】を発動、その場で回転して、強烈な尾の一撃を加える。
テア達曰く、私の尾や耳は、自分の身体から溢れ出た神力で、形作られているらしい。
なので、触れば触れた感覚はあれど、触られる感覚は無い。
そして【アイアンテイル】のスキルを使うと、毛の一本一本が、鉄の高度を誇り、凶悪な武器にもなる。
その内、この毛を有名な鬼の人の髪の毛針のように飛ばしたいものだ。閑話休題。
しかし……まだか……。
間断無く、四方八方、上下左右、あらゆる角度から、常に死の予感を振り撒くような突撃を繰り返され、集中力が落ちてきたのか、だんだんと被弾が多くなってくる。
そんな時──。
「行けるぞ!」
「よし! 良いぞハクア!」
来た!
アベルとダグラス。二人の声を待ちわびていた私は、その言葉を聞くと張り巡らせた
この糸は戦いの最中、超極細の糸を分裂個体、数十体に貼り付け、そのまま倒さずに、自由に動き回らせ、ばら撒かせた物だ。
その効果は絶大。
張り付き、漂っていた糸を引き寄せ、一つに纏めるようにすると、数百もの個体が一つの塊のボールになる。
それはまるでミツバチの熱殺蜂球のようにも見える。
まあ、実際は私が纏めただけだから、熱を発するどころか、圧力で何体かは死んでるだろうけど。
「今だ!」
「光刃波!」
「炎獄刃!」
私の合図と共にアベルの光の斬撃と、ダグラスの炎の斬撃が重なり合い、光炎の眩い大きな斬撃になり、私が纏めた蝿ボールを飲み込み、更に周りの蝿も大量に消し飛ばしていく。
上出来!
ダグラスの技に付いては最初の段階で、お互いのスキルを、擦り合わせた時に聞いていた。
アベルの技に関しても、ほとんど意味の無い、自慢話の中の一つにあったのを覚えていた。
今の実力には全く見合っていないチート技。
タメに十分以上の時間を有するが、その威力はBランク相当の威力がある。
ダグラスの一撃にも見劣りしない程の威力だ。
どうせ口だけだろうと聞き流していたが、これは嬉しい誤算だった。
「渦巻け グレイプニール!」
大技を放った直後の二人を含めた、全員を取り囲むように、グレイプニールを操作する。
鎖同士が擦れる金属音と、火花を飛び散らせながら、鎖で出来たドームを形成する。
常に鎖が動きながら回転しているあのドームは、今の分裂個体程度が触れれば、その回転に巻き込まれ、引き裂かれる。
更に私はそのドームの周りを、【結界】と土魔法で硬め、氷でコーティングする。
これだけやれば、これからやる事からも、きっと守ってくれるだろう。
さて、今までの観察で、統率個体を倒して、次の個体に意識が移るのに、一分掛かる事は分かった。
そして、アベル達の派手な攻撃に合わせる事で、予め見付けていた統率個体を撃破した。
──だからこそ、この一分が勝負の分かれ目だ!
