第563話憐れんだ目で見るニャー!?

「いえいえ、嘘は言ってませんよ」


「だって明らかに関係あるやん!?」


「んー。本当に嘘じゃないよハクちゃん。私達もここにこんな物があるなんて知らなかったし。そもそもここ見つけたのハクちゃんだって事、忘れてない?」


「ハッ!?」


 そうだったぁーー!?


「……ああ、普通に忘れてたんだね」


「……流石ですね白亜さん」


「憐れんだ目で見るニャー!?」


 ちくしょう。投げられたショックとその後の展開でスッキリ忘れてたぜい。


「それよりも」


「それよりもなんでい?」


「うん。それより先に逃げた方が良いかな?」


「はっ? 逃げるって何からぁ!?」


 テア達の視線の方に顔を向けると白い世界が見事に、真っ黒なにかに侵食され崩れていく。


「って、もう全員逃げてるしぃーー!!」


 コイツらひでぇ!


「ハァ……ハァ……ハァ〜。間に合ったぁ〜」


 全員から遅れながらなんとか脱出に成功した私はその場に倒れ込んで荒い息を吐く。


 うっ、息だけじゃなくて吐きそう。今更なんかあの水が吐き気に……ウップ。ちくしょう。なんで私の周りは危機察知能力が高いんだ。


「白亜さんはそういう枠ですから」


「そうですね。ハクちゃんはそういう枠ですね」


「枠組みで語らないでくださる!?」


「それにしてもなんでハクアはそんなに騒いでるんじゃ」


 いち早く逃げていたミコトが、倒れ込んだ私に手を差し伸べながら聞いてくる。


「あー、さっきの名前は確かに知ってるけど、私の知ってる物かどうかはわからんからテア説明よろしく」


「はい。結論から言えば白亜さんが言ったように、この神珍鉄は白亜さんの知っている物であり、知らない物です」


「やっぱり」


「どういう事っすか?」


「名前や効果が同じでも、性質とかは違うって事でしょ?」


「はい。その通りです」


 私の知っている神珍鉄は、それこそかの有名な美猴王びこうおうとも呼ばれる斉天大聖孫悟空せいてんたいせいそんごくうの武器、如意金箍棒にょいきんこぼう。俗に言う如意棒にょいぼうの素材としてだ。


 如意棒は両端に金色の輪がはめられた神珍鉄の棒で、めちゃくちゃな重さがある武器で、確か名前が彫られていたから如意金箍棒=如意棒と呼ばれていたはず。


 特徴は持ち主の意に従い自在に伸縮、太さも自在という武器で、もとは海の深さを測定した際の重り。


  竜宮の地下の蔵に「海の重り」として置いてあった物を、孫悟空が竜王から奪い、以降武器として使い続けた。


 逸話としては武器の重さに満足出来ない孫悟空が、東海龍王敖広の宮殿へと向かい、武器をもらうことにした。


 龍王は不遜なやつだと思いながらもいくつかの武器を見せたが、どの武器も軽く孫悟空は満足しない。


 それを見ていた龍王后は「そんなに重いものがほしいなら、かつて海底をならすために使った重さ一万三千五百斤の"神珍鉄"をくれてやればいい」と耳打ちし。


 宝物庫へ案内され神珍鉄を見た孫悟空は、武器ではないことを知らずにそれを手に取り持ち去ったらしい。


 という事で、ある意味龍王の住処でもあるここで見つかるのは、合っているようないないような。


「白亜さんの言う通りこの神珍鉄は逸話のように棒状にすれば、伸縮自在の棒。如意棒となるでしょう。それでは何が違うのかと言えばその在り方ですね」


 色々なファンタジーに現れては、それぞれに語られる神珍鉄だが、その生まれ方は神の力とその他の強力な力が合わさる事で時折生まれる、正に神の珍しい力を含む鉄。力の結晶のような物なのだそうだ。


