第495話聞・い・て・い・る・の・か?
レリウスのことをノリで決めたのは良いが、各所の承諾を得る事を失念していた私は早速了承を得る為行動を開始した。
──のだが、
「……ほう、お前がレリウスに訓練を付ける……と?」
「いや、うん、まあ、そんな感じ?」
「それは随分と面白い冗談だな」
いやいや、そんな岩石を割砕きながら凄むの止めてくれませんか?
そして後ろの方達は少しくらい助けようとしてくれませんか!?
そう、行動を開始した私はと言えば、現在トリスの目の前で岩場の硬い地面に正座中だったりもする。
でこぼこが凄く痛い。いきなり正座させられたから尖った部分に座ってしまったのが運の尽きである。無念。
しかしまさか、一番の難関だと思っていたおばあちゃんがアッサリとOKを出し、トリスがここまでしつこいとは思ってもいなかった。
「聞・い・て・い・る・の・か?」
「聞いてる聞いてる。最近魚食えてないから夕飯は魚が良いな」
「……ほう、燃やされたいらしいな」
「あっ、冗談です」
全く。冗談も通じないとかやーねーこのブラコン爬虫類。
「どわっしょっい!? 何しますの!?」
「イラついた」
「そんなんでいきなりブレス吐くなや」
「いや、絶対に何か失礼な事を考えていた」
コヤツ、確証のない事で確信を抱いてやがる。
「ほらほら、トリスもそこまでにしなさい」
「うっ、し、しかし」
「あら、トリス。私はそこまでにしなさいと言ったわよ」
「は、はい」
と、おばあちゃん流石の対応である。
どうせならもっと早く出てきて欲しかった。
しかし後ろを見ればさっきまであった茶菓子がなくなっている。恐らく食べ終わったから出てきたのであろう。酷い私も食べたかった。
「まあいい。それで何故お前が妾のレリウスを鍛えるなんて話になってるんだ?」
「それはさっき話したけど?」
「怒りで聞こえていなかった」
おいおい、ここに来てだいぶ残念な感じになってきてるけど大丈夫? 脳みそ溶けてない?
ギロリと睨まれた危ない。
と、いう事で改めて経緯を説明する。
おばあちゃん達に説明した時にはいなかったミコトを含めた面々も一緒に聞いている。きっと皆も食べ終わったのだろう。ちくしょうめ。
「──それで、お前はレリウスにはうちの闘法が向いていないと?」
「うーん。正確には違うかな?」
「どう言う事じゃハクア? こ奴には向いておらんからお主が教えると言うのはでないのか?」
因みに本日は皆が居るからじゃロリ口調のミコトさんです。
「正確に言うとまだ出来ない。まだ早いって感じかな?」
「早い?」
「うん。まだ早い」
攻法殿で調べてわかったのはマナはやはり魔力の延長、そしてドラゴンの武功がマナと密接な関わりがあるのだという事。
マナの扱いが得意なドラゴンは気系統を使わずに、マナで身体を強化する。
気を使わずにマナだけに絞る事で、ドラゴンの力を最大限に引き出そうとしているのだろう。
その証拠。と、言う訳ではないが、ドラゴンを象徴する角や牙、爪や鱗など、実はあれ、超高濃度のマナ結晶にドラゴンの力が混ざって物質化した物だったりする。
だからこそ素材になった時、ドラゴンの力を秘めた超すごい魔力がこもった素材になるのだ。
ドラゴンが強いから素材も凄いなんて単純な事ではなかったようだ。
そして魔法だが、魔法……魔力は属性と結び付けた方が効果が出やすい。
これは私達地球人ですら、魔法というものをイメージした時、炎や水、風や土をイメージするくらい当たり前の事だ。
そんな魔力の先にある力を、ドラゴンはマナと自らの力を結び付け使う。
そしてマナを使う闘法もまたその属性の影響を受ける。つまり火竜なら火の属性だ。
火の属性は力に秀で、一撃の破壊力が高いのが特徴的な武功だ。
よく言えば力を効率的に破壊力へと転化する武功。悪く言えば力押しだ。
