第494話しょうがないなぁ

 本日はまたしてもお休みとなった貴重な日である。


 何故そんな事になったかと言うと、なんとこの間の攻法殿での読書はお休みとは認められず、それはいかんと振替休日になったのだ。


 どうやらこの里、お休みの日にちゃんと休まなかった者には、振替休日が適用されるらしい。実に素晴らしいシステムだと思います。まる。


 私としては本を読むだけなら十分お休みだったのだが、お休みをくれると言うのならなんの否もないんだよ。

 まあ確かに、本を読みながら書いてある事試したりしてたから、厳密には休んでたとは言いづらいけど……。


 と、言う訳で本日も急なお休みを頂けたのだった。


 因みにミコトはあの日、普通に勉強の日だったので今日のお休みは適用されず、恨めしそうな顔で連れていかれた。

 龍神の娘ともなるとお休みを奪われる事もあるらしい。笑顔で見送っておいた南無。


 そんなこんなで一般人な私はお休みとなりましたとさ。


 と、言う訳で私は現在またしても龍の里内部を散策中だったりする。


 今回もちゃんと書き置きをしてきたので今度はきっと怒られないはず。

 しかも行先はここ。と、暗号混じりの書き置きだ。


 遊び心満載な私の書き置きに、トリスもきっと感心する事だろう。


 まあ、暗号解くと出て来るのは龍の里の何処かって言葉だけど。

 だって結局ここに何があるかまだ知らない。ぶっちゃけ私の部屋の周りを除くと、攻法殿と龍神との謁見場所しか知らんしね。閑話休題。


「しっかしまあ……」


 前回ミコトと会った時同様、まあまあ歩き回った。

 しかしあるのは居住区のみで、皆の言う通り店も何も無い。


 聞いた話では竜以上の者は、一日の大半を自身を鍛える為や、魔法の研究に時間を使うのだとか。

 その他は自身のダンジョンの様子見をしたり、何処かで暴れたり、他の巣に居着いたりと基本的に好き勝手やっている。

 食事は基本的に狩猟が主。外周区に住んでいる竜の系譜に連なる種族のリザードマンや亜竜達から時折、狩猟ではどうにもならない酒などを上納されるぐらいらしい。


 そんな生態だからだろう。


 龍の里とは言っても、基本的に居着いてる者が多い訳ではなく、どちらかと言えば集会所と言った感じだ。

 龍神を上に据え、それを取り巻くように居着いていると言う感じ。


 まあ、この世界の管理もある程度してるらしいけど、ぶっちゃけ規模がデカすぎてよく分からん。


 わかりやすいのは火龍王だろうか。


 火山地帯にダンジョンを作り管理する事で、火山の噴火などを抑えたりもしている。

 全部を管理出来る訳ではないが、そうやってそれぞれの種族が、個々に土地の力が強い所を管理しているらしい。


 だからなんでもかんでもドラゴン居るからって、倒したりするのは良くないらしい。

 まあ、野良のドラゴンも居るからそこもまた難しいのだが。


「あれ?」


 ここ最近で教えられた知識を思い出しながら散策していると、何やら声が聞こえて来たので覗いてみると、そこにはトリスに弟と紹介されたレリウスが訓練している姿があった。


 ふむふむ。


 丁度いい岩場に腰掛け見学する。


 一撃一撃に全力を注ぐ気合いの入った一撃を、何度も何度も反復しては玉のような汗を流す。


 相当集中しているのだろう。


 五メートルも離れていないのに私に気が付く気配もない。中々の集中力だ。


「アンタは……」


「悪いね見学させてもらったよ」


 三十分程経った頃、長い息を吐いたレリウスがようやく私の姿に気が付く。


 昼食用にと作って貰った大量のおにぎりを食べながら見学していた私は、こちらに意識を向けたレリウスにおにぎりと飲み水を投げて渡す。


 案外素直に受け取ったレリウスは、少し警戒しながらもおにぎりに口を付けモグモグと食べ始めると、一気に投げて渡した二つを食べ切った。

 こちらをチラリと見る視線はもっと欲しいと言っているが、どうやらトリス達に比べるとドラゴンとしてのプライドが高いらしく、素直に欲しいとまでは言えないようだった。


 しょうがないなぁ。と思いつつ、おにぎりが詰められている弁当箱を一つ渡してやる。


 すると、しょうがないから貰ってやる。という空気を滲ませ、少し頬を緩ませながら受け取り、バクバクと食べ始めた。


 テアの作ったおにぎりは、絶妙な塩加減の塩むすびや、キムチっぽい辛い野菜や甘辛いベヒーモスの肉、オーク肉の生姜焼きなど、実に十五種類もの数が用意されている。


 うむ。外で食べるおにぎりは格別よの。


 何も無いが里の端にあるこの場所の景色は良い。

