第484話私だって耐えられるんならやらんわ

「どうだ?」


「うん。これは……今すぐコレを再現してクッションを作ろう。マイクロビーズよりも絶対感触いい。売れる!!」


「そんな話は一切してない筈だが!?」


「あれ、人をダメにするソファやクッション系作って、全人類堕落させようぜって話じゃなかったっけか?」


「……純粋な目をして魔王のような事を言う奴だな」


『とりあえず貴女の死活問題をなんとかする話しですから、真面目に聞いた方が良いですよ』


「マジかよ!? 早く言ってくれ」


「最初からそう言ってる筈だが!?」


 しくった。ついついビッグビジネスに思考が持っていかれてしまった。しかし販路はなんとかなるが、再現が難しいから断念か……無念。


「まあいい。今お前が確認した通り、仙力と混ぜ合わせた鬼の力は、純粋なエネルギーの塊で在りながら、物質的な形を持つ」


 確かに、触っている感触があったって事はそこに物質として存在してるって事だもんな。

 しかし、高密度のエネルギーが物質になるって凄い事では?


「そうだ。これは鬼の力だけの特権でもある」


「おお!!」


 特権とか特別とか大好きだよ。


「そしてコレが貴様の悩みを解決する答えでもある」


「えっとつまり、それを体にまとって? 出して? 直接防御に使えって事?」


「いや、そうじゃない。確かにその使い方も出来なくはないが、それは燃費も悪く効果が薄い」


「ならどうしろと?」


「簡単だ。器を満たすように、文字通り身体の隅々まで力を行き渡らせればいい」


「えーと、そんなんで良いの? ってか、それって毎回普通にやってる事では?」


「そうでもないぞ。力を扱える者ほど、効率的、効果の高い運用をするために力を逐次流動させている。そうする事で攻撃や防御を高める訳だ」


 確かにそう言われれば私もそうしてる。全体巡らすよりも一箇所集中の方が攻撃力も防御力も高いし。

 まあ、そこ以外は普通以下になるけど……。


「気や仙力の扱いとしてはそれでも正しいが、事、鬼の力に関してはそれは悪手だ。例えるなら鬼の力は火薬のような物。爆発力があり、その反面それ自体が武器にもなり得る強力な力、それを攻撃部位だけに集中すれば、その力で自分の体が自壊する。覚えはあるだろう?」


