第53話ヤバイ! 死んだ!

「そら、ソラ、そら、ソラ! ほらほらもっと集中しねぇと死んじまうぜ! ハクアよォ!」

「してるから! 今までで一番してるからな! じゃなきゃ死んでるわボケ!!」


 と、今まさに殺そうと攻撃してくる相手と、殺されそうになってる側の人間とは思えないような会話を繰り広げながら、一発貰うだけで簡単に死んでしまう攻撃を避け続ける。


「ハッ! 器用に避けるじゃねぇか! なら、まだまだスピード上げるぜ!」


 んなっ! マジで!?


 グロスは宣言通り大剣での攻撃スピードを更に上げてくる。


 振り下ろされる大剣を勘を頼りに避けに避け、距離を取ろうとするが、大剣はまるで生きているかのように縦横無尽に動き、私の命を刈り取るべく猟犬のように追い掛けてくる。

 それでも何とか避け続けるが、何度と無く避けてきた攻撃が今までと違い地面に当たる直前に斜め上に跳ね上がり私を追撃する。

 その一撃を暁と宵闇に鎌鼬を発動し更に魔力を流し込み強化し、何とか受け流す事には成功するも、その余波だけで簡単に私の身体は吹き飛ばされる。


 クソ! 地力が違いすぎる! このままじゃじり貧だ。何とかしないとMPの方が先に尽きて避ける事も出来ずに殺られる。


 ──一撃を貰えばどうせ死ぬ。


 それならば回避に専念する方が消費を抑えて攻撃の機会を伺える。

 そう考えた私は全身を覆っていた【魔闘技】を足にのみ集中する。それと同時に新技の魔領まりょうを使う、この魔領は自分の周りに魔力を薄く散布する事で、その領域に入った物を感知する言わば私自身をレーダーにするようなものだ。


 ハクア

 HP:270/560

 MP:200/330


 さっき覚えた【HP自動回復】のお陰で少しだけだけど、何とか回復してるからHPに関しては考えないで良い。それよりもMPの管理はちゃんとしないと一気に挽肉コースだよねこれ!?


「良いのかぁ? ただでさえ無いに等しい防御を更に薄くするなザ、正気の沙汰じゃネェぞぉ!」

「無いに等しいなら無くても同じだよ」

「くかか! 違いねぇ!」


 又も突進してくるグロス。


 完璧に遊ばれてるな私!


 しかし突進してくると思ったグロスは、間合いの外で大剣を振りかぶり力任せに振り下ろす。


 その瞬間地面が爆ぜ、一直線に斬撃が私に向い飛んでくる。


 これ大剣技【地走り】とかって奴か!?


 ──逃げ切れない。


 そう判断した私は風縮を掌で地面に放ち、その爆風で飛び上がる。しかしその私を今度は大剣技【裂空】が襲う。

 それを見た私は影魔法で自身の足を掴み、無理矢理下に放り投げると着地と同時に風爪を発動、そのままグロスに向かって駆け寄る。


「ハッ! 良い根性だァ!」


 そりゃどうも!


 大剣技【連斬】による連続の斬撃を魔領による感知を頼りに避け、すり抜け様に脇腹を【疫爪】を使った風爪で抉る。


 ……おいおい。金属か何かなのか? その体!?


 風爪が脇腹に当たると硬質な音と共に弾かれる。──が、ほんの少しだが傷をつける事に成功した。

 それを感触で確めた瞬間に風爪を傷口から体内に送り込み、体の中から全力のウインドブラストをぶち込む。


「グガァァァア!」


 体内からのウインドブラストで初めてまともにダメージを与える事に成功した。──だが。


「くかかカカ! 良い攻撃ダァ!」


 口から血を流し、脇腹の傷口を大きく広げた状態でグロスが獰猛に嗤う。

 そして、いきなりその姿が目の前で消え、気が付いた時には私の腹にグロスの拳打による一撃が入っていた。


 魔領の感知でも間に合わない!?


「──ガボッ! ゴプッ! けはけは!」


 ビチャッ! ボチャッ!


 グロスに殴られた事であばらが折れ、どこかの臓器に刺さったのか大量の血が口から溢れる。


 マズイ! そう思った瞬間、私は回復薬を取り出し一気に飲み干す。しかし、体の芯は熱く未だ痛みは消えてくれない。


「クハハ! ちゃんと手加減はしたぜェ! まだまだ俺を楽しませてくれるよな?」


 グロス

 HP:2300/3000

 MP:860/1000


 ハクア

 HP:50/560

 MP:140/330


 クッ! あの攻撃でもアレだけしかダメージ無いのかよ!


 私は更に回復薬とMP回復薬を飲み干し、震える足で立ち上がる。すると遠くの方で蒼炎の火柱が立ち上り、インフェルノが放たれたのだと知る。


 皆、何とか戦えてるみたいだ。


「余所見してる暇はネェぞぉ!」


 再び迫り来るグロスの攻撃を魔領頼りに何とか避け続ける。

 右、上、切り返し、袈裟斬り、多種多様な角度から私の命を狙って斬撃が乱れ跳ぶ、私は避ける度に隙を探し何とか攻撃に移るが大したダメージにならない。

 だがそれでも短剣と拳打による攻撃を繰り返す。

 そして私が避け続ける事に焦れたグロスが大剣を振りかぶった瞬間、すり抜け様に暁と宵闇で斬り付ける。


「効かねぇゾォお!」


 その時、グロスの絶叫と重なる様に再び爆音が鼓膜を叩く。


 あれは……まさか敵の!? 皆!?


「考え事はよした方が良いぜぇ!」


 爆音に気を取られ仲間の安否を考えてしまった瞬間、グロスが私に大剣を振り下ろす。


 ヤバイ! 死んだ!

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