第525話うーむ。やりすぎたか……

 ……そろそろキツいか。


 徐々にその数を増やしていった木人形が影法師を次第に包囲していく。


 影法師に命令を下しながら、徐々に包囲される光景を前にハクアは次のカードを切る。


光芒こうぼう


 呟き。


 それと同時に影法師の持つ刀が閃き、無数の銀線が走り、影法師に群がる木人形を粉々に切り裂いた。

 ▼▼▼▼▼▼

「な、ななな、なんっすかあれ!?」


「あれ……あの鬼が使ってたスキルなの」


「うん。正確に言えば血戦鬼が使っていたスキルを、ハクちゃんなりに再現した技だね」


 聡子の言うとおり、厳密に言えばハクアの使うそれは血戦鬼の使っていたスキルではなく、純粋な技術と工夫で再現した剣技だ。


 しかしその場に居たスキルを知る者は、それがスキルではないと言われても信じられないほど酷似した、完璧な再現にしか映らなかった。


 だが、ハクアの攻撃はそれだけに留まらない。


誅鬼乱雲せきらんうん


 ハクアの身体から赤いオーラが溢れ出し、オーラが深紅の雲を作り上げる。


 それに合わせるように刀を振り上げた影法師。その刀に雲から生み出された紅い雷が集まり、雷をほとばしらせながら深紅の輝きを放つ。


赤鬼雷刃せきらいじん


 振り下ろすと同時に刀に宿った膨大なエネルギーを解き放つと、紅い雷を纏った斬撃が一直線に軌道上の全てを切り裂いた。


「って! あんな技知らないっすよ!?」


「あれは元のスキルよりも更に凶悪なの」


「そうねぇ。雷の力を斬撃に合わせて放出、直線上の全てを切り裂きながら、周囲に電撃もばら蒔いて行動阻害もしてるわね 」


「スキルを技術で再現とか出来るものなんじゃな」


「まあ、普通はあまり出来ませんね」


「ってか、普通出来ないっすよね!?」


 シーナ達の驚きをよそに映像の中ではハクアが次々に血戦鬼が使っていた技を繰り出す。

 その度に木人形は吹き飛び、切り裂かれ動かなくなっていく。


 しかもハクアは影法師の操作に慣れてきたのか、自分では短弓を使いユエのフォローまで始めていた。


「あっ、もう作業になりつつあるから退屈してきてるねハクちゃん」


「そうですね。竜面鬼神影法師の性能テストが出来て上機嫌のようですが、戦闘自体は飽きてきてますね。ゴーレムの体力に応じて数も増えるようですが、まあなんとでもなるでしょう」


「えーー……少し油断し過ぎじゃないっすか?」


「いえ、既に体力変化による木人形の増加数も把握していますし、最低限の集中はしているので、あれ以上のなにかがない限りは大丈夫ですね」


「まあ、確かにそうみたいじゃな。しかもあの動き、龍歩を使って影法師を維持する負担も軽くしてるのじゃ」


「ええそうね。運用効率がどんどん上がっていってる。それに緩んでいるとはいえ、あれは良い意味でリラックスしてるだけだもの。過度の緊張はしていないし、周りも見えているなら大丈夫よ」


 その言葉を証明するように、ハクアは木人形が少しでも違う挙動をみせると、次の瞬間には影法師の斬撃が見舞われる。五十はいる全ての木人形の動きが既に読まれているようだ。