 風も心地よく暖かい陽気も外で食べるにはもってこいだった。


「……なぁ」


 特に会話をするでもなくお互いに食べ進めていると、弁当箱のおにぎりを全て平らげたレリウスが話しかけて来る。


 もう一つ欲しいと言うんじゃないだろうな。と警戒しつつもなんだ? と、応えるとすこし言い淀んだ後、レリウスが口を開く。


「僕の訓練の様子を見てただろ。その……どうだった?」


「……まあ、聞いてきたって事は自分では思う所があるんだろうし正直に言うと、ハッキリ言って向いてないと思う」


 その言葉はある意味で予想通りだったのだろう。落胆は見えたが予想外という感じではない。


 レリウスのやっていた動きは、力のある者が全身の力を連動させ、強力な破壊力の一撃を放つものだ。

 だが私が見た限りでは、レリウスは細かな一撃を重ねていく攻撃が向いているように思う。

 体重移動、視線の動き、動線、筋肉の付き方からしても、恐らくそれに拘る理由はない。


 そうハッキリと告げるとレリウスは一言そうか。と、呟く。


「……あの戦い方は、トリスや火龍王のおっさんの戦い方か?」


「ああ、そうだ」


 やっぱりか。


 あの二人をの動きを見れば、一撃に重きを置いた戦い方をする者だと分かる。

 おそらくはレリウスもそれに倣っているのだろう。


 そんな風に思っていると、私の考えを肯定するようにレリウスがポリツポリツと話し始める。


 あの闘法が火龍に伝わる闘法である事、父である火龍王も姉であるトリスも、その闘法を使って結果を出している事、だが自分はそれで結果を出せていない、その事が常に頭を離れないらしい。


 そして何よりもその所為で、火龍王の直系であるにも拘わらず、落ちこぼれと言われている始末。

 それを払拭する為にレリウスは、今度開かれる闘技大会で優勝する為、こんな里の端、一人で訓練を続けていたのだそうだ。


「姉上達からは、訓練を続けていればその内強くなれるから焦るなと言われている。けど……」


「お前は今、証明したいんだろ」


 頷く。


 それを私に話すほどには追い詰められているのだろう。


 火龍の長に火龍のエース。その二人を身内に持ちながらも結果を示せない。

 その現実がレリウスの心に重くのしかかっている。


「一つ聞くが、あの戦い方じゃないとダメなのか? もっと足を使って動き回る方が向いてると思うぞ」


「いや、そうじゃない。けど、僕は火龍王の息子なんだ。だから僕も……火龍らしい戦いを──」


「それで負けたら意味が無いだろ?」


 確かに、守りたい物があるのは分かる。だが、肝心なのは力を示す事ではないのか?


 私がそう問掛けると、レリウスはでも……と続ける。


「僕には姉上のような……火龍の得意とする力がない。だけど風龍のような速さも、水龍のような器用さも、地龍のような硬さがある訳でもない。だからどうして良いのか分からないんだ」


「んー? 確かに突出したモノはないけど平均的に能力は高そうに感じたぞ?」


 さっきの訓練だけでもステータスは高水準に纏まってる印象を受けた。

 それならいくらでもやりようはあるように思う。


 そんな私の言葉をレリウスは首を振って否定する。


「確かに僕はどのステータスも平均的に高く苦手なものもない。けどドラゴンがドラゴンを倒すには何か突出した力が必要なんだ。僕のような器用貧乏じゃ──」


「いや、それは器用貧乏じゃなくて万能って言うんだろ?」


「えっ!?」


 何故かレリウスは私の言葉を聞いて驚いてる。


 いやいや、高水準に纏まってる奴が平均的になんでも出来て、その上苦手なモノがないってそれは万能じゃん。


 多分、トリスも火龍王もそれが一番の向いてると思って、レリウスに一撃必殺の闘法を教えている。

 だが、私に言わせれば人には向き不向きがある、例えそれが火龍という偏りが生まれやすい種族でもだ。

 トリスや火龍王は力に偏っているようだが、レリウスは違う。


 ならばそれにあった方法を模索するべきだ。


 いつまでも一つに拘るのも強くなる道ならば、様々な可能性の中から自分の道を見付けるのもまた手段の一つなのだから。


「分からないなら私が教えてやるよ。だから、お前を馬鹿にした奴らあっと言わせようぜ」


 こうして私はレリウスの特訓に付き合う事になったのだった。


 ドラゴン育成の始まりだぁー!

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

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