第54話「あんた達何処から湧いて出たの?」
ヤバイ! 死んだ!
隙を付かれた私は、やけにゆったり見える迫り来る大剣の刃を眺めながらそんな事を考えていた。
よく漫画で死にそうになると攻撃がゆっくり見えるとかって本当何だな~。と、他人事のようにそんな事を思いながら大剣を眺めていると、不意に私に向かって縦に振り下ろされていた大剣の軌道が横薙ぎに払われる。
えっ! 何故に!?
横凪ぎに軌道の変わった大剣を驚きながら眺める私の耳に硬質な音が響いた。いきなりの展開に金属同士が当たった物だと分かるのに多少の時間が掛かる。
「地走り!」
「真空切り!」
「ゲイルスラッシュ!」
「ファイアアロー!」
「邪魔だァァア!」
突如として放たれた攻撃に即座に反応し迎撃を加えるグロス。──だが流石のグロスも、連続で放たれる数々の攻撃を前にダメージは免れなかった。
突然の武技や魔法を放つ声に我に帰り、グロスから慌てて距離を取る私の目に写ったのは、スケルトン祭りに参加していたが上位三組に入れずに、スケルトン祭り最終日の決勝戦を見学しに来ていた冒険者達の姿だった。
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ハクアにオークと呼ばれた男。ユルグ村のギルド長モースは祭りの盛り上がりを満足げに眺めていた。
「ふう、ランキング上位の二組が争いだした時はどうなる事かと思ったがなかなかに盛況だな」
「ええ、そうですね。ギルド長」
モースがこう言うのには訳があった。その訳とはここ数年のスケルトン祭りは今一つ盛り上がりに欠けていたからだ。
その理由はここ何回かの祭りの優勝者が決まっていた事にある。
数十人で結託しスコアを纏める事で上位を独占し、戦わずして優勝が決まってしまっては誰も祭りを楽しみには出来なかった。
しかも周りもその手法を知っていたとなれば尚更冷めてしまう。
そのために今年はそんな事が出来ないように手を打ったが、それすらも新しい手法を編み出されトップを取られてしまい、今年もまた盛り上がりに欠けてしまうと思った矢先にあの騒動が起きた。
「初めに見た時は驚いたが……」
「確かにそうですね。あんな女の子が大の男を相手に啖呵を切ってましたからね」
それは突然の事だった。
執務室の中、祭りの事で頭を悩ませていたモースの元にギルドの受付嬢が慌てて「上位の二組が争いだした」と報告に来た。
その報告を受けたモースは面倒な事をと思いつつも現場に向かうと、今まさに悩みの種になっている優勝グループであるガストのパーティーメンバーと、そのメンバーの一人を組伏せている、白い髪と透き通るような白い肌をした目を見張るような美少女が言い争いをしていたのだ。
そしてその白い少女の語ったガスト達が優勝の為に行った行為は、流石に看過できるものではなかった。
それも当然だ。祭りと銘打ってはいるが、その実封印されている魔王の力を削ぐ事が目的にもかかわらず、自らモンスターを生み出しスコアを稼ぐなどあってはならない事だ。
しかし少女の語った事は何の証拠も無く、流石にそれでは処分も出来ないと考えていた時、いきなり創世の女神が現れその場の混乱を納め、今回の決勝戦のルールを決めて下さった。
「女神様が現れルールまで決めて下さった事が広まったお陰で噂になり、昨日の出来事にもかかわらずここまで人が集まりましたからね」
「ああ、それに今回の優勝賞品もかなりの物が手に入ったからな」
そう言いながら自らの横にある、吸血鬼カーミラが使っていたとされる魔剣クリムゾンローズを眺める。
この剣はモースがとある伝を使い手に入れた物だが、この賞品のお陰で祭りの参加費を普段の三倍にしても文句が出るどころか、いつも以上に参加者が増え、そこに来て女神様が関わり、普段とは違うパーティーが上位に浮上した。
しかも、そのメンバーの全員が目を見張るような美少女揃いとなれば、当然話題性が高まると踏んでいたが正直な所予想以上に盛況だ。
「しかしあの三位のチーム。たしか……アキラとか言ったか? 奴等は何で動こうとしないんだ?」
