第518話報酬の事だよハクちゃん

 昨日の疑問はなんのその、私はすっかり疑問を忘れて修行に打ち込んでいた。


 ……はい、嘘です。めっちゃ気にしてます。


 けれどもやはりどれほど考えても答えが出ないのでしょうがない。


 そんなこんなで解消されない疑問を抱えた私は、鬼神達に呼び出され、あの鳥居の不思議空間を通り抜けた先の地獄門までやってきていた。


 いや、ここそんなに簡単に呼び出していい場所じゃないと思うの。


「よく来たなハクア」


「うん。それでこんなところにまで呼び出してなんの用? テア達だけじゃなくて駄女神まで居るし」


『貴女、忘れたんですか?』


「何を?」


「報酬の事だよハクちゃん」


「……ああ! えっ、やっと完成したの? なんだかんだと引き延ばされて今回の話では間に合わない感じだと思ってたよ」


『またメタな発言を……』


「言っている意味はよく分からないが、昨日やっと完成してな、早速呼び出したと言う訳だ」


「なるほどそうだったのか」


 ふむふむ、やっとの事で防具が完成か。くぅ〜。これでやっといちいち着替えなくて済む!

【暴喰の黒衣】まで預けてたから、ここ最近は毎日のように違う衣装着せられてたからなぁ。しかも微妙にコスプレチックなチョイスと言う。

 朝起きると足元に衣装が畳んで置いてあるんだよ。しかも髪型の指定まである本気ブリ。逆らったら更に酷い要求を無理矢理されそうで逆らえなかったんだよ。

 だがそれも今日で終わり! 寝る時も運動の時も同じ服で、汚れもしなければシワにもならない。


 いやー、待ち望んだぜ。


「しっかし長かったね。いや、マジで」


「ああ、どうにも貴様の保護者達の要求がな……」


 そんな事を言いながら視線を向けた先の奴等はと言えば、露骨に目を逸らして口笛を吹いている。


「まあまあ、その代わりにいい物が出来ましたよ」


「そうそう、私達全員で色々と要望詰め込んだからね」


「いや、だから性能良ければ形なんざどうでも良いと」


「「ダメです(だからね)」」


「いや、そこでハモるなや」


 くそぅ、私の装備なのに。


「と、言う訳でこれが貴様の為に作り上げた新装備、名は比翼連理だ」


「いや、比翼連理って夫婦仲が良いとかおしどり夫婦って意味だぞ? しかも時間かかった割に見た目あんまり変わってなくね?」


「ああ、名の意味は貴様と共に成長し、貴様を護ると言う意味で付けた。見た目に関しては通常時は前と同じようにした」


「んー、それなら少し納得? いや、それでもなんか違う気が……まあいっか。んで、通常時ってのはなんだ?」


「白亜さんは現在、通常バージョン、酒呑童子、フェンリル、そしてこの間【竜人化】も会得したので、それぞれに合う装備にしたんですよ」


 むむむ、そういえば前も変身した時は律儀に服も変化してたっけ? それを更に専用装備っぽくしたって事か。


「そうそう。因みに通常バージョンはお嬢様や澪、酒呑童子は鬼神で、フェンリルはシルフィン達、竜人バージョンは私達のデザインだよ」


「なんでお前らそんなところで手分けしてデザインしてるの?」


『最初は全部鬼神が一人でやろうとしていたので、それに全員で待ったを掛けて、公平にそれぞれでデザインを起こしました』


「馬鹿なの? いや、馬鹿か」


「まあまあ、さっさと着て見せてよ」


「雑に流さないでくれます!?」


 などと吠えてみても結局は流されるので大人しくさっさと着替える。


 ふむ。あ、あんまり変わってないと思ったら下がミニスカートに変わっているだと!? あっ、でもちゃんとインナー用のスパッツみたいのもある。

 くっ、だが、履いてもスカートで見えないようになってるから、見た目で言えばミニスカートでなにも履いてない感じに……。


 ローブの色は黒のままだ材質が前とは一線を画し、前よりもより安心感がある。そして内側にも幾つかポケットが増えていた。因みに肩はまだガッツリと出ている。


