第519話そんなRPGが出たら星1評価待ったナシ

 目の前には知らない女。


 歳の頃は私と同じくらい。


 どこかで見たような気もするが思い出せない。


 しかしそれも仕方の無い事、女の顔は唇を三日月のように歪め、酷く愉しそうに嗤う。


 そんな奴を私は知らない。


 その女に対し私が抱く感情は怒りだ。


 増悪とは違う純粋な怒りをもって睨み付ける。


「絶対に取り戻す」


 私自身がその言葉を呟いたと同時に時が動いた。

 ▼▼▼▼▼▼▼

「おーい。ハクアー」


「……んー」


「やっと起きた」


 目を覚ますとそこには私の顔を覗き込むミコトの顔。


 うーむ。なんか変な夢観てたような気がするけどなんも思い出せん。


「ふっ、ふぁーあ……それにしても早いね。どしたの?」


「うん。今日は水龍王から早く来て欲しいって言われたんだ。でもまだハクアが起きてないって言うから起こしに来たの」


「なるほど……嫌な予感がするんでもう一度寝る」


「寝るな愚か者!」


「ギャース!」


 再び寝ようとした私に一度離れたミコトの横をすり抜け、魔力の塊が投げ込まれなんとか回避に成功する。


 その威力たるや私程度では致命傷レベルなのですが!?