「じゃあ神の力と龍の力があれば量産出来るもんでもないと」


「はい。ここにこうして生まれたのも偶然の産物でしょう。元々かなり珍しいものですからね」


「……チッ、売れると思ったのにご破算か」


「既に量産計画を練っていたとは流石ハクちゃん……」


「そもそも神珍鉄を扱える人間がそうそう居ませんよ」


「コロでも?」


「まだ無理ですね」


 うーむ。無理かぁ。


「それに神珍鉄に選ばれないといけないしね」


「選ばれる?」


「はい。逸話のように神珍鉄はどんな量でも8トンの重さがあります。なので普通に扱うには不便な物ですが」


「神珍鉄に認められればその重さを感じないとか?」


「そういう事です」


 なるほど、曲がりなりにも鉱物の癖に主人を決めるとか生意気な。しかし私は重さを感じなかったから認めるれたのか? ……うむ。ならいいか。


「でも神の力の結晶体なら私が取りに行かなくても良かったのでは?」


「いえ、そうでもありませんよ。トリス持ってみますか?」


「うっ、ぐう……な、なんだこの重さ……は」


「おっと」


 テアからポンと軽く渡された神珍鉄をトリスが持つと、その重さのあまりあのトリスでも落としてしまった。


 しかもトリスは落とした神珍鉄を軽く受け止めた私の事を、信じられないものを見るような目で見ている。


 ふむ。マジっぽいな。


「神珍鉄に認められるには、第一に神珍鉄に認められる事、第二に神の力を持っている事です。龍族という事でこの場の者は認められる要素はありますが、神の力という点で資格は白亜さんとミコトにしかありません」


「まあ、だからハクちゃんには自分から取りに行って貰ったんだよ。自分に近付こうとする敵から逃げる神珍鉄を捕まえる事でね」


 なるほどあれがある意味試練だったのか。


「という訳で白亜さん。何か通知が来ていますよね?」


「ああ、うん」


 テアの言葉に頷く。


 実は先程からシステム音が頭の中で鳴りっぱなしなのだ。


 それがこちら!


 ▶白打が神珍鉄を要求してます。神珍鉄を吸収させ、如意棒を作成しますか?


 ▶比翼連理が神珍鉄を要求してます。神珍鉄を吸収させて強化しますか?


 はい。まさかの武器と防具両方から催促がありました。これどうするべきですかね?


「どちらかは反応すると思いましたがまさか両方ですか。それに如意棒……」


 そう。白打に関しては何故か神珍鉄を要求して、取り込むと如意棒が出来ると言ってきたのだ。


 ここに来てまさかの白打も意思持ち説&情報掠め取られてる説が浮上するというね。この世界色んなモノが意思持ちすぎだろう。


「それは白亜さんだけです」


 ドチクショウ。


「なら分割しましょう。その大きさなら丁度三分割くらいには出来ますよねテアさん?」


「そうですね。白亜さんの武器と防具に取り込ませてもう一つはミコトの武器にしますか」


「ふえ。良いんですか!?」


 ミコトさん。驚き過ぎてなのじゃ口調忘れとるよ?


 今まで蚊帳の外状態だったミコトが、急にスポットライトを当てられ慌てふためく。


「まあ、良いんじゃね? 私は私で使っても残るんなら」


「そっか。ハクアありがとう」


「どういたしまして」


「じゃあ決まり。早速分割しよ」


 ソウは早速と言うように私の持っていた神珍鉄を手に取ると、それを上へと放り投げる。


「───フッ!」


 一振。


 その一振で神珍鉄は見事に三分割されて地面に落ちた。


 やっぱすげぇな。


 その絶技に思わず感嘆する私。


「さっ、ハクちゃんどうぞ。ミコトまずは認められる所からだね」


 同時に受け取る私とミコトだが、私は両手に持ってもなんともないのに対して、ミコトは両手で持ってもかなりキツそうだ。


「降ろしても大丈夫だと思うよ?」


「ほ、本当かの?」


「ええ、大丈夫ですよ。ミコトはまずそれを降ろして力を注いで下さい。抵抗力に打ち勝てば力が通り易くなるので、そうすれば神珍鉄も屈服しますよ」


「認めさすんじゃなく屈服させるの!?」


「そちらの方が早いので」


「まあ、出来るなら良いのか?」


「うん。それじゃあハクちゃんもチャッチャッとやってみよう」


「軽くね!?」

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