ベルゼブブを倒す方法は二通り存在する。
一つ目は、勿論普通に倒す事。
だが、これは現実的では無い。何故ならベルゼブブを普通に倒すには、邪神としての馬鹿げたステータスをものともせず、【群体】を使われる前に、一気にカタを付けなければいけないからだ。
そうでないと、ベルゼブブは必ず【群体】を使って逃げてしまう。
二つ目は【群体】を使わせ倒す事。
だがこれにもいくつものハードルが存在する。
まず、当然ながらベルゼブブに【群体】を使わせなければいけない事。更に、全ての分裂個体を一匹残らず倒さなければならない。
実はこれが難しい。
今回のように結界を張ったとしても、普通の結界では、当然邪神クラスを抑えるものはそうそう張れない。
仮に張れたとしても、今度はその強力な結界を、戦闘中ずっと維持しなければいけないし、その気になれば、弱いとはいえ何万もの個体が、結界を破りに来るのだ。
しかし、その結界が無かったとしたら、数万にもおよぶ分裂個体を、一匹残らず確実に倒すなど、とても無理なのは誰でも分かる事だ。
更には自己捕食に何でも食べて力に変換する【暴食】。
それをさせない為に、全個体を倒す程の高火力な攻撃をしようにも、普通の結界なら、その威力に内側から弾け、仲間も無事で済まず、ベルゼブブも逃がす事になる。
そして、広域殲滅の魔法無しで、数万の個体など相手に出来ないだろう。
パーティーでの攻略だったとしても、360度全方位から狙われては、後衛も前衛も機能しなくなる。全方位を護るスキルも存在するが、結界と同じ理由ですぐに破られる事だろう。
ベルゼブブを倒すには、これらを全て攻略して、周りに被害を出さずに、広域殲滅魔法の様に、一気に全滅させなければいけないのだ。
だが、今の私にはそれを可能にする手段がある。
「来い! ヌル!」
私の言葉に反応した様に光が浮かび上がり、その光が魔法陣を描き出す、輝きを放ち、ヌルとヌルが【眷族使役】を使って出した沢山のスライムが魔法陣から召喚される。
ヌルには呼び出してからでは遅いから、予め眷族を外で呼び出しておいて貰った。
その為、ほぼ一瞬で駄女神と私が張った【神域結界】の、立方体に切り取られたような空間に、ヌル本体と、ヌルが呼び出した、眷族のスライムが一気に現れたのだ。
そして、今回ヌルに呼んで貰ったスライムは全て、ポイズンスライムと毒竜スライムだ。
ここまで来れば私のやろうとしてる事が分かるだろう。
”貴様!!”
新たな統率個体を得たベルゼブブも、その事に気が付いたのか、戦闘が始まって以来、始めてその言葉に焦りが混じっていた。
だがもう遅い!
「ヌル! 全力で埋め尽くせ!」
ヌルや、毒竜スライムが【ヒドラ】を繰り出し、ポイズンスライムや、私も【竜毒】を作り出す。
だがこれでは足らない事も分かっている。
だから私は、地面に手を添え魔力を流すと、戦いながら、少しづつ描き仕掛けた、魔法陣を起動する。そして──。
「【ブースト】」
テイマースキル【ブースト】
これは、契約した動物や魔物を、一時的に強化する事が出来る魔法だ。
使っている最中は動けないうえに、魔力消費も激しい為、使い手が少ない魔法らしい。
私はそれを研究して、魔法陣を使って発動する事で、効果と魔力消費を抑える事に成功した。
もっとも、かなり複雑な魔法陣の為、正直今回、何度も死ぬかと思ったが……。
だが、そのおかげもあって【ブースト】の効果は絶大だ。ヌル達の出した【ヒドラ】も【竜毒】も、威力や勢いが増し【神域結界】の中を蹂躙するように、毒で埋め尽くす。
”馬鹿な! この我がこんな事……で──”
【神域結界】に囲まれたこの場所で、逃げ場などどこにも無い。
自分が食い尽くした事で、この場所に隠れる場所も存在しない。
「さて……と」
全ての蝿が毒に沈んだ事を確認した私は、ボックスの中からある物を取り出す。
それは戦いの最中、瀕死のまま生かして【結界】で囲っておいた分裂個体だ。
全ての分裂個体が、毒の海に沈んだ今、ベルゼブブの統率個体はコイツに入るしか無い筈だ。
”……貴様、なんの……つもりだ……”
「いや何、お前にも分かるだろう? その身体が最後の一匹だってのは、だから最後に言い残す言葉でも、聞いてやろうと思ってな。仮にも邪神とまで呼ばれてた訳だし」
”くく、矮小なモンスター如きが、この我に慈悲とはな……、今ここで我を救えば、貴様を眷族に加えてやっても良いぞ”
「どの口で言ってんだよ」
”良いのか? 邪神の加護だ。今回のようにたまたまの勝利ではない。本物の力が手に入れられるのだぞ”
「はっ、お前の手下の座なんて興味ねぇよ。それに……お前の加護なんざ無くても、貰う物は貰う予定だしな」
”何を……、貴様正気か!? 止めろ! 止め──”
「いただきます」
ベルゼブブの言葉を聞かずに【疫牙】のスキルを使い【結界】ごと、ベルゼブブを喰らう。
”馬鹿な! 我が消えるだと……この暴食を……ベルゼブブを……貴様のこの力は一体な──”
「ふぅ……。終わったぁ」
〈ご無事で何よりですマスター〉
『シルフィン:ハクア良くやりました』
ベルゼブブの反応は? もう本当に終わったのか?