「さあ、それは私にも……ですが、チームハクアがどのような手を使ってか、モンスターが出てくる所を事前に察知し攻撃に移る。という業を見せたりと盛り上がっていますよ」
「それはそうだがな」
そう言いながらモースは再び魔道具に映るチームアキラを見る。
この時モースは何故かは自分でも分からないが、猛烈に嫌な予感がしていたが、それが何に対してなのか自分でもわからないという気持ちの悪さを感じていた。
「ギルド長! チームアキラにガスト氏が近付いていきます」
「何? 本当だな。何か叫んでいるのか?」
「ええ、それも相当な剣幕で」
魔道具に映る試合の様子を見ていた二人の前で、ガストがチームアキラに何かをわめき散らしながら近付いて行く。
そして、ガストがアキラに掴み掛かろうとした瞬間、アキラの仲間の一人がガストの腕を切り落とした。
「キャァ~~!!」
「おい、腕を切り落としたぞっ!」
その映像を見た祭りの見学者が次々に騒ぎだす。
「なっ!」
「なっ、何をしているんだ奴は!」
ガストが腕を落とされた事に気付いたのだろう。
ガストのパーティーメンバーの前衛三人が、ガストの腕を切り落とした女に斬り掛かる──が、逆にもう一人の大柄な男が羽虫でも払うかのように振るった大剣の餌食になってしまう。
二人が斬り殺され肉片へと変わり、運悪く生き残ったもう一人は足を折られ腕を欠損する怪我を負い、うずくまりながら今は存在しない腕を探していた。
「くっ! ギルドの全職員に伝達。今すぐ通信の魔道具を使う準備をしろ!」
モースの言葉にギルド職員が一斉に動きだし通信の魔道具を取り出す。
しかしその間も事態は動き残っていたもう一人も叩き潰され。
死霊術師も何故かは分からないが、自分で呼び出した筈のスケルトンに原形が無くなるまで滅多刺しにされている。
「うぐっ!」
「オェッ!」
「見ないで!」
その様子を見ていた見学者が次々に吐き出したりうずくまっている。その間にも最後の生き残りのガストも無惨に殺されてしまう。しかしそこにいち早く駆け付ける白い少女の姿が映し出された。
それを焦る気持ちでただ見つめながらモースは魔道具の到着を待つ。
「ギルド長用意が出来ました!」
「うむ、今この場にいる冒険者の諸君。ユルグ村ギルドは今この場で緊急依頼を発令する。依頼内容はチームアキラの鎮圧……いや、討伐だ! 参加者全てに金貨二枚を出し、成功報酬で更に金貨二枚出す。頼む皆協力してくれ」
義憤に刈られた冒険者と、事態を重く見た冒険者は放送の前に走り出し、Eランク冒険者の討伐には破格とも思える報酬に冒険者は我先にと走り出す。
「これで何とか収まれば良いが……」
「はい、しかし何がどうなっているのでしょうか?」
緊急依頼を発令したギルド長達は、事態の終息を願い魔道具に映し出される映像を見守った。
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「大丈夫か! 嬢ちゃん!」
数人の冒険者と覚しき男達がグロスに攻撃を仕掛け、その内の一人の女が私に回復魔法を掛けてくれる。そして、もう一人の男が私に話し掛けてくるのが、私は取り出した各種回復薬を一気に飲みながら答える。
「ゴクッ! えと、ンク! あんた達、ゴクッ!」
「飲むか喋るかどっちかにしろ!」
「ゴクッ! ゴクッ! ゴクッ! は~、もう一本行くかな?」
「飲むのかよ!? 良いから話せ!」
「あんた達何処から湧いて出たの?」
「いくらなんでもその言い方は無いだろ!?」
「私の方に来るのは有り難いけど向こうは?」
「安心しろ、取り敢えずお前の方が危なそうだから先に来たが、向こうにも行ってる」
「そっか」
「おい、何時までも話してないで手を貸してくれ!」
盾職の人間がグロスの攻撃を何とか受けながら叫んでいるので、私の隣にいた男はグロスへと向かって行く。
そして私も回復が終わり参戦する。
皆そっちにもすぐに人が行くらしいからそれまで何とか乗りきってくれ。
こうして私とグロスの第二ラウンドが始まろうとしていた。
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