第379話命の方が大事ざます

「な、何かねその顔は……」


 エグゼリアの表情から、何かしらの陰謀を感じた私は、思わず逃げ腰になりながら問い掛ける。

 そんな私をエグゼリアは、両肩に手を置き掴むと逃げられないようにする。そして──。


「じゃ、あのパーティーの強化訓練頼んだわねハクア」


「やっぱりかい! それについてはもう話したよね!?」


 そう、皆にはクエスト帰りにアベル達から、自分達もカイル君やエイラのように鍛えて欲しい。と、打診され断った事は既に話している。


 それなのに改めて放り投げられましたよ!?

 第一、なんで自分から振った訳でもないのに、育てなきゃいけないんさ! そこまで抱え込みたくないんよ!?


「ヤッ」


「ヤッて、子供じゃないんだから……。ね? やってくれるわよね?」


「イーヤッ」


「まあ、とりあえず聞くが、どうしてコイツなんだエグゼリア?」


「真面目な話、今、ウチのギルドに居る指導員では力不足なのよね。どこかの誰かとクエストしたら、邪神討伐に関わってレベル上がったせいで……」


「知らない。私は何も知らない」


 聞きたく無いので、耳を両手で押さえて頭をフリフリする。


「高ランクの人も居るけれど、その人達は指導員をするほど暇がある訳でもないし。所属している高ランク冒険者に頼む訳にもいかないしね」


「なるほどな。スジは通ってる」


「異議あり! 私の意思が無い!」


「「それは関係ない」」


「なん……だと……」


「ギルドもね。一つのパーティーにいつまでも構っていられないのよね。……最近、実力はあったけど、素行の悪かった高ランク冒険者の怪我とか、色々とあってね……」


 ジトッとした目でこちらを見られても困る。私はなにもしてないし、何も悪くない。彼等がたまたま新たな性に目覚めただけの話だろう。

 顔を背けてるのも、なんか冷や汗が大量に出るのもたまたまだ!


『無理ないですか?』


 黙れ、駄女神。


 エグゼリアの頼みを頑として拒み続けていると、今まで黙っていたアベルが、私の前までやって来て土下座をすると、


「お願いだハクアさん! 俺もカイルのように鍛えて欲しい」


「そんな事言ったってやらないんだからな! そもそも、そんな事して私になんのメリットがあんのさ! こっちだっていつ……いつ……うん。ふむふむ……これならまぁ……わかった引き受けよう。英雄になりたいとか言ってたよな? 良いだろう相応しくなれるように育ててやる」


 アベルの熱意に考えを改めた私は、しょうがなく提案を受け入れる事にする。

 そんな私の肩を掴むと、何故か澪が詰め寄ってきた。


「ちょっと待て」


「なんでい!」


「何を思い付いた?」


「何を言っているか分からない」


「正直に話せ。今ならまだ修正出来る」


「……お前、人をなんだと思ってんだよ」


「……そうか。話す気がないか。なら……」


 一言そう言うと、澪は何故か私の考えた【防音結界】を、周りに張る。

 どうやらアベル達だけには聞こえないようにしたようだ。


「これなら言えるだろう。さあ、吐け」


「言い方よ……。まあ、良いか。アベル達の熱意とエグゼリアのお願いを聞き届けようと言うい、私の懐の深さの為せるものですよ」


「あ、ハーちゃん。そんな建前はもう良いので本音お願いします」


「ちょっとは信じてくれません!?」


「良いから早く言え」


「ハクアの扱いが雑だなぁ」


「ある意味正しい気もしますけどね」


 ヘルさんも酷くない!?


「……これから魔族関連の問題も何気に増えそうだし、ここらでいっちょ、対魔族用の肉壁でも育成しようかな? と……」


『貴女……わりと最低な事を言ってる自覚あります?』


「だな」


「ですね」


「……あの、ご主人様? それは流石に言い方が……」


「流石主様。元魔王ですら考えないような悪辣さ」


「ふふっ、これが我が主、ハクア様の本領です」


「その言い方はどうかと思うよ。エルザ」


「まあ、白亜さんらしいですけどね」


「確かにそうだな」


「「まあ、いい考えだから採用だけど(ですけど)」」


「「「採用なんだ!?」」」


「……結局、ミオとルリもあんまりハクアと変わんないかな」


「おい、失礼だぞコロ。人をこんなクズと一緒にするな」


「みーちゃんとハーちゃんは似た者同士ですからね」


「「お前も同類だよ!」」


「いや、三人とも同じだよ」


 エレオノの言葉に全員が頷く。解せぬ。


「まあ、言い方はあれだけど確かに悪くないわね。高位の冒険者が増えるのは素直に国としても嬉しいわ」


「そうですねアイギス王女。ギルドとしても考えは同じです。それじゃあハクア。頼んでも大丈夫かしら?」


「うむ。任せろ。とりあえず私の功績を全部放り投げられるように強くする。そして私は魔族の目から逃れる!」


「……ご主人様」


「おねちゃん流石ゴブ」


 皆の視線が痛いけど気にしない。命の方が大事ざます。


 話がまとまると澪に【防音結界】を解いてもらい、アベル達に同じく鍛える事を改めて伝える。

 この後エグゼリアとアイギス達は、今回の事を更に細かく相談し、何をすぐに伝え、何を遅らせるかを決めるそうだ。


「きついからって逃げるなよ? まあ、そもそもやるなら逃がさないけど」


「が、頑張るよ」


 こうして、私による私の為の英雄肉壁育成計画が始まったのだった!


『あっ、それで決定なんですね』


 うるさいよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る