『シルフィン:ええ、間違い無く』
『エリコッタ:はいです。邪神 暴食のベルゼブブの消滅確認しましたです。その証拠に──』
▶ハクアのレベルが11に上がりました。
・
・
・
・
おお、レベルアップ。そして何気に本物の強敵と戦ってちゃんと聞いたの久しぶりな気がする……。
いきなりのアナウンスに驚きながら、本当にベルゼブブを倒せた事を実感する。
しかし、戻ってから研究に明け暮れ、その結果ポイズンスライムも【竜毒】を出せるようになっていて、本当に助かった。
じゃなきゃ普通に死んでたよ。
”おいハクア! どうなった!? 生きてるのか!”
頭に響く、焦燥を滲ませるダグラスの【念話】に、そう言えばと思い出す。
鎖の上から【結界】と岩壁、氷を作って、毒をガードしていたが、どうやらダグラス達も無事なようだ。
”ああ、なんとか全部終わったよ。しかし、そこから出すのはちょっと待ってくれ。周り毒だらけだからそれを片してからね”
”はぁ……、無事なら良いだ。出られるようになったら救出頼む”
”了解”
レベルアップで身体は治ったけど、疲れが溜まってるから動きたくない……。
こうして、私はダグラス達を救出する為、撒き散らした毒をヌル達に片付けて貰い、その間ゆっくりと休むのだった。
▼▼▼▼▼▼▼
???????
―
暗闇の中、そこに一匹のハエが漂っている。
”愚かな小娘め。この暴食のベルゼブブを、本当に吸収出来るとでも思っていたのか。この身体、内側から支配してくれる”
ハクアに飲み込まれたベルゼブブの魂は、今だハクアの中で【喰吸】の力に逆らい、留まっていた。
「それは困るな」
”誰だ!?”
何も無い暗闇の中から、突如として聞こえた声に反応するベルゼブブ。
そこには闇と同化した、姿の見えない何かが立っている。
見えている筈なのに、姿は見えない。
男のような、女のような、子供のような、大人のような、老人のような、人のような、それ以外の何かのような、そんな何にでも思えるが、全てが違うと感覚が叫ぶ何かがそこには確かに存在した。
近くに居るような、遠くに居るような不可思議な、未知の感覚がベルゼブブを襲う。
「ふふっ、名乗る気なんて無いよ」
”くくっ、まあいい。貴様がなんであろうと関係無い。貴様を喰らい、我の力としてくれる”
そう言って、ソレに向かい魔力を高め突進するベルゼブブ。
このまま近付き、腹を食い破り、その全てを喰らう。それで終わりの筈だった。
だが──。その瞬間、それの発する圧力が、全く別の物に変わった。
「暴食の
”馬鹿な!? この力は……まさか──”
その言葉を最後に、ベルゼブブと言う存在はこの世から完全に消え去った。
「ふぅ……。残りカスとは言え流石邪神。美味しかった。勇者のギフトとは比べ物にならない。でも……ふふっ、まさか、一人で邪神を倒すとは楽しませてくれるね」
姿の見えないソレは、男にも、女にも、子供にも、大人にも、老人にも、人の声にも、それ以外の何かにも聞こえる声。いや、本当に喋っているのかも分からないものに、楽しそうな雰囲気を滲ませていた。
「ああ、今回のご褒美もあげないと。もっと強くなってくれないと困るからね。宿主殿……」
その言葉を残し、ソレは暗闇に同化するように姿を消した。
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