第366話ゲッ!? 白神

 私のステータスチェックから数日経った。


 あれから私はスキルを使ってみたり、ステータスが上がった事から生じる、意識と動きのズレを修正したりとわりと忙しく過ごしている。

 変化系スキルの使い勝手は中々の物で、今後の戦闘が少しは楽になってくれそうなのが良かった。


 しかし、魔王や神の力を手に入れてやっと戦闘が楽になるレベルとかどうよ? 普通魔王の力を持ってたら最初から最強イージーモードとかじゃね? 神の力なんて終盤で手に入れて魔王駆逐するようなチート能力のはずじゃね? おかしくね? 言ってもどうにもならんのでこの辺で閑話休題。


 そして問題のスキル【鬼角鎧】。

 未だに笑いのネタにされるこれだが中々使い勝手は良かった。

 そもそも鬼の角は鬼族の身体で一番硬い部分らしい。

 鬼は簡単な分類で低鬼ていき中鬼ちゅうき高鬼こうき亜神鬼あしんき鬼神きじんと分かれていて、より高位の鬼になる程、角の硬さが増していくのだそうだ。


 因みに今の私は神の領域に片足突っ込んだ亜神鬼に分類され、角の硬度は大体秘宝級レベルの硬さを誇るのだとか。と、言っても私の角は気や魔力で構成されて現れるから実感無いんだけどね。


 そして【鬼角鎧】とは、その鬼の角の強度がそのまま武装の強度になるのだそうだ。前は魔力で甲殻類のような装甲が創り出されたが、今度のスキルは正に鎧。と言うか、甲冑の篭手のような物が出来上がった。


 デザインも中々私好みで結構満足。


 前と同じようにどこか一箇所にしか作り出せないが、地獄門の篭手を付けている方に使った時は、防具を呑み込んで鎖ごと強化してくれた時はビックリした。

 因みに【酒呑童子】モードだったら、両手と両足に着いていた防具がスキルにより更に強化され、常時発動している感じだった。


 皆には禍々しいとか言われたけどな!


 その他はせっかく手に入れた竜系統のスキルを使いこなす為、トリスに突撃して色々と聞いて回ったが「ウザイ!」と吹き飛ばされてからは、しばらく姿を見ていない。


 それ以外の時間はヌルの研究に努めた。ヌルの事を事細かにテア達に紹介されて呆れられたり、怒られたり、そんなイベントをこなしてからは皆わりと仲良くやっているようだ。


 特にマスコット同盟達は何故かヌルだけ新人扱いで可愛がっているみたい。基準が謎だ……。


 そして私は現在、ギルドの一室でエグゼリアと会話していた。

 それと言うのも今日の朝、城へとギルドから手紙が届いた事が原因だった。


 なんでも【重要な報せがあるので至急ギルドへ エグゼリア】なんて簡潔な物だった。


 正直エグゼリアじゃなきゃヌルの研究や、スキルの確認を優先したんだけどねー。


 そして来てみたらなんと、最近依頼を受けていなかったのでランクがダウンしそうとの事だった。


「正直な所、貴女の実験のおかげでこの辺りのゴブリンは他の場所に比べてかなり少なくなっているのだけど、それ、貴女の功績には出来ないのよね? と、言うか正確には功績ではあるけど、ギルドの実績にはなっていないのよ……」


「あ〜、なるほど」


 最近は依頼を受けてもスーナ達の実績にする為、私は付いて行ってるだけだった。

 そうする事で依頼料の減額とかも防いでいたがそれが仇になるとは……。


 因みに他の皆はなんだかんだとちょくちょく依頼をこなし、今やアクアのCランクが一番下でエレオノ達はBランクに上がっている。しかもアクアも治療院の功績が認められ、昨日Bランクに昇格したらしい。


 そして私はDランクだ! 確かに研究、商売、訓練やらちょっとした、本当にちょっとした悪ふざけやらで忙しくやっていたが……ちょっと誘って欲しかったかも……私だけD……。


「私としては貴女にはもっと上に行ってランクの高い依頼も受けて欲しいし、ここで落ちて欲しくないのよね。貴女の性格的に一回落ちたら面倒になって放置しそうだし。そしたら冒険者資格取消まで一直線でしょ?」


