第378話私死ぬかもしれない!? いや、多分死ぬ!!
「──と、言う訳で邪神倒して来た」
「「「意味が分からない!」」」
なんとか依頼をこなして帰ってきた私達は、ヘルさんの報告を受け、集まった皆に事情を説明した。
そしたら何故か、起こった事をありのまま説明しのに、こう言われましたよ。
全員が話を聞かせろと言うから、一度で済むよう、わざわざギルド代表としてエグゼリアを城に呼び、私としては珍しくちゃんと一から説明したのに……解せぬ?
「いや、なんでそんなに不満そうなんだよ」
「だって、ちゃんと説明したもん」
「あの……ご主人様? 説明が分からないんじゃなくて、なんでゴブリン退治なんて簡単な依頼が、邪神討伐になるのかって話しですよ」
いや、それは私の方こそ知りたいのだが……。
「流石おねちゃんゴブ」
「流石ご主人様ニャ」
「本当……流石ですねハクア様」
うん。最後のエルザだけ意味合い違うよなそれ!?
「いや、うん。まあ、流石と言えば流石だよお前は、本当にこっちの予想の遥か斜め上を全力で駆け上がるからな」
「よせやい。照れるぜ」
「褒めてないからな?」
「イエスマム」
ちょっと照れてみたら、心にアイアンクローされました。
「それで? 倒した事についても消化不良だが、他には報告は無いのか?」
「他?」
「お前なら何をしでかしていても不思議じゃないからな」
あまりにも失礼な澪の物言いにもかかわらず、何故か皆が深く頷いている。解せぬ。
「まあ、あるとしたら──」
「あるんかい!」
「まあ、落ち着きたまえよ。あるとしたらこれだね」
そう言って私は自分が今着ている、ノースリーブのコートを見せびらかす。
これはベルゼブブを倒した際にドロップした物で、名前は【暴喰の黒衣】と言うらしい。
ヘルさんに聞いた所、一見ただの布だが、防御力は鍛えて行けば龍種の鱗に届く程らしい。
加えて言えば、この防具自体に強化魔法の【
更に、暴喰の名に相応しく、気力、魔力を使った攻撃を受けた時、一部をHPに変換する機能も付いている。
上のランクの相手ほど、生身で戦うなどという事は無いので、重要度の高い装備を手に入れられたという訳だ。
「ほう、それは良かったな。お前の紙装甲が更にマシになる」
「はい。ご主人様の危険が減るのはいい事です」
「アリシアの言う通りですね。マスターは一人にすると何が起きるか分かりませんし」
「確かに、地球に居た時も色々あったのニャ」
「あー、ハクアってやっぱり前から変わらないんだ」
おいそこ。やっぱりとか失礼じゃね?
「流石ですねハクア様。プククッ……」
「エルザ。笑ったらハクア様に失礼でしょ」
「ふん。いい気味」
「そうですよエルザ。リリーネもそんな事を言っては駄目ですよ。とても可愛らしいじゃない。ふふふっ」
「ちょっとお母さんしっかりして!? 一人で出掛けて邪神倒して帰って来るとか、可愛らしい訳ないから!!」
「リリーネ落ち着いて、ミミのように早く全部諦めた方が楽になるわ」
「ミミの事は信用してるけど、そんな境地には辿り着きたくないのよ!?」
メイド組も相変わらずだ。
「でもハクちゃん。今回はたまたま上手く行ったけど、次がこんなに上手くいくなんて思わない方が良いからね?」
ソウの言葉にシン……と、皆は静まり返る。
「解ってるよ。何よりも私は邪神を倒したなんて思ってないからね」
『エリコッタ:何を言ってるんですかハクアさん。【神域結界】があったとはいえ、独力の単独撃破は紛れも無い事実です』
「いや、一応ダグラスやアベルの成果もあるぞ。一番のMVPはヌルだしね」
『シルフィン:ヌルは使役している貴女の従魔でしょう。それにあの二人は流石に、頭数には入りませんよ』
「まあ、そう言えなくもないけど、それでもあんな残りカスの敵を、なんとか倒せたからって大きな顔はしないよ」
「ちょっと待て、残りカスだと?」
「どう言う事ですかご主人様?」
「詳しく聞きたいわね……」
アイギスの言葉に全員が頷く。
「どうもこうも無いよ。確かに駄女神の助力があって、相性も良かった。策が上手くハマったのもデカい。……で?」
「いや、で? って、言われてもそれがどうしたのハクア?」
「そこまでやったとしても、私は中堅に足を突っ込んだ位のレベルだ。それらが全部ハマったとしても、こんな風に倒せてたまるか。それに……奴は【群体】の力しか使ってなかったしな」
駄女神に最初に聞いた情報では、ベルゼブブは邪神の中でも最弱とは言え、【群体】の他にも複数の特性、能力を持っていると言っていた。
