第586話メインイベントはこの後ですし
「えっと……つまりはやっぱりあのアジ・ダハーカってのが悪いって事で良いんだよね」
「いやまあ、そうだね」
なんだかんだと庇うつもりまではないので、ミコトの言葉に同意する。
「やっぱり……これだから魔龍は信用出来ない」
吐き捨てるようなその台詞は、普段のミコトを知っている私からすると、違和感を覚えるほど侮蔑に満ちた言葉だった。
「えっと……ミコトさん?」
「どうしたのハクア?」
うーん。やっぱり私にはいつも通り普通なんだよなぁ。
「いやー、その、魔龍って言ってたけど邪龍とは違うの?」
あまりつっこむのもどうかと思った私は、気になっていた事を聞くことにした。
けっしてビビった訳ではないので、その辺はわかって欲しい。誰に向けた弁明だろうか?
「ああ、ハクアは知らなかったんだ。えっとね邪龍ってのは種族的なものを指す言葉だね」
「種族的?」
「うん。例えば黒龍とか、ボーンドラゴン、ドラゴンゾンビとか、出自や性質が闇寄りの人達を総称して邪龍って呼んだりしてる。私達的には蔑称に近いかな」
「そうなんだ」
まあ、人間側もだいたい同じニュアンスか。
「それで魔龍って言うのは、邪神や悪魔に力を与えられて、黒魔力を手に入れ堕ちた奴らを指す言葉だよ」
「ほほう」
なんでも邪神や高位の悪魔は自身の眷属、契約者に力を与える事が出来、その分け与える力が黒く邪悪な力という所から黒魔力と名付けられているらしい。
「その黒魔力を使う
吐き捨てるような台詞を吐くミコト。
確かに強さを求めて外部の力を使うのは、修行を行う人間達にとっては邪道かもしれない。しかもそれが邪神や悪魔からとなるとなおさらか。
「ちなみにどんな感じなの?」
「えっとね。ハクアの使う白魔力の
「ふむふむなるほど、私の使う白魔力の白化と逆バージョン…………えっ? 私の使ってる?」
「えっ?」
「「えっ?」」
ミコトと二人で首を傾げながらお互いを見る。
いや、そんな顔されましても、私白魔力とか白化とか今初めて聞きましたが?
「はい。なので説明しに来ました」
「うわっ!?」
「だから、いきなり現れたうえに普通に地の文を読むのやめてくれませんかね?」
「ホワイトボードも用意出来てるよ」
「用意周到過ぎません!? どっから出した!」
「メイドですので当然です。私のメイド力は高いですから」
「便利だなその言葉!? そしてメイド力ってなに!?」
ここに来て変な要素増やそうとすんなよ!
「メイドって凄い……」
いかん。ミコトがなんの迷いもない言葉に本気にしている。このままでは漫画やアニメでしか存在しないようなスーパーメイドが異世界に根付いてしまう。
「えっ、テアさんはそんな感じですか? じゃあ私は人斬り力って事で」
「適当過ぎだし、物騒にも程がある!?」
「まあまあ、じゃあ解説始めるよー」
「流し方まで雑っ!?」
そしてやっぱり普通に始まるというね。
「先程話していた通り黒魔力と呼ばれている力は、邪神や悪魔の力です。それに引き換え白魔力と呼ばれるものは一般的に善神と呼ばれる女神や天使の力を指します」
「なるほどぶっちゃけ白黒言ってはいるけど神力の事を言ってんのか」
「ええ。そうです」
「正確に言えば、神力にに昇華する前の力だね。まあ、逆にだからちゃんとした名前がなくて黒魔力、白魔力なんて呼ばれてんだけどね」
「ふーむ。なるなる」
ここでおさらいすると、この世界の住人は通常気力と魔力を持っていて、それを更に磨く事でその先の力、仙力とマナというより高純度の力が使える。
更に力を高めると魂の力、霊力が使えるようになり仙力+マナ+霊力の三つの力を鍛える事で、全てを束ねた神力となるのだ。
詳しく言うと、三つの力を束ね神力に昇華する過程で、そこまでの経験により神力は聖の属性か魔の属性のどちらかに分かれ、完全に神力を得てから、水や火などそれぞれ詳細な属性の付加を得る。
