第365話 知らんかったんかい!

「【鬼皇核】は【鬼珠】の上位版ですね。これも魔王の欠片の影響で変わったものだと思われます。使わなければ分かりませんが、条件の緩和に魔力効率、武装の強化がされているでしょう。そして【神獣化】ですが、これは【神喰らいフェンリル】の影響ですね。この二つはそれぞれ変化系スキルの【魔装・変幻酒呑童子】と【神装・神語りフェンリル】に連動しています」


 あっ、やっぱり。


「新しいスキルだからな。調整に苦労した」


『全くですね』


 そんな風に言った心と駄女神が本当に心底疲れた顔をしている辺り、本当に急ピッチで仕上げられたスキルなのだろう。


「白亜さんとガダルとの戦いは観ていました。【変幻酒呑童子】は【神装・神語り】の下位互換のような扱いになっていましたが、今回欠片の影響で【鬼皇核】へと変化した事で同等の能力へと変化しました。それぞれに聖と魔の特攻状態が付いているので使い分けが出来ます」


「ふむふむ。……聖と魔?」


「ああ、君はまだ知らなかったのか。隠しステータスみたいなものでな。この世界の生き物はモンスターを含めていくつかの属性が付いている。で……だ。その中でほとんどの者に付いているのが聖属性と魔属性のどちらかなんだ」


「へぇー」


「因み人間は中立属性が多いね。だから瑠璃ちゃんは中立属性、澪ちゃんは勇者なだけあってまさかの聖属性だよ」


「なん……だと!?」


「おい、まさかのとはなんだまさかのとは」


「「そのまんま」」


「お前ら……。ん? じゃあ白亜はなんなんだ」


『ハクアさんは世にも珍しい聖魔混合型ですね。俗に言う混沌属性です』


「「「あ〜」」」


「納得された!?」


「まあ、ハクちゃんは神の力と魔王の力が混在してるからね」


「特に支障は無いから大丈夫ですよ」


 テアのお墨付きが付いたなら本当にそうなんだろう。次に使う時条件がどれ程緩和されてるのかが楽しみだ。


「さて、白亜さん。それでは早速神装を使ってみて下さい」


「どうやって?」


「使おうと思えば条件が分かる筈ですよ」


「ふむ」


 言われた通りにしてみると本当に頭に条件が浮かんできた。どうやらこのスキルを使うには神力を使うらしく、神力が無くなるまで使えるようだ。

 何もしなくても変化中は神力が消費され、普通に何もせず過ごすだけでも今のレベルでは二時間ほどで解けてしまうようだ。戦闘ともなれば更に短くなる。

 攻撃、防御、スキルを使う事でも神力は消費され、レベルが上がればこの消費効率が上がるらしい。

 変化後は神獣と言うだけあって、強靭な爪を伸ばして攻撃するなどの獣人のような戦い方も出来るようになり、魔族や幽体のモンスターなどに対して攻防がアップするらしい。


 それを理解した私は、何故か期待した顔をしているテアの言葉に従いスキルを使ってみる事にした。

 使うと同時に私の身体から光が溢れ、それが収まるとどうやらスキルが成功したようだ。


「「「おお〜!!」」」


 自分では変化は分からないが、内側からは確かにかなり小さいが、ガダルと戦った時に感じていたのと同じ神の力を感じる。

 試しに爪に意識をやれば、鋼鉄のような硬さを誇る爪が伸縮自在に伸ばせそうだ。

 スキル説明の時に見た感じでは、下手な武器よりもよほど頑強に出来ているらしい。


 と、言うか何が「おお〜」なんだ? 何やら皆の目が血走っていて怖い。

 何人かは無意識に手が何かを捕らえようと上がっている。まるで好みの犬猫をわしゃわしゃと撫でくりまわしたいです! と、言わんばかりのポーズで固まってる。

 瑠璃とアリシア、シィー、リコリスは何故か鼻血を出して、手で鼻を押さえながらノックダウンしてる。何故に?

 ヘルさんは微動だにせず私を見ているが、何やらカシャカシャ聞こえるのは気の所為だろうか?

 コロ、アイギスは皆とは違うが、何かとてつもなく真剣な目で私の事を見ている。その目がどこか商人や職人、または国を運営する為政者の目をしているのはきっと気の所為に違いない。

 全く、これっぽっちも関係無い話だが私は素材ではないと言っておこう。一応ね。一応ね!

 ミミは何故か私を見て「負けた気がする」と落ち込んでいる。 えっ? それはなにに対して?