だが、実際に戦ったベルゼブブは、【群体】こそ使っていたものの、その他の固有能力を使っていた形跡はまるで無かった。
それが私が残りカスと言った意味だ。
「恐らくは弱ったままの状態で、不完全な覚醒だったのか、もしくはあれも分体の一つで複数に分かれているのか……。どのみち万全でも何でもない、殆どの能力を持っていない、もしくは使えなかった状態だったんだよ」
『シルフィン:よく気が付きましたね。確かにあれはベルゼブブであり、そうでないとも言えますね』
「そうね。ベルゼブブは過去、封印の際に魂を引き裂き力を分散して封印した筈だもの。恐らく白亜が倒したものも、その内の一つだったのね」
「確かに咲葉の言う通りだが、それでも君が邪神を倒した事には変わりない。それは胸を張ってもいい事だぞ白亜」
「うーむ。まあ、心がそう言うなら良いけど」
「やっぱりハクちゃんは、ちゃんと鍛えないとね。この世界だとハクちゃんが引き寄せるトラブルって、シャレにならないレベルが多そうだし」
「ちょっと待って、私のせいじゃないよね?」
「君自身のせいでも、シルフィンのスキルのせいでも変わらない。キミが死ぬ事が無いように鍛えるだけだ」
「おおぅ……」
「さしあたっては、修行の難易度更に上げましょうか心さん」
「そうだな。うかうかしてられないからな」
「ノゥ!」
私死ぬかもしれない!? いや、多分死ぬ!!
「まあ、とりあえずそれ以外はないんだな?」
「うむ。とりあえず後は、称号ゲットしたのと、そのお陰で【限界突破】とかってスキルゲットしたくらい?」
「【限界突破】?」
「【限界突破】とは、成長限界に達した一部のスキルを更に成長させる事が出来る物です」
「スキル特化のコイツには向いてるものだな」
「うむ。ステータスじゃ勝てないからな!」
「そうだな」
「……否定されないと悲しいの」
「情緒不安定か!?」
「後は、とりあえず幾つかスキルは覚えてるけど、それはレベルアップでだから今は良いかな。気になるのはベルゼブブを喰ったけど、今の所何にも無い事だけど……」
未だに消化不良で、身体の中で生きてるとかだと嫌だなぁ。【喰吸】さんに期待の一言ですな。
「……お前、よくもまあ、邪神なんぞ取り込む気になるな?」
「ふふ、まあな!」
「いや、褒めた訳じゃないからな」
『シルフィン:未だに分からない所の多いスキルですからね。恐らくは取り込んだ邪神の力に適応中なんでしょう。その内何かしらのアクションがあると思いますよ。何も無いとは思いますが、何かあったら直ぐに言いなさい。出来る限りはしますから』
「OK」
「それで他には無いな?」
「うむ。無い」
カイル君とエイラを弟子として育てる。ってのも言ったから後は無いな。
「あ、あの……」
そんな私達のやり取りを見ていたアベルが、遠慮がちに声を掛けてくる。
そう、この場にはアベルやダグラス達も呼ばれていたのだ。
今の今まで忘れてたなんて事は無いよ?
今までの話の最中、アベル達はずっとカッチコチに固まって、銅像のように立ち尽くし眺めていたのだ。
まっ、それもそうだろう。ここに居る内のギルド代表のエグゼリアに、私の仲間までは良いとして、王族、騎士長、更に駄女神達まで居るからね。
一介の村人だったこいつらには、一生直接喋る事なんてないような相手達だ、萎縮するのもしょうがない事だろう。
一応、聴取の為と言う名目で連れられて来たが、実際の所は口止めと、ここで決まった事の擦り合わせの方が目的だろう。
邪神の単独撃破なんて、功績としても影響力もあり過ぎるからね。
何よりも当の本人である私が、金も名声も要らんし、公言して利用されるのもまっぴらなのだよ。
と、なるとどうするべきか……。
邪神なんてものが出た事は知らせないといけない。しかしそれを知らせれば、倒した事まで話さなければ大騒ぎになる。しかし、もし倒したと言えば、倒した誰かを探すのは当然の事だろう。
うーむ。困ったものだ。
そしてもう一つ問題が……。
今回、多少とは言え邪神討伐に関わったアベル達は、私のように称号や何か特別な物を手に入れた訳ではないのだが、大幅にレベルアップを果たした。
その結果、試験は文句無しで不合格にもかかわらず、身の無い実力だけは大幅にアップしてしまったのだ。
「それについては少し案があるの」
そう言って、私の顔を見ながら良い顔で笑うエグゼリアに、何故か背筋がゾワッとしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます