第483話どんな脅し方だ!?

 うーむ。澪達に説明した時はこの世界を下位世界と位置付けたけど、改めて魂上位の世界とか聞くとこっちの方が上のような気もするな。


 まあ、結局は神の視点の話だから、私のようにちっぽけな、元ミニゴブの現鬼っ子には関係ない話だから良しとしよう。


 ここで余談だが先程の実際のスペックが、肉体+ステータスだという話し、あれ実は装備にも同じ事が言える。


 例えばである。


 防御力が20上がる鉄の兜があったとする。それを被ればゲームのようにステータスも防御力が20上昇する。

 そうなればファンタジー世界の不思議、鉄の兜を被っていない素肌の部分、例えば腕にも防御力20という恩恵が受けられるのだ。


 しかし実際、頭には鉄の兜を被っている。


 そうなるとステータスには現れないが、頭に関しては防御力20の他に、鉄の兜自体の硬さが加わる。

 つまり装備品も実際は、装備品のそのものの防御力+装備品のステータスの合計値が正しいものになるのだ。

 だからフルプレートアーマーで防御力200の装備と、胸当て、篭手、脛当て等の軽装備一式の合計値200の装備では、合計値こそ同じ200だが、実際にはフルプレートアーマーの方が防御が硬く倒しづらい。

 ただその分、軽装備は動きやすさなどの利点がある分、どちらが優れているという訳では無い。


 そしてやはりファンタジー世界、鉄よりも硬い布や革も存在する。

 鉄系装備は防御力に優れ、布は素早さなどの特典が付く事が多い、そしてモンスターの革を使った装備は、対属性に強い物も多い。

 それらはやはり着用者の役割りや、好みによって変わってくるだろう。閑話休題。


「何を一人で満足気に頷いているんだ?」


「いや何、ちょっと一人で復習してただけ」


「???」


『精神衛生上気にしない方が良いですよ』


 それだと私の考えを知ろうとすると、精神衛生上よろしくないみたいじゃないか!?


『その通りでしょうに』


「ぐぬぬ」


「まあいい。とにかく貴様は気や魔力の扱いは上手いが、仙力、マナはようやく扱えるようになったばかり、鬼力、竜力に至ってはまだ入門に至った程度だ」


「えー、曲がりなりにも今まで使ってきたんですけど」


「ああ、だが貴様もわかっていると思うが、それはスキルがあったからだ。この手の技術を本当に習得するには、スキルの力はむしろ邪魔だからな」


 確かに、スキルで暴走を抑えていた感は凄くある。

 それに鬼神の言う通り、気や魔力はスキルを使うよりも、自分自身で操作してこそその威力を十全に発揮出来る。


「とは言え、そんな状態で貴様の中にある力を、今まで使えていたのは賞賛に値する。と言うか、そのレベルの力を暴走一歩手前で使っていて、よく今まで内側から弾け飛ばなかったな」


「怖い事言うの止めてくれる!?」


 そして何回かはちゃんと弾けたわ!!