 わぉ、当たりだ。私も自分のそんな未来が見える。そもそも冒険者になった理由が身分証明と金を稼ぐ為、そして異世界と言ったら冒険者に登録するってだけの理由だったからな。とは言え、エグゼリアがこうして、わざわざ時間を作ってまで言ってくれるのなら無くす事でもない。


「じゃあなんか適当に受ければ良いの?」


「それなんだけどね。ついでだから昇格して貰おうと思って、少し特別なクエスト用意したのよ」


「いや、降格直前の奴が一回受けるだけで昇格とかおかしくね?」


「そこは貴女の功績を挙げてゴリ押──もとい頑張ったのよ」


 うん。スルーが吉と見た。


「で、その特別なクエストって?」


「それについては少し待ってくれるかしら。もうすぐ今回組んで貰う相手が来るはずだから」


「えー、コンビー」


「文句言わないの。ほら、来たみたいよ」


「ゲッ!? 白神しらがみ


「あんだと?」


「す、すまん」


「ほらほら威嚇しないの」


 ちょうど良く扉を開けて入ってきたのはココットとダグラスという二十代後半の冒険者。

 元備兵で現在ソロのCランク、得意武器は大剣、魔法の適性は自己強化系が少し出来る。と、ここまでがエグゼリアに聞いた彼の簡単なプロフィールだ。

 彼も私と同じく昇格試験の為にここに来たらしい。


 因みにダグラスが言った白神はギルド内で最近蔓延している私の呼び名だ。

 スーナ達の事も有り、ギルド内で灸を据える事が多く、私を敵に回すと急所攻撃されると噂が流れ、触らぬ神に祟りなしとなり、白髪鬼から鬼を取って白髪→白神に変化したらしいとはココット談だ。


 それにしても色々と解せぬ。しかも今回から神の領域に足突っ込んだからあながち間違ってないのがなんとも……閑話休題。


「ん? まてよ。ダグラスがCランクなら同じ依頼とか無理無いか?」


「それなら平気よ。これを受ければハクアもBランクだもの」


 わぁ、良い笑顔。後ろでココットが首を振っているのもちゃんと見えてるから私も何も言いませんとも。


「さて、それでは改めて今回の依頼の内容を説明させていただきます。ココット資料を」


「は、はい」


「今回、貴方達二人に受けて貰うのは、GランクからFランクに上がるパーティーの試験官よ」


「ほう。そんな仕事もあるのか」


「ええ、ダグラスには何度か受けて貰った事があるわね」


 そんな言葉にダグラスの方を見ると「そうだな」と、大変疲れた顔で頷いている。つまりはそう言う仕事なのだろう。めんどくせぇー。


「しかし、私は初だけどダグラスは何度か受けてるんだろ? なんでそれが昇格クエストになるんだ?」


「簡単よ。二人の実力はギルドが正式に保証出来るわ。だから後はギルドに貢献した実績がある程度あれば良いのよ。更に言えば昇格条件はギルド毎で違うのよ。と、言う事で二人にはこのクエストで良いのよ」


「はぁー……。癒着したらすぐに上がれそうだな」


「ええ。そうね」


 認めるの!?


「でも、昇格するとギルドタグに昇格させたギルド名が記録されるのよ。それで他の街とかでその冒険者があまりにもクエストを失敗ばかりすると、昇格させたギルドは下手をすれば処分を受けるからどうしても慎重になるのよ」


 なるほど、ギルドタグ自体はティリスが作る物だから普通は弄れない。

 無理矢理昇格させても実力無ければ依頼を受けられず落ちるし、私のように降格もあるから名ばかりのランクでも居られない。

 逆にさっさと上がって依頼を受けさせたいなら、多少の無茶でランクを引き上げる事も出来る……と。ふむ、穴だらけかと思ったら存外良く出来てるな。


「他に質問が無いのなら話を進めるけど?」


「ああ、悪い。OKだよ」


「えっと、今回ハクアさんとダグラスさんに同行して貰うのは戦士、僧侶、スカウト、魔術師の四人組みのパーティー黄金の夜明け団です」


 痛い! パーティー名がとても痛いよ!