「なにすんでい!」


「早く起きないほうが悪い。妾は腹が減っている。貴様が来ないと朝食が出て来ないだろう」


 くっ、このお腹ペッコりさんめ。


 料理はほとんど毎回テアが作っている。その為、私が行かないと料理は提供されない仕様なのだ。

 いくらトリスでも、元女神が相手では強く出れず毎回私を急かすのが日常と化していたりするのだ。


 皆に料理人見習いを紹介して数日、全員が資料を元に料理人見習いを雇ったものの、ここに通っていたメンバーは、相も変わらず一緒にご飯を食べている。


 理由としては、未だ料理人見習い程度では私やテア達の作る料理には及ばないためだ。


 とはいえ料理人見習いの制度は、おばあちゃん発案という建前の元、多くの龍族が積極的に採用していっている。


 それだけ私の出した屋台のインパクトが大きかったのだろう。


 その為、おばあちゃんの率いる穏健派は中立派も味方に付け勢力を増し、逆に過激派の連中は料理が出来る人材を探す伝手もなく、元中立派にも睨まれる毎日。

 しかも内部でも、軽々にユエに手を出した事で屋台がなくなったことを惜しむ声が上がり、徐々に亀裂が入ってきているらしい。

 因みに私は、龍の里周辺の種族からの好感度が上がっている。それもこれも偉大な龍族に仕える仕事を斡旋したためだ。


 まあ私としてもここまで上手く行くとは思っていなかったが、概ね想定どうりに進んでいるようで何よりだ。

 皆から過激派にも売る必要はないのでは? なんて言われていたが、それを説得して売り続けた甲斐があったというものよ。


 そんなこんなで朝食を食べ始めると、おばあちゃんが早くから全員をここに呼んだ理由を話してくれた。


「ハクアちゃんの試しの儀の日取りが決まったの」


「……ふむ」


「ハクアが受ける予定だった試練の一つっすよ」


「だ、大丈夫。わかってらい」


 だからそんな疑わしそうな目で見るのは止めたまえ。


「で、いつなの?」


「今日の午後からよ」


「ちょっぱや!? えっ、そんな近々で予定詰まります?」


「それはハクアの事を元老院が嫌ってるから」


「つまりは双竜の儀を邪魔する為に、ハクアの試しの儀を失敗させようとしていると言うことか?」


 トリスの言葉にシフィーが少し渋い顔をして頷く。


 試しの儀に合格しなければ、ミコトと共に受ける予定の双竜の儀も受けられないらしい。

 おばあちゃんにゴリ押しされる形で一応の納得を見せた元老院も、根底ではまだ私にこの試練を受けさせるつもりはなく、合法的に私を潰そうとした結果らしい。


 ふむ。わかっちゃいたが、アカルフェルよりよっぽどやりにくい相手だな。


「しかも、元老院はアカルフェルに心酔してる若いドラゴンを選んで選出した。つまり」


「参加者は敵だらけ……と?」


「そうなるわね」


 わー、簡単に肯定されたぁ。


 参加者の選出は元老院と龍王が選出する。


 今回おばあちゃんが私をねじ込んだ事で、元老院側の選出にも口を出せなくなったのだろう。

 それが例えあからさまであろうとも、有資格者であるのは確か、それ故に排除すればそれも問題になる。

 むしろ今回は外様の私を引き入れようとする、おばあちゃんや龍神の方が、有り得ない行動を取っているのだから尚更だろう。


「因みにおばあちゃん頑張ってユエも試しの儀にねじ込んだわ」


「ワッツ?」


「ゴブッ!?」


 あっ、驚く時はゴブが自然に出るのね。


「なして?」


「それはね。ハクアちゃん一人だとつまらなそうだから、ついでにユエにも受けさせようって事になったのよ」


 チラリと横を見るおばあちゃんの視線の先には、その話を聞いて頷く保護者が二人。


 おいコラ。


「おほん。ユエもここに来て大分レベルアップしました。それに先日の前鬼への進化のお掛けで、試しの儀に参加しても十分に戦えるでしょう」


「そうそうユエも結構頑張ったしね。ここらでハクちゃんにも見てもらいたいだろうし、丁度いいかなって?」


 もっともらしい事を言っているが、絶対にそっちの方が面白そうというのが本音だろう。

 しかもユエも初めて聞いたっぽいけど、今は私とダンジョンに潜ると聞いてフンスッと意気込んでいる。


 うん、可愛い。


 確かに試しの儀とか面倒臭いから、色々と方法は考えてたけどさぁ。まあいいか。


「まあ二人がそう判断してるならいいけど、ユエも龍族の試練とか受けていいもんなの?」


「試しの儀程度なら他種族が受けても大丈夫よ。と、言うか、大丈夫にしたわ」


 うふふふふ。と、おばあちゃんが微笑むなら私もなにも言うまい。藪をつついて龍王出て来たら死ぬだけなのだ。そんなRPGが出たら星1評価待ったナシだろう。


 私なら絶対レビューまで付けてボロくそ批判する。


「はぁ……了解。頑張ります」


「あるじと一緒に頑張る。むふー」


「ええ、頑張ってちょうだいね。おばあちゃん、ハクアちゃんなら出来るってわかってるから」


 ……そこはわかってるから。じゃなくて信じてる。とかって位にしといて貰えませんかね?

 笑顔だけど圧が凄い。これ失敗したらどうなるかわかんない奴だ。


 とはいえ……とはいえだ。


 今日の午後からと言うのなら今からジタバタ足掻いてもなにも変わらない。むしろゆっくりと休む方がいい結果を残せるだろう。それがダンジョン攻略なら尚更だ。


 その後も朝食を食べながら、試しの儀に付いてあれこれ質問してみたが、これといってなにも教えて貰えず、集団戦がメインという事しか教えてもらえなかった。無念。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼

 試しの儀。


 歳若い竜が一人前の戦士になる為に受ける試練。

 晴れてこの試練を突破する事で、歳若い竜は一人の戦士として扱われるようになり、世界の均衡を守護する一族の一人として扱われる。


 そしてその試しの儀だが、試練を受けていない歳若な竜は知らないが、既に試練を突破した者達が、新たな戦士を見極める場として設けられている。

 また要職にない者にとっては一種の娯楽としても観戦出来るようになっていた。


 そこは少し前にレリウスが参加した玉石混交試合が行われた闘技場。

 中央舞台の上に浮かぶ映像は、龍神自らがその力を使い映し出している映像だ。

 参加者達はこの事を全く知らされず、またこの事を知っている者も伝えるのは厳禁とされている。


 そんな映像を観戦する面々は、既に大多数が数少ない娯楽のお祭り気分でもある。


「わぁー。ドキドキするっすね」


 そこにはシーナを含めたいつものメンバーが龍王と共にひと塊で座り、戦闘が行われていた中央舞台の上に浮かぶ映像を観戦していた。


 もちろんこの集団もハクアがどんな攻略をするかを楽しみにしている、お祭り気分の一員である。


 火龍王などはトリスやレリウスから、ハクアのダンジョン攻略を聞いていたので今日が待ちきれない程だったようだ。


 それはシーナから話しを聞いていたシフィーも同じで、すました顔をしているが、ソワソワと落ち着きなく視線はじっと映像に釘付けだ。


 唯一地龍王だけは、いつものように泰然自若たいぜんじじゃくといった感じだ。


 水龍王はやはりあらあらうふふと楽しそうに映像を観ていた。


「……それにしても。ハクア達はなんで来ないのじゃ?」


 映像の中、ミコトの言う通り他の参加者が集まる中にハクアとユエの姿は見当たらなかった。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 お読みいただきありがとうございました。




 もしハクアのことを応援しても良いよって方は




 ★評価とフォローをしてくれると嬉しいです

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る