第587話なんじゃこりゃー!!
右手を見る。
左手を見る。
そして息を吸い。
「なんじゃこりゃー!!」
「流石ですね。どれだけ想定外の事態でもボケだけは忘れないとは」
「本当にああいう所は流石ですよね」
「何を冷静に分析してくれてますノ!? ワタクシ結構動揺してますのよ!」
「うん。そりゃそんだけお嬢様口調になってるの聞けばわかるよ」
「てかお前ら、本題別とか言って来てたならこの事態予測出来てたって事だよな? どうなってんの私の身体!?」
「いや、私はテアさんに面白いものが見れるって言われて来ただけだよ」
面白いものとか失礼すぎません?
「単純にオーバーフローですよ」
オーバーフローとな!?
「でも今まで何回もバーストしてましたがこんなことなかったよ?」
あれやこれやと何回目だっつの! いや、本当に何回目なんだよ。私よく死んでねぇな。
「当たり前です。今回は今までの比ではないでしょう」
「うぐ……」
確かに……ほんの少し前に
「それでこの程度なら良い方です」
「でもなんで小さくなるかな?」
「元の姿では消耗が大きいからです。言わば省エネモードと言った所ですね」
……家電かなんかなのかな私。
「似たようなものです」
「酷い……肯定された。それでソウよ。何故に私を後ろから抱き抱えてる? そしてなんでミコトまでその後ろで順番待ちしてるのかな?」
「それはほら、今のハクちゃんはぬいぐるみ的に抱き締めるのが正解だから」
「なにが正解か!?」
「……えっと、私もちょっと抱き締めたい」
お前までか!?
「ええい! 人の事をぬいぐるみ扱いすんじゃねぇー!」
ジタバタと暴れるが、この体はどうやら本当に子供と同じ程度の力しか出ないらしい。頑張って抵抗してみたが疲れるだけなので諦めた。
「安心してください白亜さん」
「……何をだよ」
「白亜さんが戻るまで恐らく四日程、その間の衣装はこの通り既に用意してあります」
そう言ってズラリと並ぶ色々な衣装。
メイド服(クラシック)、ナース服、メイド服(ミニスカ)、スモッグ(黄色い帽子付き)、メイド服(ヴィクトリア午前)、制服(赤いランドセル付き)、メイド服(ヴィクトリア午後)、着物、メイド服(チャイナ)。
「……なんでこの短時間できっかり衣装用意してんだよ! きっとサイズもピッタリなんでしょうね!」
「ええ、もちろん抜かりありません」
「抜かれよ! そんな事にばっか全力出すなよ! そしてラインナップがキワモノだし、何よりメイド服が多い!」
「はて? 私的には和装やフレンチも足したかったくらいなのですが?」
「まだ足りてなかった……だと!?」
しかもこやつ、本気で言っておるだと……なんとおそろしい奴。
「そろそろ良いか?」
と、今まで黙っていたアジ・ダハーカことザッハークが声を掛けてきた。
いかん。すっかりくっきり存在を忘れていた。
「今忙しい!」
「なら報酬はいらな───」
「まあまあ待ちたまえ。今終わってからちゃんと話そう」
「ハクア……」
「流石ハクちゃん」
うっさいよオーディエンス共。
「……まあいい。まずはこれを」
そう言ってザッハークが私とミコトの二人に渡してきたのは、ピンポン玉程の大きさの赤い丸薬だった。
「これは?」
「
「これが輪廻丸!?」
「ミコトこれ知ってるの?」
「うん。これを飲めば一度だけ飛躍的に霊力を高められる珍しい丸薬だよ。龍族の里にだってないレア物」
「おお」
レア物と聞くとワクワクするのがゲーマーの性。
しかし、輪廻丸って名前で霊力上がるって。
「これもしかして、強制的に飲んだヤツを仮死状態にするとかって感じじゃないだろうな?」
思ったことを聞くとミコト以外の全員が顔を逸らした。
こいつら───。
「また危ないもん渡してきやがって! また死ねと!?」
「大丈夫です白亜さん。一度目なら危険はありませんから」
「一度目なら?」
「はい。確かにこれは白亜さんの言った通りの効能ですが、緻密に作り上げる事で輪廻───つまりは生と死を巡ります」
「えーと、つまり仮死状態にする成分とそれを起こす成分の二つが入っていると?」
「ええ、しかし二度目になると、その起こす成分に耐性が出来て本当に死にます。なので一度だけなんですよ」
テアの説明を聞いてミコトが知らなかったと愕然とする。
まあ、絶対大丈夫という保証の元なら、わざわざ気にしなくてもいいリスクまでは教えないか。
「じゃあ本当に絶対大丈夫なの?」
「ええ、それは保証します」
「ふむ」
テアがそういうのなら大丈夫なのだろう。しかしこの大きさ、喉に詰まりそうだなぁ。
「飲むのなら後にしろ。今の状態で飲むのはやめた方がいい」
「ん、了解」
「そして次は……覇龍の娘。こちらに来い」
ザッハークの言葉に嫌な顔をしながらミコトが近付く。
どうやら本当に嫌いなようだ。
そんなミコトの頭にザッハークが手をかざすと、ミコトの身体が光り輝き、纏っている圧が強くなった。
その感覚は龍王クラス。
おばあちゃん達と比べてもなんら遜色ない程の圧だ。
「凄い……」
「お前の中の神の力を活性化させた。これでより強力な力を得るだろう」
ふむふむ。ミコトはそんな感じの報酬が貰えるのか。
それならと期待して待っているとザッハークは微妙な顔をして私を見る。
「……期待している所悪いが、お前にこの力をやる事は出来ない」
「なんですと!?」
「まあ、そうだろうね」
「ええ、そうですね」
ミコトと私違いは全員共通の認識らしい。
「だからなんでさ?」
「今白亜さんの中には色々な力が混ざっています。しかも龍の力は龍神が更に力を込めたもの。そこに新たにアジ・ダハーカの力を足して無事でいられるとでも?」
「うーむ」
ポクポクポク、チーン。
「弾ける未来しか見えない」
パチュンしちゃう。
「ええ、恐らくそうなるでしょうね」
「まあ、ハクちゃんならなんとかなる気もするけど、正直、私達もどうなるか分からないから反対かなぁ」
「えっ、怖い」
ある程度の勝算があれば、谷底にも重りつけたまま笑って突き落とす奴らが反対ってもう駄目なヤツだと思う。
「まあ、それは置いといて……酷いなぁー、人の事うっかりミスで殺しておいて報酬ないとか……」
チラチラと見ながら拗ねてみる。
「ぐっ……」
「うはははは。いい性格してるな天魔の嬢ちゃん」
「だが、それは事実だが、殺されて生き返った事でお前の霊力が上がったのも確かだろう」
「そ、そうだ。それだけでも十分な報酬と」
「いやいや何言ってんのかな? それは副次的なもんでついでに付いてきたオマケだろ? それを報酬とか殺した事の詫びとかさぁ。えっ、神に届く魔竜様がそんなこと言っちゃうのかな?」
責め所を見つけた私は猛追する。
「うぅ……せっかく可愛いのに……せっかく可愛いのに……なんかすごく邪悪な笑顔してるよォ」
「わぁ……幼女が二十代後半の男を脅してる。異様な光景過ぎる」
「流石は白亜さん。自分が圧倒的に有利だと分かったら、例え自分が一撃で殺される相手でも脅しに行くとは……」
うん。ちょっと黙ってようかオーディエンス。今大事な交渉中だから。
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