そして今回の本題である黒魔力、白魔力と呼ばれるモノは昇華する過程の力、言うなれば不完全な神力と言える。
天使や悪魔は鬼や龍よりも神に近い位置に居る種族。
しかし神に至る前なので神力モドキの力を使う。そしてその力を他の種族に分け与える事が出来るのだ。
だがそれなら何故、神力を使える善神や邪神が力を与えても神力モドキなのかと言えば、神力をそのまま与えてもその力に耐えられる器がないからだ。
だから神力へと至る前の弱い力しか渡せない。
まあこの経験は、駄女神から力をほんのちょっとパクっただけで死ぬほど苦しかったから分からなくはない。
それが黒魔力と白魔力の正体だ。
ちなみに鬼力、竜力は仙力、マナの先にあるものだが、それは鬼やドラゴンがそれに特化した種族だから得られるもので、その代わりに気力や魔力が使いにくくなる。
絶対に無理という訳ではないが、かなりの努力が必要になるらしい。
「なるほどね」
「はい。ちなみに話に出ていた黒化や白化は制御出来ない力が漏れ出た影響で、身体がその力の影響を受けた状態です」
「つまりは未熟って事だね。ハクちゃんも神獣化した時に少し光ったり、龍化した時に髪が黒くなるのはその影響だよ」
「なんと!?」
えっ、龍化の黒髪ってその影響なの!? それじゃあ闇堕ちしてないって言ったのに、実は本当に闇堕ち状態に近かったって事!? やばい。この情報だけは絶対隠し通さなければからかわれる。
「ま、まあ、そんな事もあらぁな。って、ちょいまち」
「なんですか白亜さん?」
「私、悪魔や邪神と契約した覚えも眷属になった覚えもないのだが、なんで龍化でその黒化? ってのしてるの?」
「あっ、確かにそうだね」
「ああ、それはね。ハクちゃんの龍の力はドラゴンゾンビというか、アスクニルカの力でしょ」
「うん」
「そのアスクニルカは世界を呪った時に、邪神に付け込まれてその力に呑まれた。そして毒竜へと姿を変えたんだよ」
「……それは、あの時の企みが邪神の手のひらの上だったって事?」
「残念ながらそこまでは分かりません。人間の邪悪さに目を付けたのか、はたまた最初から利用する気で近付いたのか」
「そっか……」
それでも邪神の関与はあったって事か。
邪神の力を使った人間の企みなのか、邪神に操られた人間の仕業なのか、今となっては真相は闇の中という事か。
でも、もしもその道が交わる時があれば───その時は、アークやレティの代わりに、どんな手を使ったとしてもしっかり礼をしてやろう。
「しかしまあ、お前らピンチの時には来なかったのに説明の時だけ来るとか喧嘩売っとるん?」
「試練だからね手を出して失格になっても困るでしょ」
「まあ、それは確かに……」
しかしそれで納得出来るほどヌルい戦闘じゃなかったのだよ!
「それにどちらかと言いますと、メインイベントはこの後ですし」
「はっ? 何言って───うぐッ!?」
「ハクア!?」
テアの言葉に聞き返した直後、心臓がドクンと脈打ち言葉が途切れる。
そしてうずくまる私の体からシュウシュウと音を立てて煙が吹き上がり始めた。
なんだ、なにが……。
ミコトが心配する声が聞こえる。しかしそれと同時に煙に包まれる直前、何故か私を見てワクワクした顔を見せる保護者二名に嫌な予感が止まらない。
しかしその現象も割とすぐに収まり、体が楽になると同時に煙が晴れていく。
そして───
「え、ええ! ハクアがちっちゃくなってるぅー!?」
「はい?」
ミコトの叫びに自分の手を見ると確かにそこには子供の手が───。
「「ええええぇーーー!!」」
私とミコトの絶叫だけが響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます