第171話「……お前、やっぱ勇者じゃねぇよ」

「元作家としてこんな感動の場面で水を指すのは遺憾なのだけど、向こうもそろそろ抑えきれないようよ」


 アイギスが顔を向けている方を見ると、澪が凍り付けにした筈のクシュラの氷がパキパキと音を立てヒビが入り崩れていく。更にはクシュラの姿はだんだんと黒ずんで、身体はどんどん大きさを増している最中だった。


「貴様ら自らの愚かさを後悔しながら死ぬが良い!」

「大仰なセリフを吐いている所悪いが、貴様はもう終わりだと言った筈だが?」

「ぎゃあ!」


 澪は身体が変化した事で、氷から何とか抜け出し手を付いていたクシュラの両手を短剣で地面に縫い付け、またも身体を凍らせる。


「な、何故だ! 何故この私がこんな氷を砕けない! 貴様、何をした!」

「私のギフトの名は【氷の女王】と言ってな。能力は周りの温度を下げる何て物では無く、全てを凍らせる能力だ。次いでに副産物として、一度生物に使用するとその氷は、対象者に取り付いている限り宿主の力を吸い、硬度と厚さ、冷気が増す様になっている。さて、お前は私の氷にどれ程の間全身捕まっていた?」

「ば、ばかな! 召喚されたばかりの勇者のギフトがここまで強力な訳が──」

「それは貴様が知る必要は無いな。それよりも、貴様にはもっと大事な役割が在るだろう? さて、散々掻き回してくれたんだ色々と教えて貰おうか?」

「貴様何を──ぐあ!」


 澪はクシュラの指を一本切り落とし、愉しそうに嗤う。


「クシュラ、貴様の事はマハドルから良く聞いているぞ。忠義に厚い信頼の置ける部下だとな」

「その通りだ! 貴様ら人間に幾ら尋問されようと、私が情報を漏らす事──あがぁぁぁ!」


 クシュラのセリフを最後まで聞かず、またも指を切り落とす。


「あぁ、そうだ。その調子だぞクシュラ、忠義に厚く信頼されているんだ。簡単に喋ってくれるなよ? 散々手を焼かせてくれたんだ。簡単に喋って貰ったら私の憂さ晴らしが出来なくなるからな。今こそお前の忠義の見せ所だ。精々最後まで頑張ってくれ」


 その言葉にクシュラの顔は始めて青く染まる。


「や、止め──」

「貴様ら魔族ならそんな言葉を吐いた人間に何と言う?」

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 澪によるクシュラの尋問は長らく続き、クシュラは身体と言える部分は胴体だけとなり、出血や傷口は直ぐに凍らされ、体温が下がる事で気絶も許されず、それでもまだ正気を保ったまま生かされていた。


「今さらだけど瑠璃。気持ちいい場面では無いから下がってても良いよ?」

「う~ん。みーちゃんのやってる事だから大丈夫ですよ」

「そう?」

「はい」


(そういう問題では無いだろうに、まぁ、本人が良いって言ってるなら良いか)


 その間も澪による尋問は進み──。


「流石優秀だな。マハドルの言っていた通りだ」

「あ……当たり、前……だ。誇り……高き、我、ら……魔……族が……人間等に、屈する訳が──」

「あぁ、そうだな。お前の口からお前の意思で喋らせるのは無理だろうな」

「ククク……漸く……無駄な……事、だと悟ったか……」

「あぁ、その事で一つ謝ろう」

「な……にを……」


「ああ、実は此方にも【洗脳】のスキルを持っているものが居てな。こんな事は最初から意味が無かったんだ」

「なっ!?」

「クシュラ、無駄な努力御苦労だった。後は楽になってくれ」

「きさっ! 貴様!! それが、それが勇者のやり口か!? 許……さん、貴様……だけは、絶対に……殺してやる!!!」

「やれ」

「はっ!」

「止めろ……止め……──!」

「ふう、良い仕事したな♪」


 と、そんな事をのたまわり、良い汗掻いたかの様に額を腕で拭きながら、自分達の方に向かって来る悪友に向けてハクアは一言。


「……お前、やっぱ勇者じゃねぇよ」


 その場に居る目撃者全員の気持ちを代弁したのだった。

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