「まあ、それも才能か……」


 くっ、上げ下げが激しい奴め。


「さて、前置きはここまでにしてここからが本題だ。貴様も予想しているようだが、鬼の力は基礎的な能力を伸ばす事に長けている」


「うん」


 そう。だから鬼の体はどいつもこいつも頑丈でデカい。それは鬼力自体が体に影響を及ぼしているせいなのだ。多分。


「いや、それで合ってる。己は魔力とはとことん相性が悪いから分からないが、鬼の力程ではないが、気もその性質は持っている」


 テア達やおばあちゃんが言っていたステージの話。それを細かく分解すると気で肉体を作り、魔力で目に見えない力の受け皿を拡張する。

 魂がそうやって二つの力に働き掛けステージが上がるらしい。


「だから私は決して鬼の力と相性が良いって訳じゃないんだよね? 元になる物が他の奴よりもないから、大した強化が出来ないっていう」


「ああ、鬼は生まれついた段階から、その力に耐える為に、身体がより強くより強靭に変化を始める。男女で差はあるが貴様ほど顕著に肉体が脆いのも珍しい」


「うぐっ」


 今のは効いた……。私だって好きでこうな訳ではない。


「だが、これは鬼しか知らない事だから仕方がないが、貴様は一つ勘違いをしている」


「勘違い?」


「そうだ。確かに鬼の身体は強靭だが、全ての者がそんな訳ではない。それは今の己を見れば分かるだろう?」


 鬼神の言葉に改めてその姿を観察する。


 確かに、鬼のイメージが今まで会ったオーガで固定されているが、鬼神の姿は少女のそれだ。しかしその姿であろうが、今の私が勝てるイメージが湧かないも確かだ。

 それは何故か。それこそが鬼神の話の核なのだろう。


「今の姿では確かに昔程の力は出せない。だが、それでもこれぐらいの事は出来る」


 そう言って鬼神は少し前まで座っていた巨大な岩の塊を、片手で軽々と持ち上げてみせた。


「これは己の力が鬼神の物だからというだけではない。ここまでとは言わなくてもこれに近しい力は、既に貴様にも備わっているからな」


「私にも?」


 両手を見る。


 そうは言われてもとても信じられない。確かに全力を出せば、今ならあの岩を持てるかもしれない。

 だが、それは全力で、だ。

 鬼神のように軽々とではないし、それであの力に近しいと言われても納得は出来ないだろう。


「それはやり方を知らないからだ。そしてこれから貴様にはその方法を教える。ふっ、興味が出てきたみたいだな」


 その言葉に頷き、鬼神の次の言葉を待つ。

 

「まず、気と魔力だが、これは普通の人間には見る事が出来ない。それは知っているな」


「うむ。私は眼が特別製になってるから見えるけど、普通は見ないんだよね。ただ、強化系のスキルを使うとどっちもオーラは見えるよね?」


「ああ、そうだな。スキルなどはオーラが上がるが、あれは気と言うよりも体から出た余分な力だな」


「そうなんだ?」


 気での身体強化で立ち昇るオーラは、強化に対して余剰的な余った力が、体に害にならないように排出されているらしい。

 そして排出される際に、空気中に混ざる魔力と反応すると、反発が起こり目に見えるのだそうだ。

 因みに魔力での強化は膜のように体に張り付く、そしてそれも余剰分が隣接する気と反発して見えるのだそうだ。

 気は内側からの強化、魔力は外側からの強化、どちらも未熟だと立ち昇るオーラと見えるモノが多くなる。


「そしてマナと仙力はそれを更に高めたモノ。気や魔力しか扱えない者では、力を感じる事も難しくなる」


 ほほう。たまに実力が読めないのはそういう事か。ガダルとかなんてモロにそのタイプだったもんなぁ。


「だが、それが仙力から鬼力に変わると話が変わってくる。このように……な」


 そう言って鬼神は左手には仙力を右手に鬼力を纏わせる。


「ほう……」


 鬼神はその見え方に注目させたいようだが、私はむしろその行為に注目して同じ事を試みるが、やはりと言うべきか力が上手く集中出来ない。ぐぬぬ。


「今の貴様では無理な技術だ」


 悔しい。


 しかし鬼神の言う通り今の私では万が一にも成功はしないだろう。それだけ鬼神のこの技術は凄いものなのだ。


「それよりもよく見ろ」


 言葉に従い良く観察する。


 確かに鬼神の言う通り、仙力は私の眼を以てしても非常に見えにくい。それに引替え鬼力は、まるで燃える炎のように煌々としている。


 と、いうか熱い?


「貴様が今まで使っていた鬼力との違いに気が付いたようだな。そうだ、仙力と織り交ぜた本当の鬼力は、実際に熱を感じる程のエネルギーの塊になる」


 ゴウッ! と、音を立てて鬼力の炎が燃え盛る。


「私はそんなになんないぞ!?」


「それはまだ貴様が慣れていないからだ。力の出し方を覚えればすぐにこれくらいは出来るようになる」


 そんなとんでもない事を簡単に言ってのけた鬼神は、炎を鎮めるとそっと私に差し出してきた。


「触ってみろ」


「嫌だよ熱いんでしょ!?」


「大丈夫だ。もう熱は感じない」


「本当に……? 嘘だったらお前の美少女フィギュア作りまくって、変態共の大人の玩具化するからな!」


「どんな脅し方だ!? いいから早く触れ!」


 熱くない。そう言われても信じきれない私は、そ〜と指を伸ばして触ってみる。


 本当に熱くない? というか、普通に触った感触がある!?


 鬼神に触らされた鬼の力、それはなんとも不思議な触り心地がした。

 つねにサラサラと流れ落ちる砂を触っているような、不定形の柔らかいモノに触れているような。そんな触り心地だった。

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