第170話絶対放さんとかストーカーかよ

 ハクアと瑠璃の強烈な不意打ちの一撃が決まり、攻撃を食らったクシュラはその威力に耐え切れず吹き飛んで行く。


「な、何をやっているんですか!? ご主人様! 瑠璃! 何でクシュラさんを攻撃して──」


「良いんだよ」


 アリシアの言葉に答えたハクアは瑠璃と共に自らが攻撃したクシュラを油断無く見詰める。

 そして、そんなハクアの見詰める目の前で、クシュラは咳き込みながら起き上がり、口の端から血を垂らしながら増悪に燃えた瞳で二人を睨み付け吠える。


「貴様ら……殺してやる!」

「いいや、お前は終わりだ」


 怨嗟の声を上げたクシュラの後ろから澪が終わりを告げる。

 攻撃により吹き飛ばされたクシュラは澪の側へと弾き飛ばされていたのだった。それはハクアと瑠璃の狙った通りの場所だったのだが、クシュラはいきなりの事でそこまで事態を把握出来ていなかった。

 澪はそんなクシュラへと手を翳し「【氷獄】」と呟くと、クシュラの体は次第に手を翳された部分から凍り付いていき、瞬く間にフープの兵に捕らえられたのだった。


「ふぅ、いい仕事だったぞ白亜、瑠璃。フーリィーとカークスも御苦労だった。もういいぞ」

「どうやらそのようですね。お疲れ様ですミオ様」

「こちらも何とか抑えきる事が出来ました」

「あぁ、メルとジャックももういいよ。これで終わったから」

「貴女やっぱり本気では無かったのね?」

「こっちもだ。手ぇ抜かれて消化不良だぜ。嬢ちゃん達ばっかり派手にやりあいやがって」

「……超体痛いんだけどそんな私に文句言います?」


 ハクアと澪、それぞれが戦闘停止を促すと、お互いに激戦を繰り広げていたジャック達が文句を言いつつ戻って来る。


「あのご主人様何がどうなっているんですか?」

「そうです。説明願いますかハクア様! まさか貴女もその勇者に洗脳を──」


 今までヘルに捕らえられていたアレクトラが、ヘルの手から無理矢理抜け出しハクアに食って掛かる。だがそんなアレクトラに近付く影が在った。


「残念だけど、操られていたのは貴女よアレクトラ。やってちょうだい」


 アレクトラの姉、女王アイギスがそう言うと、フープの側から一人の兵士がアレクトラに駆け寄る。


 何人かの人間がその行動に動こうとするが、ハクアに「大丈夫」と、止められそのままアレクトラへの接近を許す。

 全員が見守っているとやがてアレクトラは項垂れ、意識を失ってしまう。そんなアレクトラを抱えながら、アイギスは改めてハクアに向き直り挨拶をする。


「始めまして、貴女が澪の言っていた白亜ね? 私はフープの女王アイギスよ。あぁ、貴女達には元ラノベの小説家って言った方が良いかしら?」

「……マジで?」

「ええ、だから澪の事も受け入れられたのよ。それと今回の事は国の代表として後日改めて正式に礼を言うわ。でも、とりあえずありがとう。と、これだけは言わせてちょうだい。後は……そうね。これから詳しく説明する予定だけど、今回の事は私の妹を取り戻す為の作戦だったのよ。それを澪と白亜の二人に手伝って貰ったの」

「そ、そうだったんですかご主人様?」

「うん。まあね」

「……ハクア何時の間にそんな事を?」


 アイギスの言葉にエレオノ達全員が驚きハクアを見詰める。

 だが、それも当然の事だろう。

 昨夜の襲撃から戦いが始まる今まで、ハクアが澪達とやり取りする暇など何処にも無かった事は、一緒に行動を共にしていたエレオノ達が一番理解していたからだ。


「え~と、戦い初めの方で澪が「私の攻撃何時もの様に受けられるか」って聞いたじゃん? だけどアイツは私と何度もやりあってるから、私が防御主体じゃ無く回避主体なの知ってる筈何だよね。それなのに言うって事はそれを知らないか、何かしらの意図が在るかのどっちか。でも、アイツは記憶はちゃんと保持してた、だからこの場合は後者になる。で、攻撃受けてみたら妙なインターバルを挟んだ攻防が三回。そんで私の世界にはモールス信号って、音で文字を現す物が在って、それに合わせると──」


