第417話あっ、強すぎて扉が両方吹き飛んだ……

「急げ〜急げ〜」


 現在私はラインとの戦闘を終え、ヘグメスの屋敷に大急ぎで向かっている。


 口調からすると急いでいる感じは無いが本当に急いでるんだよ? だって、予想以上に時間の掛かったラインとの戦闘のせいで、向こうはもう最終局面に差し掛かりそうなんだよ!


 あっ、ほら。なんか良くやったな褒めてやろう的な事言い始めた。


 何故そんな事がわかるのかと言えば、こっそりと【暴喰獣】で作った個体をアベルにくっ付けている為だ。


 戦闘中は流石に余裕無かったけど、終われば聴覚を同調させて盗聴する余裕も出ると言うものだ。

 しかも試行錯誤の結果、五感の内の一つだけしか機能を持たせず、ステータスもオール0にする事で卓球の球レベルまで小さくする事に成功した個体だ。

 消費するMPはなんと五倍だが、それでも隠密性が増した事を考えれば収支はプラスだろう。


 うん。プラスなんだよ……。きっとそうなんだよ。無駄とか言わないで!!


 まあそんな訳でクライマックスに間に合わせる為、全速力で屋根の上を走っているのだ。


 しっかしまあ、本当に今回も死ぬかと思ったよ。


 まさか武器があんな変化をするとは……。


 事前の下調べをギルドでしたけど、武器が変化可能な魔武器とは誰も言っていなかった。

 まあギルドにあった情報は、オーガが大量発生した時に緊急クエストとして受けた、戦闘記録だけだったからしょうが無いけどね。

 だから事前の情報ではハルバートを使う、パワータイプの戦闘スタイルって事だったのに……。蓋を開けたら全くの別ものだったよ……。


 ダブルアクスは手数重視の攻撃だし、何よりもあの布都御魂剣と叫んでた光剣あれがやばかった。

 魔法や幻術に対しての耐性は低いと見て、最初の会話の段階で私との遠近感を狂わせる罠を張った。

 近接になればなるほどその効果は落ちるが、距離が空けば効果は上がり、何よりも気付かれにくい。


 アレを最初の会話の時点で仕掛けたのは私グッジョブとしか言いようがない。むしろなければサックリ死んでいた。


 更にプラスに働いた要因は幾つかある。


 まず、奴自身が魔力操作が不得手だった事。

 序盤から終盤まで奴は自分の魔法を使っている様子は無かった。

 その事から奴は魔法を使えないか、得意としていないと仮定していたが、その所為で魔力を操作するあの技自体とは相性が悪かったのだろう。

 その証拠に無数の光剣で攻撃をしていたように見えたが、その実操れているのは十本程度だった。

 それ以外の物は、その十本の光剣の後を追うように設定されていたのだろう。


 まあそれでも十分脅威ではあったのだが……。あんなもんテレビで観た魚群の群れと変わらんよ。


 だが、そのお陰で光剣と光剣の間には、私の身体をねじ込めるだけの隙間があったのだ。

 それが無ければ死んでいた。


 そして恐らくだがあの技を使うのは初めてか、もしくはほとんど使った事が無かったのだろう。

 後半になるほど精度は増し、様々な使い方をしていたがあれでもまだ粗があり過ぎだ。


 奴の近接戦闘を見れば分かる。


 あれは修練の賜物だ。


 そんな人間があれ程の実力に至り、そこまで練度を磨き上げたのであれば、あの技も同じようにもう少し初手から様々な使い方をして私を追い詰めた筈、そうなればあの攻撃に慣れる前に私も刺し殺されていただろう。


 まあ、使う前に鬼術とかって叫んでたし、恐らくあれがあの武器の鬼種特攻以外の、もう一つの能力だったんだろう。

 鬼種を相手した時、敵の術を写し取るのか、はたまた奪うのか?

 どちらにせよ、あれだけ強力な技を使えるようになるんだから制約も大きい筈、私との戦闘で使ったのは恐らく三つ、布都御魂剣に近付いた際の地面からの一撃、そして最後の幻術。

 上限が三つなのか、それともあの戦闘では出す機会が無かったのかは分からないが、まあ前者が理由だろう。

 そして制約も……回数制限なのか、クールタイムでもあるのか、まあおいそれと使う事が出来なかったに違いない。


 だから今回の戦いは、それらの偶然が重なったギリギリの勝利とも言える。


 ハルバートの攻撃だけだったら、どんなに早くても懐に潜り込んで超近距離戦に持ち込めば、一撃も貰わずに勝てると思ったから戦ったんだけどなぁ……。話が違うの。


 そして何よりも、最後の幻術は本当に危なかった。危なかったというか普通に引っかかったからアウトだけどな!

 あんな搦手の隠し球は卑怯だと思うの。

 私が言うなってツッコまれるかもだけど、私は良いんだよ? 正攻法では弱いんだから。

 でも、強者は正攻法で叩き潰すべきなんだよ! うん、何が言いたいかと言えば、只でさえ強いのに搦手までは勘弁して下さい!


 鬼種特攻の効果が、HPを一気に奪うダメージ系じゃ無くて、攻撃箇所から呪を送り込むタイプだったのが救いだった。

 お掛げで速攻腕を切り落したから生き延びられたけど、アレもう少し躊躇ったりしたら死んでた予感がヒシヒシと感じるのだよ。


 でもね言いたいの……。私、自切出来る節足動物やトカゲとかじゃないのに、何回自分の腕とか足とか吹っ飛ぶ所見れば良いんだよ!

 もう、スパスパスパスパと、こんなんだから【再生】みたいなスキルゲットしちゃって、哀れな物を見る目で見られるんだよ!!


 まあ、そのお陰で隙を突けたんだけど……。

 それでも私は納得行かないのです。その内異世界だろうと未成年になんて事をさせるんだ! と、教育委員会とかが動き出すに違いない。閑話休題。


 さて、そんなこんなで先程の反省会&世に対する嘆きを心の中で叫んでいると、ようやく目的地が見えて来た。


 うーん。正面から入っても時間掛かるし直接乗り込むかな?


 そうと決めた私は一切減速せずに、アベル達が居る部屋の前の廊下へと、窓を突き破って侵入した。


 人は来るだろうが、まあ中まで音は聞こえてないみたいだからOKだろう。


 扉の中ではもう既にアベル達は殺される寸前だが、まだ余裕は少しだけ残ってそうなので、戦闘とここまでの移動で乱れた服や髪を直し、息を整える。

 そして押し入る時の作法に則り思い切り扉を蹴破った。


 あっ、強すぎて扉が両方吹き飛んだ……。てへっ。

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