第367話テンプレハーレム野郎め

 ガチャッと扉を開け、黄金の夜明け団を引き連れたココットが帰ってくる。


 そっかぁ。これがそうかぁ。


 最初に見えたのは私と歳が同じくらいの二人だ。

 一人は茶髪に短髪、革鎧を着てロングソードを腰に付けた男だ。確実にコイツが戦士だろう。

 そしてもう一人はベリーショートの赤い髪に、勝ち気そうな顔をした女の子。防具は動き易さを重視した胸当てのみで武器はナイフ。この子がスカウトだな。

 更にその後ろには紫色っぽい髪の色をし、足元まであるゆったりしたローブを着て杖を持つ、いかにも魔術師と言いたげなグラマラスな女性。

 そして私よりも年下っぽい栗色のツインテ少女。法衣を着たこちらはメイスを持つ女の子。撲殺僧侶……だと!?


 すげー。見ただけで誰が何を出来るのか分かるよ。と、いうか明らかな程に一芸しか持ってませんよ感が凄いんだが……。こんなもんなのか?


 私の考えが分かったのかエグゼリアは視線を合わせるとひとつ頷く。


 ……考え読まれて肯定された。何故に皆、私の考えが読めるのか。解せぬ。


 観察しながら眺めれば、どうやら戦士の男がリーダーらしいという事は分かった。と、いうよりも……。


 これ、ハーレム野郎じゃね?


 その証拠に女性陣は全員ダグラスに興味無さげな視線を向けた後、揃って私に敵意のこもった瞳を向けている。


 うーむ。困った……。もう既に帰りたい。


 ”ハクア。もう既に帰りたくなっていても帰っちゃダメよ?”


 ”はい。分かっておりまする”


 ”ダグラスもね”


 ”了解……”


 因みに今の会話は共鳴リングという、登録したリングを持つ者同士でスキルが無くても念話が可能な便利アイテムによるものだ。


 これがあれば私とダグラスが喋らなくても黄金の夜明け団の裁定が出来るだろうと渡された物だ。


 そんなふうに念話で釘を刺されていると、ココットによる大まかな説明が黄金の夜明け団になされ、自己紹介をする流れになった。


「それではまずはこちらの二人。ハ──じゃ無くてネロさんとダグラスさんです」


 危うく本名で呼びそうになり、エグゼリアに睨まれすんでの所で軌道修正するココットに続き、ダグラスが自己紹介を始める。

 どうやらこちらにはあまり関心が無いらしく、ココットの違和感には気が付かなかったようだ。

 そしてあからさまに聞き流されているダグラスの自己紹介が終わり私の番になった。


「私はネロと言いま──」


「へぇー、ネロちゃんか! 君みたいな子がなんで冒険者なんてやってるの?」


 わぁー、なんか知らんがグイグイ来るわぁ……。


「え、えっと、私はダグラスと同じ傭兵団で、交渉役権後方支援の弓術士をしていて、ダグラスとは──」


「そうなんだ。大変だったんだね。そうだ! もし良かったら俺の団に入らないか? 弓が使えるなら大歓迎だよ!」


 ”減点!”


 ”減点だな……”


 ”減点ねぇ”


 これについてはどうやら満場一致のようだ。


 既にパーティー組んでるの分かってて勧誘するとか馬鹿じゃねぇの? 仮に成功しても遺恨が残るような勧誘アウト以外の何物でもねぇよ! しかし、始まる前から減点とか逆にすげぇな。


 未だに続く勧誘を愛想笑いで受け流す。

 だが、それでも諦めない相手はいきなり手を握って来る。

 これには私も演技を忘れ反射的に手を振り払おうとする──だが、一瞬、ほんの一瞬だが思考にモヤが掛かったようになり、頭の中で何かがバチンッ! と、弾けたような感覚があった。


 なんだ? 何かを弾いた? コイツ……。


「遠慮します」と言いながら手を引っ込めると、少し首を傾げている光景が目に入る。


 それもそうだろう。【鑑定士】のスキルで調べればすぐに理由が分かった。


 名前:アベル

 レベル:5

 性別:男

 年齢:16

 種族:人間

 称号:転生者、魅了する者

 スキル:魅了の魔眼EX


 はい。重要な所だけ抜き出したステータスです。他にもスキルはあるけど特筆するのはこれだけなので割愛。


 そしてここで重要なのは……、コイツがスキルを私に使った。もしくは発動したという事だ。

 恐らくコイツの周りに居る人間は、意識無意識にせよスキルによって魅了されたのだろう。

 EXというのが初めての表記だから詳細は定かでは無いが、周りの女を調べても魅了状態になっていない事から、日常的に掛け続ければ意識が改変される恐れさえある。


 これは後で駄女神を問いただすべきだな。


「それで後出来るのは支援ま──」


「もう良いわ。ゴブリン討伐如きでそんな詳しく聞く必要なんて無いもの。それじゃあ次はこっちの番ね。私はダリア、武器はナイフで偵察や罠の解除が出来るスカウトよ」


 ”はい。また減点”