 そんな風に戸惑っているとソウが良い笑顔で手鏡を渡してきたので覗いてみる。

 するとそこにはボリュームの増した光沢。と、言うよりも淡い光を放つ白い髪と、その中から生える同じ色の犬のようなケモ耳を付けた私が居る。

 そして先程から少し尻の辺りがごわつくと思ったら、私の意思で動かせるファッサファサの尻尾が服を突き破って垂れ下がっている。


 …………ケモ耳と尻尾を触るとやはりファッサファサだ。


 しかもちゃんと感覚もある……。


「なんだこれー!?」


「ふふふふふ。予想以上! 予想以上だよハクちゃん!! 徹夜して頑張ったかいがあったよ! 私偉い!」


「なんでこんな所に全力注いでんの!?」


「ハクちゃんの為だからね」


「どこがだよ!」


 ガルルるると唸りながら遺憾の意を表明すると、急に心に頭を撫でられた。


「……おい。何してる」


「ああ、済まない。なんと言うか辛抱出来なくて撫でてしまった」


「そんなんで撫でるなよ!!」


「……てか、凄い勢いで尻尾振ってるぞ」


「なんと!? いや、これは違っ!? べ、別に嬉しい訳ではないぞコラ!」


「ツンデレ乙。程々にしないとあそこの四人、出血量がそろそろやばいぞ」


 澪の言葉にはっ? と、視線を移動すると、先程鼻血を出してノックダウンしていた四人が、鼻血の水溜まりに沈んでいた。


「ギャース!? 変な事で死ぬなー」



 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼



「はぁ、はぁ、あー、ビックリした」


「ハーちゃん。変身する時は必ず、必ず教えて下さいね! 絶対見に行きます」


 そんな瑠璃の言葉に他の三人も大きく頷いてる。


 コイツ等……懲りてねぇな。


「それにしても……、しばらく会わない内に予想外の進化を遂げたもんだな」


「ええ、白亜さんの事だけは神ですら予測不可能ですからね」


「流石みゃーのご主人様にゃ」


 その評価は嬉しくない……。


「神の力に魔王の力……か。まあ、その割にステータスがスキルに負けてるから可愛げあるよな?」


「そんな可愛げは要らねぇんだよ! なんかもうここまで来たらそろそろ無双させてよ!」


『そこは自分で努力して下さい』


「チッ!」


『舌打ち!?』


「二人ともふざけるのはその辺にしてさっさと先に進みますよ」


『別にふざけてませんけど!?』


「まだなんかイベントあったっけ? スキルは……全部見たよな?」


「ええ、ですから次は白亜さんがガダルから受け取った鎧……魔力の塊を取り込みましょう」


 ああ、あったなそんなもん。


「忘れてたよ」


「忘れるなよそんなもん!?」


 いやうっかり。ふむふむでもあれかぁ。


「どうしたんですか? 何か問題でも?」


「確かに何時もの君なら周りの静止も聞かずに喜び勇んで取り込む筈だからな」


「いやいや、私がそんな考え無しな事をする訳無いじゃないか」


「「「ダウト」」」


 くっ!? コイツら。


「それで何が問題なのハクちゃん?」


「いやー、なんてーか。グロスの腕ですら取り込む時にあんだけ苦労したのに、更に強いガダルの魔力の塊を取り込んだらどうなるのかなー。と」


「むっ、それは確かにその通りだな」


「そう言えばあの時ハーちゃん一回倒れちゃいましたもんね」


「なっ!? ご主人様危ないのはダメですよ!」


「そうにゃご主人様それは駄目にゃ!」


「ああ、それなら大丈夫だよハクちゃん」


「どう言う事だ聡子?」


 私の言葉を聞いた聡子達はなんだそんな事か。と言わんばかりに納得するとそう簡単に言い放ってきた。


「今のハクちゃんは神と魔王の二つの力を少しとはいえ使いこなせるようになってるからね。今更高位の魔族の力を取り込む位訳ないよ」


「ほう。私もそれだけ成長したんだね」


「ステータスは平凡だけどね」


「それは今言う事ないんじゃないかな!?」


「そもそもですが……、白亜さんのその力は元々魔王の力の一部が元となっています。そしてそれは魔王という強大な力と肉体、精神が伴った状態で使われる事が前提の物なのです」


「ん? それだとおかしくないか? なんでこの弱小ゴブリンが使えたんだ?」


「弱小ゴブリン言うな!」


 私だって泣く時は泣くぞ!?


「ええ、本来こんな力を使えば多少知性がある程度のモンスターなど、取り込む力の影響で魂まで変質してもおかしくありません。ましてや澪さんの言う通りゴブリン程度では元の精神が人間でも同じ事でしょう」


「でも私、なんともありませんが? それとも気が付かない内に変わってる?」


「いえ、魂レベルの変質ですからそんな小さな変化ではすみませんよ。下手をすれば精神が崩壊していてもおかしくないのですからね」


「そんなもんだったのか!?」


『私も知りませんでした……』


 知らんかったんかい!


「じゃあなんでこいつピンピンしてんだ?」


「はっきりと言ってしまえば白亜さんの精神力が異常だからですね。ただの人間にも拘わらず魔王や神に匹敵する精神力で、無理矢理魂の変質を防いでいたんですよ」


 テアの言葉に全員の目が私に向けられ。またかよコイツみたいな感じで見られる。


 それ私のせいじゃなくありませんかね!?


「蓋を開けてみれば納得する理由だったな」


「もうちょっと疑問持っても良いと思うんだけど!?」


「まあ、ハーちゃんですし」


「「「うんうん」」」


 解せぬ。


「さあ、それでは早速取り込みましょう」


「余韻! もうちょっと余韻下さい!? 結構ショック受けてますよ私!」


「いつもの事ですよ」


 チクショウめ。


 しかし、これ以上何か言っても墓穴以外は無さそうなので、渋々ガダルから受け取った鎧にスキルを使う。


「………………」


「どうしたんですかハーちゃん」


「おーい。どうしたー?」


「ご主人様? まさか何か起こったんですか!?」


「ハクア?」


「……くしょう」


「「「えっ?」」」


「ふざけんなー!!」


「おい。どうした!? 遂に頭がおかしくなったか!?」


 私の突然の怒りに周りがざわめくが、そんな事はどうでも良かった。


 なんだよこのスキル!!


「えーと、どれどれ──。ぷっ!! あははははははは!? さ、流石だよハクちゃん、流石過ぎる。もうハクちゃん大好き。本当に可愛いな!! あははははははは」


 ソウが見た私のステータスをテアが全員に見せると、全員が爆笑するかそれを堪えるように俯きプルプル震えている。


 その皆が見て笑った新しいスキルはこんな名前だった。


【魔力装甲】→【鬼角鎧きかくがい


 遂にスキルやシステムにまで馬鹿にされたよ! ドチクショウ!!

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