「言いたい事は分かる。だが、それがどう繋がる?」
「繋がるでしょ? レリウスの身体は未だ出来上がってない。それに筋肉も大きな一撃を狙うより、小さな一撃を積み重ねるタイプだ」
「だから修練が必要なんだろう? 妾もこれくらいの時から修練を始めた。レリウスはかなりのスピードで上達している。このまま行けば大丈夫だ」
「違うよ。あー……その……」
「なんだ?」
まあ、ここで言い淀んでもしょうがないだろう。
「トリスは純粋に才能があったんだよ。ただレリウスは違う」
私の言葉にレリウスは顔を下げ、トリスの瞳には憤怒の情が宿る。
殺気すんげー。
「勘違いすんなよ? レリウスに才能がない訳じゃない。お前に才能があるんだよ。それにレリウスは……恐らく複合属性持ちだ」
「なっ!?」
「ほんとっすか?」
「そうなのレリウス?」
トリスが絶句し、シーナとムニも自分がよく知る弟分を見る。
しかしレリウスはそれに気が付かぬ程動揺しながら私の顔を見ている。
ドラゴンは単一の属性を極める者達だ。だから複合属性というモノは、私が思っている以上に衝撃的なものなのだろう。それこそ才能がないと言われてもいい程の。
トリス、シーナ、ムニが信じられないという表情の中、おばあちゃんは驚いていない所を見るとやはり知っていたのだろう。
「本当なのかレリウス?」
「それは……はい。本当です姉上」
「わかっただろう。お前は純粋な単一属性持ちだからこそその全てを火力に回す事が出来た。でもレリウスは複合属性だから、突出して一つに回すのにも限度があるんだ」
ドラゴンの力を人間が振るうのが無理なように、最大出力に難があるレリウスには火龍の闘法はまだ早いのだ。
「だかこそレリウスが覚えるべきは他にもあるんだよ。私やミコトのようにね」
私もミコトも実を言えば火龍の攻法だけではなく、風龍、土龍、水龍全ての闘法を習っている。
これは私が元より全ての属性が使える事、ミコトも龍神の娘という事でドラゴンには珍しい全属性持ちという、特殊な立場だからこそだ。
「レリウスはそれを習えば強くなれるのか?」
トリスが絞り出すように言った言葉。それに答えるべき返答は決まってる。
「そんなのもちろん知らん!」
「お前はいっぺん殺す」
言い切った私の胸ぐらを高速で掴み上げ本気の殺気を浴びせてくるトリス。
うわぁ、目がマジだ。
「いやいや知らんがな。私は手伝うだけだぞ? 本当に強くなれるか、そこから何を見つけるかはレリウス次第だろ? それに私達が決めた期限はさっきも言ったが武闘会までの一週間。それで何か変えられる訳ないじゃん!」
「うっ、いやまあ、それはそうだが」
そう。私達が決めた期限は火竜達が行う部族内の闘技大会までの期間なのだ。
それがわかっているからこそ、おばあちゃんも修行時間を減らす事に同意してくれたのだ。(注、無くすとは一言も言ってくれなかった)
納得はいかないが理解はしたのか解放される私。しかし突然過ぎてべチャリと落ちた。痛ひ。
「じゃあ逆に聞くが、それに意味はあるのか?」
「うーん。あるとは思うよ。私から言わせればレリウスは自分の戦い方を知らないだけだ。その意識を切り替えるだけで、立ち回りは全く違う物になる。そもそも私が教える時点で、ドラゴンなんぞに立ち回りの意味なんぞ読ません」
しかも武闘会に出るのは部族の若手のみ。歴戦の猛者ならまだしも、温室育ちのステータスゴリ押し共に負けさせるつもりもないのだ。
「わかった。ハクア、レリウスを頼む」
「了解。まあ、出来る範囲で頑張るよ」
こうしてやっとブラコン姉からの許可が降りたのだった。って、熱っつい!?
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