 ”そうねぇ。困ったわ”


 ”出発前でこれとはな……”


 そんな会話が行われているとはつゆ知らず私の言葉を遮って自己紹介を始める赤髪……ではなくてダリア。やはり彼女は私が思った通りスカウトだったようだ。


 続けて自己紹介したのが紫髪の女性エイラだ。自己紹介ではやはり魔術師と言っていて、自ら18歳と言うあたり年上に見られるのがコンプレックスなのだろう。

 水と風の属性が使え、威力の大きい物で三回、低威力なら八回は魔法を使えると自慢げに仲間が話していた。


 私全属性……。

 使える回数も微妙……改めてアリシアって優秀だったんだなぁー。


 次が栗色ツインテ少女ヒストリア。HPを治せる回復、傷を治せる治療、そして解毒魔法と支援魔法を使えるとの事だ。その他にも護身程度に棍術が使えるらしい。彼女も五回ほど魔法が使えるとの事だ。


 そしてなんと歳は私の一つ下らしい。正直中学生か下手すりゃ小学生かと……意外に多才ではあるけど使い方次第だな。

 そして全員が私を睨み付けながらの自己紹介……。つらみ。


 そして最後が私の中で既にハーレム野郎と断定してる男アベルだ。

 まあ、見た目通りの戦士でショートソード装備、その割に何故かショートソード最大の利点、バックラーなどの盾類を持っていないという、見た目重視の舐めプだ。

 しかも何故かこの男、自己紹介どころか英雄を自称する所から始まり、子供の頃からの飛び抜けた文武の才能、村に現れたゴブリンを子供の時分に一人で退けたなどの自慢話を、身振り手振りを加えて延々と続けていた。

 きっと安定の幼馴染みポジションなのだろう。ダリアがところどころで注釈を加えて褒め称え、それに照れるワンセットが絶妙にウザイ。


 テンプレハーレム野郎め。


 正直、少し位は付き合ってやったが二十分も超えればそんな気も失せてくる。そこで私は周りに目配せすると話をぶった切って進める事にした。


 まあ、取り巻きはウットリしながら聞いてるけどね。ラノベ展開を目の前でやられるとここまで苛つくとは思わなかった。やっぱアニメと現実は違うなぁ……。つまらん事で一つ大人になってしまった……。


「あの、そろそろ今回の依頼について職員さんに詳しく聞きませんか?」


「ちょっと! 今アベルが話をしている所でしょ」


「そこまで。こちらとしてもその話をいつまでも聞いて居られる程暇ではないわ。ココット細かなクエスト内容を伝えてちょうだい」


「は、はい! それでは説明させていただきます──」


 任務の内容はゴブリン退治。ここから竜車で二日程進んだ村の近くで村人に発見されたらしい。調査はされておらずそれも含めてのクエストだ。

 つまり調査の結果、自分達の手に負えないと判断したら引く事も、今回の昇格試験の一部とも言える。


 なるほど、簡単な討伐任務って訳ではないのか。しかしこいつ等分かってるのかね?


 今もつまらなそうに話を聞く黄金の夜明け団のメンバーにどうにも嫌な予感しかしない。

 クエスト内容を聞くと、明日の朝に寄り合い竜車の前で集合という事になり、エグゼリアは私とダグラスにはまだ話があると残してその場は解散になった。


「どうかしたのハクア?」


「ああ、実は──」


 退室を見送ったエグゼリアが私の様子に気が付いたのかそう質問してくる。私はそれに自己分析が交じっているが、と前置きして報告をする。


「なるほど……。転生者に魅了の魔眼EXね」


「ああ」


「EXスキルと言うと女神様に直接戴いた。スキルに付いてるとかって奴だな。確か……限界のレベル10を超えた能力を発揮出来るとかって言う」


「ほう。そんなものが……」


 澪に無いのにあいつにある? ……なるほど、ギフトが無い代わりか。しかし、私が選んだ時も無かったよな。……駄女神め、やりやがったな。


「ハクアに使われたらしいけど大丈夫なの?」


「うん。ただ【状態異常無効】を抜いて来たのにはビビったけどなんとかね」


「それなら良いわ。対策は幾つか考えるとして、とりあえず任せても大丈夫かしら?」


「今の時点でマイナス査定すぎて正直受からんと思うが……まあ、引き受けたからにはなんとかやるよ。ただ、信用はしないから最終的には手を出す可能性のが高いよ」


「ええ、依頼の達成が最優先よ。必死に掻き集めたお金を持ってきているのだもの」


「了解した。それではハク──ネロ。明日から少しの間よろしく頼む」


「ああ、こっちこそ。アンタが唯一の安らぎになりそうだからね。……リングだけ付けといて下さいお願いします。絶対に忘れないで下さい頼みます」


「必死か! 大丈夫だ。こっちもネロと話をしてないと精神的に辛い」


「……本当にごめんなさいね。まさかあそこまでとは……」


「「「はぁ……」」」


 こうしてなんとも最初からやる気の削がれる展開となったのだった。

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