「うん」


 と、いうかあり過ぎる。もっと早く教えて頂きたかった情報なりよ。


「それを防ぐ為に鬼の力は常に体に満たす必要性がある。鬼の力で鬼の力に耐える訳だ。まあ、その代わり力の消耗も激しいがな」


「なるほど」


 鬼神の言っている事は分かる。つまりは力の使い方の切り替えだ。

 力を意識的に使うのではなく、自分にある自然なものとして行使する。それは普段生物が意識せずやっている事をやるのと同じだ。


 人間は存外優秀なオート機能を持っている。

 普段全く意識せずやっている二本の足で立って歩く行為、これを技術的に再現すると膨大なシステムを構築する必要がある。

 恐らく鬼神が言いたい事もまたそれと同じような事だろう。


 そして同時になるほどと納得もする。

 鬼の力は元の力を強化する類の言わば掛け算のようなもの、例えるなら肉体の力×鬼の力のようなものだ。

 だが、鬼神の教えるこの技術を使えば、元の力に鬼の力をプラスして更に掛け算、つまりは肉体の力+高鬼鋼×鬼の力という感じになる筈だ。

 そうなれば数値に現れない私の基礎能力は、何倍にも跳ね上がる事だろう。


 まあ、出来ればの話だけど……。


「しかしまあ……こんな技術があるんなら鬼種がフィジカルモンスターとか言われる理由が分かるね。ぶっちゃけ反則級だわ」


「確かにそうだな。まあ、これが使えればの話だが……」


「ん? 鬼種は普通に使えるんじゃないのか?」


「いや、貴様は使えるようになったばかりだから知らないだろうが、仙力とマナには魂の修練効果があり、鍛えれば鍛えるほどその効果は大きくなる」


 マジか!? ああ、だからステージを上げるにはこの二つを修得する必要があったのか。


「そうだ。それぞれ肉体と精神に働きかけるものでな。特に鬼種はマナの扱いが全くと言っていいほど出来ない。その代わり……」


「仙力の効果が強く現れるって事か」


「そうだ」


 なるほど、逆に言えばエルフや妖精はマナとの親和性が高いと聞いた、だからこそ大規模術式や、魔法に関連するあらゆる適性が高いのだろう。

 精神力は魔法に関連する全部に影響するパラメーターらしいからな。


 そして一部の種族は特にその影響が大きいのだろう。鬼、エルフ、妖精、その他にも竜とかもその系統に入るという事か。


「で? それがなにか関係あるの?」


「ああ、己が今貴様にこの技術を教えた理由は、鬼の力に身体が耐え切れないからだ」


「あー……なるほど。普通の鬼種からしたらこんな技術は必要がないのか」


 仙力の修練によって獲られる身体の強化。特にそれが顕著に出る鬼種なら、私のように自らの力に耐え切れないなんて事はほとんどないだろう。

 力で身体が自壊することもないとなれば、無駄に労力を割いてまでやるほどの事でもない。つまりこの技術は鬼にとっては必要のないものなのだ。


「ん? それならなんでお前は知ってんだ?」


「それは己がハクア、貴様と同じだからだ。己も術士タイプではあったのだが格闘の方が得意でな、鬼術に関してもサッパリで覚えるのは武技ばかりだった……」


 そんな鬼神が知恵を絞り、努力を重ねた結果生まれたのがこの【高鬼鋼】なのだそうだ。

 才能と特性の不一致にめげる事なく抗い続けた成果、そんなものをこんな形で聞いてしまっても良かったのか? 聞くべきべきではなかったのでは? そう思ったが、それは他ならぬ鬼神自身が否定した。


「どれほど苦労して会得したものでも使われなければ意味がない。己としても使い手が増えるのは喜ばしい」


 これには私も激しく同意だ。

 自分の敵を強くしてしまうのなら話は別だが、仲間や信頼する者ならその限りではないと私も考える。


 しかしどうやら世の中の人間はそう考える人間は少ないらしい。

 自分の研鑽、努力の末に得たものなら尚更だ。

 賞賛されたいからか、はたまた優位に立ちたいからか、理由は様々あるのだろうが、私からすればなんとも効率の悪い考え方だ。


 そう言うと皆は何故か、そう考えられる人間は稀だと言うが、普通に考えればそちらの方が得なのにとは思う。閑話休題。


「でもこれも廃れた技術という訳ではないんだろ?」


「ああ、一部の術士タイプが自衛手段の一つとして覚えたりしているな。後は本当に高みを目指す者達が使える。基本的には応急的な手段、もしくは物好きのやる事という感じだな」


「そうなのか。つっても覚えて損はないだろうに……」


「いや、そうでもない」


「えっ? デメリットあり? 副作用とかあんの?」


 またその系統が増えるのですか!? お腹一杯ですよ!?


「いや、デメリットはない。しかしこれは種族というかなんというか、大体の鬼はその……細かい事が苦手な者が多くてな」


「ああ、脳筋なのか」


「人がぼかした事をアッサリと……まあいい、その通りだ。やってみれば分かるが【高鬼鋼】は体内で常に力を満たし続ける。それは口で言うほど簡単な事ではない。恐らく貴様でもな」


 更に言えば先程話していた通り、鬼の身体は仙力のお陰で頑強だ。

 しかしそれは私が自分のステージを上げる時に感じたように、鬼種も限界を超える時は大量の仙力を消費して肉体を作り替える。

 それなのにわざわざ苦手な事をして仙力を消費するより、その分の仙力を肉体の強化の為に貯めた方が余程効率的なのだそうだ。


「ついでに言えば制御をしくじれば簡単に自壊する」


「そりゃ誰も使わねぇわな!!」


 私だって耐えられるんならやらんわ。


「ああ、だから使う者は力の扱いが得意な術士タイプ、もしくは肉体の強化だけでは満足出来ない高みを目指す者という訳だ。とは言えその選択をしても、肉体の強化のように必ず強くなれる訳ではないがな」


「なるほろ。納得」


 苦手なものに時間を割くよりも、得意な事を伸ばす方が効率的な場面もある。逆もまた然りだけど。

 しかしその選択も常に爆弾を抱え続けるような選択ならば、余程力に飢えている者しか取らない選択だろう。


「さあ、話はここまでにしてやってみろ」


「うし! やったる!」

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