 木人形が集まる場所には影法師が切り込み、孤立した木人形はユエの援護をするついでに狙い撃たれる。

 そこには誰がどう見ても作業ゲー感を漂わせるハクアが、無感情に淡々と敵を処理する映像が流れていた。


 必死に欠伸を噛み殺している表情など、いっそ木人形が憐れに思えるほどだ。


 だが、ドラゴン達から憐れまれる木人形達の災難はここからだった。


 それはふとしたキッカケ。


 ハクアの操作する影法師の刀が木人形を切り飛ばした時、その木片が偶然か、はたまた必然なのかちょうど欠伸をしていたハクアの頭に命中した。


『アタッと、うん? ほうほう』


 最初こそ頭に当たった木片を睨み付けていたが、手に取った木片をまじまじと見たハクアの目の色が変わる。


『いやいや君達、なかなかいい木片を持っているではないか』


 グリンと顔を動かし、今までとは明らかに違う猛禽類のような目で見詰めるハクアの行動に、何故か意思のないはずの木人形達がビクリと反応し、カタカタと震えだす。


 そして───


『ここからは丁寧に処理してやるからな』


 惚れ惚れする笑顔でニコリと微笑む天使のような悪魔の虐殺が始まった。


「「「うわぁ……」」」


 そこから先の一方的な虐殺という名の素材採取。


 首を狩り、四肢を切り離し回収する。なまじハクアの技量があるものだからさっきより酷い。


 そして何より───


「いや、なんであのモンスター逃げてんすか?」


「あんな機能あるなんて知らなかったの」


「ハクアに関わるとモンスターが変な動きをするのぅ。なんでじゃ?」


「それは神にもわかんないんだよねぇ。いや、ほんとに……」


「流石じゃなぁ」


「しかし納得させる言葉はあります」


「ハクアだから?」


 そのミコトの言葉にテアはニコリと微笑み同意した。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼

 うーむ。やりすぎたか……。


 木人形を相手に試験した影法師の成果は上々。血戦鬼が使っていたスキルをなんとか再現する事にも成功した。


 そこまでは良かったのだがその後が問題だった。


 ふとした事で木材の材質の良さに気がついたハクアは、一所懸命素材採取に励んだ。


 何故か向かってくるはずの木人形が逃げ始めたので、追いかけ回して素材を採取した。なんなら後半は出て来るスピードが遅かったから、地面から引っこ抜いて倒していたくらいだ。


 その為か、現在木人形はボス部屋の端っこに逃げ込み、全員がハクアを最大限に警戒しながら身を寄せあっている。


 君達、私を攻撃するために出てきたんじゃないのかい? などと思いながら、なんで私が相手をすると変な行動取るのかなぁ? と考えるハクアだった。


 尚、現在ハクアは短弓で時々ユエの援護をするだけで暇している。


「まあいっか。それにしても、ユエもだいぶ強くなったあなぁ」


 身を寄せあっている木人形からゴーレムを相手取るユエに視線を移すと、そこには戦闘を優勢にこなすユエの姿がある。

 龍の里に来て以来、聡子からマンツーマンで修行をつけてもらっていた成果がここに来て発揮されていた。


 今まで力任せに振るっていた印象の剣技は、その動きの端々に技術が窺える。

 行動一つ取っても、龍の里に来る以前とは格段に動きが違っていた。


「うんうん。いい傾向だっと」


 ユエを狙う振り下ろしの一撃に速射で三本の矢を当て軌道をズラす。


 簡単にやっているが傍から見れば達人の領域の技術だ。


 ハクアの援護も本格的に入り始めた対ゴーレム戦は、結局最後までその優位性を崩す事もなく無事に終了した。


「ふぅ……」


「お疲れ様ユエ」


「あるじ。ワチ頑張った」


「うんうん。ユエが強くなってて私も嬉しいよ」


 頑張ったと胸を張るユエに素直な感想を告げると、むふーと、とても嬉しそうに反応する。

 表情を取り繕い、内心でその姿に悶えながらユエの治療をする。尊敬される主を演じるのは大変なのだ。


 治療が終わるとドロップアイテムを全て拾い外に出る。


「ッ!?」


「あ……るじ。何、あれ?」


 扉を出てすぐハクアの目に映ったもの。それは扉の前で待機していたはずのドラゴン達が倒れている光景。

その前には象よりも大きく、身体に絡まるように植物を身にまとった牡鹿のようなモンスター。


 赤く光る眼光に、全体が淡く発光する神秘性を感じる見た目、そんな神秘的な見た目からは想像出来ないほど、強烈な殺気と敵意を持って、牡鹿のモンスターはハクア達に襲いかかってきた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

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