第482話あんなライダーよりも酷い改造

「何をどう聞いたらそんな答えに辿り着くんだ?」


「私的には普通に判断してなのだが?」


 いやいや、自殺志願する訳でなし、ちゃんと勝率が高い方を選んだつもりですのよ?


「報酬に釣られて選んでいい事ではないぞ」


「いやまあ、貰えるものは貰いたい主義ではあるけど、あるけれど! それで命を投げ出そうとするほど馬鹿ではないですよ?」


「じゃあどうしてそうなった!?」


「んー? 真面目に言えば私って対人戦が一番得意なんだよね」


「確かに観ていてそんな感じだな。モンスター相手では特にそうみえる」


「うむ」


 私が得意とするのはガチンコ勝負ではなく、相手の隙を突く戦い方。

 油断を誘い、相手を騙し、思考の迷路に絡め取る、そうして選択肢を絞り相手を誘導する、それが私の戦い方だ。


 正面からやり合うのが苦手と言う訳ではないが、それでも一番得意な手はそういった搦手の戦い方。


 だからこそ、獄門鬼のように思考も感情も無い相手は苦手なのだ。

 最善手で来るからある意味読みやすくはある──が、それでも感情や思考の揺らぎから読み取る精度よりは落ちる。

 一分一秒……いや、刹那の時間であればあるほど、そのほんの少しの違いが生死を分かつ。


 私の命を簡単に刈り取る攻撃を前に、ステータスの高さと思考の揺らぎとを天秤に掛けるなら、私は迷わず思考の揺らぎを取る、それだけの話だ。


 それに……感情があるからこその効果は他にもあるからね。


「なるほどな」


 そこまで説明するとようやく得心がいったという感じで鬼神が頷いた。


 まあ、普通に考えれば私のやり方は自殺行為だもんなぁ。


『確かにハクアにはその方が勝率が高そうですね』


「だしょ?」


 曲がりなりにもここまで生き残ったのは、運だけではなくこの戦法によるものが大きい。


 相手の思考を限定し、読み切る事で行動を予測する。


 そうする事でスペックの差を覆し、なんとかここまで勝機を掴んできたのだ。


 まあ、運──と言うよりも、悪運が強いとも言えるが。強敵と戦う時点で運は無い。


「それならば今までの戦いも納得がいくな。まあ、己は相性が良さそうだが……」


「だろうねぇ。鬼はどいつもこいつもパワータイプだし」


 鬼神のこの感想は的を射てる。

 対人戦は確かに得意だが、単純にステータスで殴ってくる相手は苦手なのだ。


 グロスとかグロスとかグロスとか特に苦手でした!!


 圧倒的なパワーで押し切られれれば、恐らく私では勝てない勝負も多い。


 何も考えずにパワーだけで押し切ってくる相手。

 自分のスペックの高さに絶対の自信を持ち揺るがない相手。


 それらには相応に弱いのが私なのである。誰でも圧倒出来る主人公力が欲しい今日この頃。


「ふむ……。だが、その戦い方だけではその内死ぬぞ」


「そうは言われてもねぇ……」


 私とて選択肢が多いに越したことはない。

 だが、それでも強敵を相手に自分の手札が通用する事の方が稀なのだ。

 その中で、相手の思考を絡め取るこの戦法は、知能がある相手ならば、一定以上の効果が見込める可能性が高い。

 パワータイプであっても、効果は低いがそれは同じ。まあ、効果が低くてせっかく仕込んだ物に気が付かれない事も多々あるが……。

 それでもなんとかかんとかやって来たのだが、鬼神の言う通り辛い場面も増えてきたのは確かだ。


「おい、創世神。ハクアに【高鬼鋼こうきこう】を教えるつもりなんだが、どこまで話しても良い?」


 そんな事を考えていると、鬼神が何やら気になる単語と共に駄女神に問い掛ける。


 なんか心踊るワードが聞こえた気がする!