「しかしまあ……、それ私等必要か? 教科書通りか。と、言いたくなるくらいバランス取れてるぞ。むしろそれでGなの?」


「はい。近くの村から出て来たばかりらしく結成して二週間程らしいです」


「今回の依頼はゴブリン退治なのだけど……、まあ、普通に戦えば簡単にこなせる程の実力があるのは保証するわ」


「なんだ。ただのお守りか」


「ただその子達、依頼者からの評判が少し良くないのよね」


「そうなのか?」


「ええ、今はハクア達のおかげでこの周辺はゴブリンが減っているから、Gランクの依頼はほとんどお使い系か採取系、それか街の周りのホーンラビットを狩る位でそれに飽きてるみたいなのよね」


「受け付けに居ても「またか」とか「つまらない」とかって言ってるのを良く聞きますから」


 うーむ。面倒な予感しかしねぇー。


「実力あるならさっさと上げちゃえば?」


「嫌よ」


 いや、嫌て……。


 後ろに来たココットが教えてくれたが、通常他の街のギルドならDランクまでは一つ上のランク依頼を受けられるが、このギルドではGランクだけはそれが出来なくなっている。

 これは新人冒険者が無謀な挑戦を避けさせる為、エグゼリアがギルド長を押し切って作ったものらしい。

 そして更にGランクのみこういった少し厳しい試験にしている。そのお陰でここ数年は新人冒険者の死亡率が他の街に比べて少ないらしい。


 ふむ。優しいなエグゼリア。


「試験官って事は私達の判断で落としてもいいのか?」


「ええ、構わないわ。その場合どういった理由なのかをちゃんと説明して貰ったりはするけどね。とにかく貴方達には、同じく新人冒険者という扱いで同行して貰って、この子達を精査してもらうわ。無事に帰還させるのが目的ではあるけど、過度な干渉は厳禁よ。あくまで同じGランクとして振舞ってね」


 面倒だけどまあしょうがないか。


「命の危機やその他判断は全て任せます。それらに関しては貴方達の試験と言う感じね」


「了解」


「ダグラスは何か質問あるかしら?」


「無い……が、一つだけ。白神……じゃなくて、ハクアはこのギルドではそれなりに有名だ。同じランクとしてって話だがバレ無いか?」


「そう言えばそうね」


 ふむ。それなら……。


「これでどうかな?」


 ダグラスの言葉とエグゼリア、ココットの反応を見た私は【黒化粧】を使い髪の色を変える。

 今の私の最大の特徴とも言えるこの白い髪が変われば、私の事をあまり知らない人間には効果的だろう。


「後は……そうだな……。私の事はネロとでも呼んで下さいダグラス。皆さんもそれでお願いしますね」


「お、おう」


「へぇ、中々良いじゃない」


「すっごい笑顔だし、なんかハクアさんじゃないみたい」


「……いやまあ、正直この感じだと、表情筋使うから疲れるんだけどね。印象変えるにはちょうど良いでしょ」


「そうですね。それならバレないと思います」


「んじゃ。こんな感じで……それと私はダグラスと同じ元傭兵。ダグラスと同様、傭兵団が解散になった事で共に冒険者になった。傭兵団の交渉役がメインで後方支援が専門。武器は弓。後は補助系統の魔法を少し使える。そんな感じで良いですか?」


「了解だ。それならさっきの話し方にも、アンタ位の年齢で備兵団に居たってのにも説得力が出る」


「そうなんですか?」


「ああ、基本的に倫理はあるが、金を貰ってなんでもするのが備兵団だからな。必然的に荒くれ者が多い。だから交渉役を女に任せるのは結構多いんだ」


「それじゃあ話もまとまった所でよろしく頼むわね二人とも」


「はい」


「分かった」


 話がまとまった事を確認したエグゼリアはココットに目配せし退出させる。恐らく例のパーティーを呼びに行ったのだろう。


 はてさて、新人パーティーの昇格試験。果たしてどうなる事やら。

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