第416話いや、マジか、有り得ねぇだろ
ハクアをより死力を尽くす強敵と認めた事で、ラインもまた更に自身の身体を痛め付けながら限界を遥かに超えていく。
「うおぉぉお!!」
全ての力を振り絞るように声を上げたラインが繰り出したのは巨大な光剣だ。
いや、既にその大きさは剣と言うには巨大過ぎて、自在に動かす事の出来る極太のレーザーと言った方が正しいかも知れない。
その巨大な光剣が二本、腕の動きに合わせるように高速で振り回されるのだから、たまったものではない。
先程までの無数の光剣ならば弾く事も、身体を捩じ込み避ける事も出来ていたハクアだが、巨大な二本の光剣になった事で、更に大きく避ける事を余儀なくされ体力を容赦無く奪われる。
更にハクアにとって厄介なのは、大きさだけではなく威力まで上がった光剣は、今までのようにギリギリで避けるハクアをその余波だけで炙り、吹き飛ばす威力を有していた。
だがハクアとてそれを全く警戒していなかった訳ではない。
威力が上がっている事も考慮して回避していたハクアだが、それが自分の想定よりも少しだけ上回っていた。
それでもハクアはなんとか吹き飛ばされる事無く耐えきり、身体の軸が少しブレる程の影響に留めた。
「貰ったぁ!!」
隙と言うには余りにも一瞬の身体のブレ。しかし格上のラインはそれを見逃す程優しくはない。
やっとの事で作り出した僅かな隙。
その隙を逃すまいとラインは二本の攻撃を更に一本に纏め上げ、光の柱のような光剣を上段から一気に振り下ろす。
そのスピードは戦いが始まってから今日一番と言うほどの、素早く無駄の無い光速とも言うべき一撃だ。
避けきれない!?
ハクアの視界を埋め尽くす程の光の柱。
もはやこの空間全てを埋め尽くしそうな光の奔流が、情けも容赦も無くハクアの身体を呑み、大爆発を巻き起こした。
「これで──ッ!?」
強敵との戦い。その勝利に歓喜が浮かぶ。
だが──、そんなラインの目に有り得ない光景が映し出される。
光の奔流に呑まれ、大爆発に巻き込まれたハクアが飛び上がったのだ。
それはハクアが得た更なる力、スキル【陽炎】だ。
任意で発動する事で一瞬だけ実体を無くし、あらゆる攻撃を回避する事が出来るスキル。
しかしこれにはいくつかのデメリットも存在する。
一つはタイミングを見誤ればなんの意味も無くなってしまう事、適切に攻撃を見切り、実体の無くなっている一瞬の間に攻撃をすり抜けなければ意味が無い。
そしてもう一つはこのスキルが日に一度しか使えない事だ。
月光を背に飛び上がったハクアの身体は至る所に火傷を負い、明らかに満身創痍と言ってもいい。
だがその瞳の戦意は衰える事無くラインを見据えている。
そして何よりも、月光に晒された白銀の髪が月の光を反射して輝きを放つ姿は、まさに人の持つ美しさではなく、人を超えた美しさを称えるような光景だ。
ここまでの限界を超えた力の行使に加え、ハクアに止めを刺す為に放った大技の影響で、ラインの身体は硬直している。
それを見てとったハクアは空中に【結界】で足場を作り出し、全身のバネを使って力を貯める。
そして──「【絶影】」
その一言を呟くと同時にハクアの身体が闇に溶け込むように姿を消す。
それと同時に闇を纏った影が、一気にトップスピードに至り一瞬でラインへと迫る。
これがハクアのもう一つの新しいスキル【絶影】
自身の動きに目が追い付かず、視界が黒く染まる程の超スピードを出すスキル。
デメリットは移動中、相手の姿を視認する事が出来ず、気配のみでしか相手を察知する事が出来ない事。
そして身体中が軋む程の負担が常時掛かり、このスキルも【陽炎】のように数秒しか使えない事だ。
だがそれを押しても強力なこの二つスキルを、ハクアはラインの隙を作り出す為に温存し、それをこのタイミングで切ったのだった。
それはハクアの勝負感が、ここで決め切れなければ負けると告げているからに他ならない。
一瞬でラインの元に到達したハクアは、漸く動き出したラインへ短剣を振るう。
最高速から放たれたその一撃は、ラインの首を容赦無く切り裂いた。
「ッ!?」
だが、首を切り裂いた筈のハクアの手にはなんの感触も与えて来ない。
振り切ったその瞬間、ラインの姿が幻のように掻き消え、その後ろから勝利を確信した笑みを浮かべるラインが現れる。
これがラインの隠していた最後の鬼術。相手に幻覚を見せ認識をずらす術だ。
ラインとて本当にこれが役に立つとは考えてはいなかった。
しかし、ハクアの実力を認め強敵と認識していたラインは、先程の攻撃でハクアを仕留めたと思っていたが、それでもこうして万が一に備えていたのだ。
「終わりだ!」
それは奇しくもガダルに捕らえられたハクアが、ダンジョン攻略の際、八咫烏に対して行った方法とまったく同じ罠だった。
「くっ!?」
【絶影】の影響で重くなった身体を無理矢理捻り、なんとか攻撃を回避するハクアだが、ラインの斧からの切っ先が指先を掠める。
ドグンッ!?!