『……ハクアはもうその辺の事についてはほぼ確信を持っているので全て話しても大丈夫ですよ』


「そうか」


「なんの事?」


「ハクア。貴様にはこれから鬼の力の正しい使い方を教えてやる」


「良いのか?」


 駄女神に確認を取るように顔を向けると頷いている。どうやらこれは鬼族なら当たり前レベルの事だからOKらしい。


「そうだな。まずは鬼の力の正しい認識から話す。ハクア、そもそもステータスがなんなのか考えた事はあるか?」


「あん? ステータス?」


「そうだ」


 鬼の力の正しい認識と言いながらステータスの話とはこれ如何に。


「そうだな……。多分、私の予想が正しいのならステータスは、肉体的とは別の魂の強化基準かな」


 多分、勘違いしている人間も多いが、ステータスと肉体的なスペックは繋がっていない。

 何故なら私の見た目でも、筋肉モリモリなマッチョより力が上というのは、この世界でならば十分有り得るからだ。


 それに今回龍の里に来てからの、あれやこれやの拷も……ではなくて修行で獲た肉体的なスペック向上。

 あれだけ色々と詰め込まれて、ある意味本当に肉体改造されたのに、ステータスはほぼほぼ変わってないからね。


 あんなライダーよりも酷い改造。アレでこの考えが間違ってるとか言われたらガチで泣きますよ。


 魂の強化基準と言うのが正しいかは知らないが、この世界は地球よりも、より魂が力を持つ世界だと思っている。

 前に澪や瑠璃に話した通り、レベルアップは魂の強化だ。相手の魂を経験値として取り込み、加工もしくは純化して魂を強化する素材にする。

 そのプロセスを経て、魂の情報が肉体に上書きされた物がレベルアップであり、ステータスだ。


 その事から考えるに、この世界の真のスペックとは肉体+ステータスの合計値だと思われる。


 そこまで話すと何故か鬼神は驚いた顔をしている。


「驚いた。単独でそこまで辿り着いたのか……」


「いや、むしろ情報としては十分過ぎるほどあったと思うが?」


「確かにそうだが、それでもそこまで考えが至る者はなかなか居ないぞ」


 うーん。澪達にも言われたなぁ。

 しかし、創作物の中でならへぇーで済ますけど、実際に現実になったら考えませんこの不可思議。私がおかしいのだろうか? 解せぬ。


「そこまでわかっているのなら話が早い。貴様の考えた通り肉体とステータスとは別物だ。魂の強化で肉体にも影響が出るが、その逆はほとんどない」


 だろうねぇ。

 しかし、ちょっと前まで開示されなかった情報が普通に肯定されたなぁ。それだけ確信を持ってるからなのか、それともアクセス権限が増えたのか。

 うーん……謎だ。


「そして貴様や今の己のように非力な身体で、見た目以上の力が出せるのは、魂の力──ステータスが肉体を強化出来ているからだ」


「それは肉体への影響とは別の物なのか?」


『ええ、違います。そうですね……前者が肉体に物理的な影響をもたらす物で、後者は目に見えない能力として付加される物だと思って下さい』


 ふむ。進化とレベルアップの強化くらいの違いだと思えばいいか。


『厳密には違いますが、認識はそれでも構いません』


「魂による肉体の強化は前者も後者も、基本的に本人にも他人にも干渉は出来ない」


「基本的に?」


「ある程度の方向性は絞れると言う事だ」


 ああ、なるほど私が配下にした皆のステータスの方向性決められるあれと一緒か。


「そうだ。そしてその肉体のスペック外の力で自分の意思で操れる物、それが気であり魔力だ」


 なるほどそこに繋がるのか。

 つまり魂の強化は手出しが出来ない強化、それを任意で強化出来るのが気と魔力と。

 うむ、今までの復習のような講義だけど、正直今までは自分の推測だけで裏付けがなかったものに、正しいと判を押してくれるだけでもありがたいな。

 小説とかでも、こうやってストーリー中盤でまとめを出してくれるのはありがたいからね。


『またメタな考えを……』


 うっさいよ!

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