第496話真顔で言い放ちやがったぞこのブラコンクレーマー

 玉石混合試合。


 火竜の部族内で行われるその試合は、名前の通り才能ある玉と才能がない石を、一定の世代が集まり競わせる事で判別するものだ。


 この試合は何年かに一度開かれ、上位十名が部族内で優先的に修行をつけられるのだ。

 それはもちろん技術的な指導も含め、霊薬や指導者なども含めたモノ、そうなってくれば強さを重んじるドラゴン達にとってそれがどれだけ重要かは分かるだろう。


 大会のルールはトーナメント戦、基本的に反則はない。ただし人質を取る、脅迫などの実力とは無関係の行為がバレた場合は、最悪、龍神に力を奪われる可能性はある。

 因みに武器の使用、毒物などの使用も禁止されていないが、毒物などに関してはドラゴンの戦い方に相応しくないとの理由で、使われる事は少ないのだとか。アホらしい。


 これは搦め手専門の鬼っ子を全否定するような考え方ですな。


 そして一番重要なルール。


 それは人化状態で戦うという事だ。


 なんでもドラゴンは元のままの姿で修練するよりも、人化状態で修練する方が効率が段違いにいいらしい。

 人化はドラゴンという強靭な肉体を、人の形へ圧縮したようなモノ。しかもその状態で魔法でもなんでも使うには、力の繊細な操作が常に求められる。


 簡単に言えば常に強力な枷を付けているようなものなのだ。


 だからこそ人からドラゴンの姿に戻った時に、枷から解き放たれたドラゴンは、より繊細に強力な力を放出する事が出来るようになるらしい。


 なんかドラゴンだけ狡くね?


 そんな理由で玉石混合試合では人化状態での戦闘が、ほぼ唯一と言っていいルールなのだとか。

 因みにドラゴン状態に戻ったら負けだが、部分的な竜化ならばOKらしい。


 それはコントロールの賜物なのだそうだ。


 実際人化状態で部分的な竜化をするのは、素の状態に引っ張られるらしくもの凄く難しいのだとか。


 まあそんな訳で試合のルールとしてはかなり緩い縛りになっている大会なのだ。


 因みにこの大会、開催されているのは龍族の中で特に好戦的な火竜の部族のみ。

 他の部族達も観覧可能、内外に火竜の実力を示しつつもお祭り的なものにもなっている。


 まあだからこそここで成績を残せれば、内外に実力を示すもってこいの機会になる。


 そして私とレリウスの目標は、一週間後に迫った玉石混合試合での優勝な訳なのだが──。


「それでお前は何をするつもりなんだ?」


 やっとこさ悪質なブラコンクレーマーから許可をもぎ取った──もとい説得した私への開口一番のトリスの台詞はこれだった。


 うーん。あからさまに警戒されておるのぉ。


「まあ、ぶっちゃけ教える事ってあんまりないんだよね」


「お前は本当に死にたいらしいな」


「落ち着くっすよトリス! ハクアだからしょうがないっす!」


「そうなの。ハクアが残念なのは今更なの」


 私の言葉に素早く反応したトリスに、またしても胸ぐらを高速で掴み上げられ吊るされる私。

 そんなトリスを宥めるシーナとムニだが、その言葉は確実におかしい。


 と、言うかなんだとこの野郎。


 シーナとムニの説得とも言えない説得に、なんとか平静を取り戻したトリスが私を解放して睨み付ける。


 うん、違うわ。平静なんざ取り戻してない口元と額がピクピクと怒りで震えとる。


「ならどうするつもりなのじゃ?」


 そんな姿にちょっとビビりながら、ゆっくりと少しずつ距離を空けているとミコトが話を引き継ぐ。


「いやまあ、勘違いさせたのは悪いけどさっきも言った通り悪い意味じゃないからな?」


 教える事が少ないと言うのは本心だが、実際に何も教えない訳じゃない。

 そして手の施しようがないのではなくて、レリウスの才能なら下手に教える必要がないというだけなのだ。


 レリウスの体格と技術では力一辺倒の技は確かに向いていない。


 しかしそれでもある程度形になっているそれは一定の効果ならある。

 そしてその練習をしながらも、高い水準で全てが鍛えられているという事は、それ以外の自主訓練で十分な成果が出ているという事なのだ。


「と、言う訳で訓練的な意味ではあんまり教える事は無い。教えるのは考え方と多少の技術だね」


「考え方?」


「うん。ぶっちゃけ訓練を見てわかったのは実戦経験の少なさ。だからこの一週間で徹底的にそこを仕込む」


ええ、そりゃもう徹底的にこれでもかという程に。


「後は火竜の武功を基準に考えて戦闘を組み立てる癖、と言うか思考が出来上がってるから、それを自分仕様に変換出来るようにする感じかな?」


「むっ、案外まともだな」


「いや、人をなんだと思っている」


「クズ」


 真顔で言い放ちやがったぞこのブラコンクレーマー。


「まあいいや。そんな訳で今日レリウスにやってもらうのは武器の扱いだね」


「武器? それは今まで通り大剣ではダメなのか?」


「いや、大丈夫だよ。でも正確には相手やシチュエーションに合わせて複数の武器を扱えるようにする」


 自分が勝てるパワータイプなら一撃を狙う大剣でも良いが、それが当たらない相手や、手数を出したい時、自分よりも力が強い相手、そんな複数の展開で使えるように武器を増やすのが目的だ。


 本来なら器用貧乏になりかねない方法だが、この間少し教えただけでも槍の扱があっという間に上達したレリウスならば、本当に私が言ったように万能な戦いが出来るだろう。


 他の武器も同じように高水準で扱えるのならば、相手に合わせて武器を変える方が、対策も練られ難く、相手にとって嫌な対戦相手になる。


 まあ逆に一番切り抜けたい相手まで、手の内を隠しておくというのも面白いけど。そこら辺はレリウスの好みでいいと思う。


 私の説明にほとんど全員が納得するが、やはりと言うかなんと言うか、火竜姉弟だけは難色を示す。


「それは卑怯じゃないか?」


「いやどこがだよ。相手の弱点を攻めるなんざ常套手段だ。正面から戦うというだけの脳筋戦法で負けるほうがよっぽど恥だろ」


「うっ、まあ、そうだが……」


「それにレリウスには他の属性も覚えて貰う予定だから、この程度で火竜らしいとからしくないとか言われても困るんだけど?」


「姉上、心配してくれてありがとうございます。でも僕も玉石混合試合で勝ちたいんです。だから……出来る事は全部したい。それが例え火竜らしくないと言われても!」


「レリウス……」


 うん。なんかすげー二人の世界作ってる。あれ? 姉弟なんだよね?


(いや、姉弟ではあるけどあの二人、将来的にはつがいになるっすよ?)


(……えっ? マジで?)


(マジなの)


(ドラゴンが単一属性に偏る方が優れているのは知っているじゃろ? その為ほとんどが同じ部族内で番になる。その中でも特に力が強ければ近親婚……姉弟でも十分有り得る)


(マジか)


 うーむ。こいつら自分らの血を濃くする為にインブリーディングしてるのか。

 より強い種を作る為にドラゴン程の長命種がそれをすれば、確かに優秀な個体は生まれやすいのか?

 なんにしても、トリスがしつこく食い下がって来たのはそれが理由か。


 いい感じに二人の世界を作っている光景を眺めながら、面倒な事したかなぁ? と、思い始めた私だった。


 まあ、燃やされない程度に頑張ろ。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

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