 ここは直してくれても良かったの。


 ホルターネックのインナーは一見同じだが、色がワインレッドに変わり、前よりも身体にピッタリになって、身体のラインが出ている。

 スカートも同系色で合わせてある辺り、澪と瑠璃の監修がガッツリと入っている気配がビンビンする。

 ニーソもそのまま黒なのだが、こちらも素材が変わっている。靴はブーティと呼ばれるブーツに変わり、これで蹴られると痛そうな程、しっかりとしたものになっている。

 所々にある金属は恐らく鬼神に渡した血戦鬼の鎧の一部だろう。見た目がゴツめで少しカッコイイ。


「【暴喰の黒衣】を元に貴様に提供された素材をふんだんに使っている。防御力は物理、魔法共に前とは比べ物にならないほど上がっているぞ」


「た、確かにそうだね」


 比翼連理

 物理防御7000

 魔法防御7000

【ダメージ吸収】【鬼特攻】【呪耐性】【防汚】

【再生】【ダメージ減少、新】

【斬耐性、打耐性、突耐性→物理耐性、新】

【魔法耐性、新】【堕竜の怨嗟、新】

【全身鎧→竜鎧ドラゴンアーマー


 防具を調べるとその言葉を裏付ける結果が飛び込んできた。


「えっ、これいいの?」


 その性能に思わず駄女神に確認を取る。


『構いませんよ。これは歴とした貴女の戦果ですからね。まあ、鬼神の制作の腕があるとはいえ、コロが作ったとしてももう少し抑え気味になる程度の違いでしょう』


「マジかぁ」


 嬉しい反面、普通にステータスで負けてる悲しき事実。


 因みに鬼神の課した試練のボーナスで、防御力が3000程上がっている他は、私が提供した素材の効果が特に高いらしい。


 耐性が各種増えたのは紙防御の身としてはかなりありがたい。


 そして提供した素材はこちら。


 血戦鬼の外皮、血戦鬼の骨、血戦鬼の鎧。

 地竜の外皮、地竜の骨、地竜の血液、地竜の爪、地竜の瞳、怨嗟の呪皮etc。


 他にも細かく渡したが特筆すべき素材はこの二種類だろう。


 この中で異彩を放つのはなんと言っても怨嗟の呪皮だろう。他の素材は成り行きで手に入れたが、これは本当に偶然手に入れられた。


 怨嗟の呪皮

 竜種が様々な負の感情に呑まれた状態で、生きたまま素材にされた呪いの皮。相手への怨嗟と後悔、負の感情が呪いとなって皮に宿っている。


 そしてこの素材のおかげで手に入れたスキルが【堕竜の怨嗟】のスキル。


【堕竜の怨嗟】

 攻撃を受けた時、攻撃を仕掛けた相手に堕竜の怨嗟が降りかかり、攻撃力、防御力が減少する。


 これもまた紙防御の私には嬉しいものだ。


 たまたま手に入れた物だが素材だけは私の役にたったようで何よりである。


「裏地に地竜の外皮を使い、インナーを血戦鬼の外皮であしらえた。元々縫い込んであった魔法陣は、済まないがまた自分でやってくれ。己は門外漢だ」


「了解。まあ、なくなっても前より強いけど」


「ああ、ドラゴンの素材で魔法を、鬼の素材で物理を高めている。それを【暴喰の黒衣】に吸収させる事で本来成り立たない両方を両立させる事に成功した」


「比翼連理の由来には本来混じることのない鬼とドラゴンの素材が、互いに高め合う結果になっている事にも由来しているんですよ」


 なるほど、名前を付ける事で効果を高めたのか。


 魔物への名付けのように、装備にも名は必要だ。名を付ける事でその装備の効果は十全に発揮されるのは、この世界ではある意味で当たり前のことでもある。


 まあ、ある程度のランクからしかその効果はないんだけどね。


「しかしすげぇな」


 正直ここまで期待していなかったので嬉しい誤算だ。


「さっ、じゃあ他の衣装もこのまま見てみようか?」


「いや、性能確認したしもう良いのですが?」


「そんな事が赦されるとでも?」


「ヒィ!」


 その後、長らくファッションショーもどきをさせられる私だった。

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