その瞬間、ハクアの身体が大きく脈打った。
そしてラインもまた、ハクアの指先を掠めた事を斧から伝わる感触で知り、今度こそ終わったと笑みを浮かべる。
それは何度も見てきた光景だ。
後は傷を付けた指先から一気に呪が全身へと回り、ハクアを死に至らしめる。
鬼殺害は鬼特攻の効果がある武器だがその正体は呪いだ。
傷口から一気に全身へと呪いが回り数秒で死に至る。
そう死に至るまで
傷口から身体が黒く染まるのを見たハクアは、正確に鬼殺害の持つ能力が呪いだと把握する。
そして身体が傷口から黒く染まる事から、呪いが進行するタイプだと判断したハクアは、即座に自分の腕を切り落した。
「なっ!?」
その余りにも早すぎる判断にラインの思考が一瞬止まり、勝ちを確信した笑みが驚愕に変わる。
「ハアァァ!」
そしてハクアもまた全ての力を振り絞るように声を張り上げ【絶影】を発動した。
慌てて振り下ろす斧を掻い潜り肉薄したハクアは、全ての力をインパクトの瞬間、一点に集約した一撃を放つ。
その一撃は、当たった瞬間に白い光が瞬きラインの身体を吹き飛ばした。
【白輝】
ガダルとの戦い、亜種の黒オーガとの戦いでも遂に至る所に事の出来なかった、心曰く至高の一撃。
「フゥ……」
ギリギリの戦い。命を削り合うその戦いは転生前と転生後、その二つの噛み合わなかった歯車を噛み合わせ、事ここに至り昇華された事で辿り着かせたのだった。
ボロボロの身体を引き摺りラインの元へと行く。
その怪我は酷く放って置けば死に至るのは確実な怪我だった。
「……殺れよ」
近付いて来たハクアに向かい吐き捨てるように言葉を吐くライン。
だがハクアはそんなラインに持っていた回復薬を掛けると、そのまま見向きもせずに立ち去ろうとする。
「……どういう積もりだ」
それに噛み付いたのはラインだ。
回復薬を使われたとは言えまだ動ける程では無い。それでも無理やり起き上がりハクアを睨む。
するとハクアは、今までの殺気が嘘のように呆れた顔で振り返り。
「いや、なんつーか萎えた」
「はっ?」
「こっちはギリギリだったつーのに、満足そうにぶっ倒れてるの見て萎えた。てか、私の目的としては、お前を引き剥がした時点で半分以上達成してるからこれ以上意味無いし」
「それで納得するとでも──」
「するもしないも関係ねぇよ。勝ったのは私で負けたのはお前だ。もう格付けも済んだから興味も無い。何よりお前殺してもメリット無くて、逆に逆恨みとかされたら面倒い」
そんな余りにもあけすけな答えにラインは開いた口が塞がらない。
「俺を生かせばまた狙うかも知れねぇぞ」
「もう勘弁。受けてやる義理も無いしね。まあでも、お前のお陰で私もまた少し強くなれた事には感謝するよ。じゃあな」
今まで命のやり取りをしていたとは思えない程のさっぱりした笑顔で、言いたい事を言って去るハクアの背を見続けたラインは、力尽きたように仰向けにドサッと倒れる。
そしてその顔を腕で覆いながら深い溜息を吐き。
「いや、マジか、有り得ねぇだろ。ガキだぞ? それにもっと他にも女は居るだろ……」
その顔は何故か赤く染っていた。
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