 そこまで説明したハクアは、地面に記号を書き始め。


「打ち合いを・で表記、鍔迫り合いを―にすると、最初が・・―・・で、トになる。次が・―・―で、ロになる。それで最後が・―でイになって、それで続けるとトロイになる。詳しくは割愛するけど、このトロイは私達の世界の話しで簡単に言えば、内通者や罠って意味にも使われる物なんだ。で、その次のリア王とか言ってたのも同じ、リア王は周りの人間に騙され王位を簒奪された者の事。その中で澪が私に言ったオズワルドとは、リア王を裏切った人間の中の一人の従者名前。その他にも一応確認の為に、長女のゴネリルや次女のリーガンじゃ無いのか? と、確認もして違うと言ったから、オズワルドつまり姫付きの従者クシュラで決まりって訳。後は、クシュラが油断するまで本気でやり合った。っていうのが今回の出来事だよ」

「……全然気が付かなかったのじゃ」

「まぁ、そう言う事だ。とはいえ、手加減されていた様だかな?」

「お前こそ奥の手は使って無いだろ……」


 ハクアがアイギスと話していると、クシュラの拘束を終えた澪がハクア達の元へと歩いてくる。するとそれを見た瑠璃が駆け寄り思いきり澪に抱き付く。


「みーちゃん! みーちゃん……」

「瑠璃、元気だったか?」

「うん。うん。でも……みーちゃんも何でまず私の胸に触るんですか?」

「お前の乳が悪い」

「ハーちゃんもみーちゃんもえっちです」

「澪」

「白亜」


 そんな二人にハクアは近付き互いに手を掲げ、健闘を称え合いハイタッチを交わす──訳ではなく。その瞬間、互いの拳がクロスカウンターで顔面に思い切りめり込んだ。


「「「ええええぇえぇ!?」」」


 あまりの予想外の行動に、その場に居た瑠璃以外の全員の驚きの声が重なる。


「こ、ここは異世界でもう一度出会えた事を喜ぶ所じゃ無いんですか先輩達!」


 そんな当然とも言える結衣の突っ込みにも返事をせず更に殴り合いを続ける二人。


「ふざけんなカス! 何がトロイだ! 何がオズワルドだクソが! 分かりにくい事この上無いわボケ!」

「バレない様にやるには仕方無かったんだ! そっちこそ何だこの状況は! 勝手に死んで異世界でハーレムとか何処のラノベ主人公だ。なろう系か!」

「そっちこそ、美人の女騎士に美女女王とか羨ましいわ!!」

「そもそも引きこもりが、エロゲ買いに言って交通事故とか、恥ずかしい死に方しおってこっちが恥ずかしくて泣けてきたぞ!」

「うわ、最低だ! 人の死因にケチつけんなや! お前こそさっきも言ったけど何だその格好! そっちも十分異世界堪能してんじゃねぇーか! クソエロいわ!」

「ふん、私ぐらいになればこんなんでも着こなせるのだ! バカめ!」

「「ぶち殺す!!」」


 散々互いに口汚く罵りあいながら拳のスピード上がり続け、殴り合いは更にヒートアップしていく。


「う、うわ~。二人共罵り合いしながらノーガードで顔面殴りあってる。しかも結構良い勢いで──」

「うむ。しかも地味にアクアが二人共回復してるから終わらんのじゃ」

「ル、ルリ。止めなくて良いんですか?」

「大丈夫です。何時もの事ですから」


(((何時もああ何だ!?)))


「でも、そろそろ誰か止めてくれないと話が進まないのだけど? 普通の人間には無理よね? 貴女なら大丈夫なのかしら瑠璃?」

「そうですね。アイギスさんの言う通り話が進まないのはダメですね。それじゃあ。トォ~!」

「「ギャース!」」


 アイギスの言葉に頷いた瑠璃はそのまま二人にタックルを決めて押し倒す。


「な、何をする瑠璃」

「地味に痛いんすけど」

「みーちゃんもハーちゃんも嬉しいのはわかるけどそろそろ進めましょう」

「嬉しい訳では無いよ?」

「何だ白、嬉しく無いのか? 私は嬉しいぞ。私に黙って勝手に死におって──バカ者。次はもう絶対放さんからな」


 そう言って澪は、ハクアを抱き締め顔を埋め微かに肩を震わせる。そんな澪の肩に手を置きながら。


「──ったく。絶対放さんとかストーカーかよ」

「最初に会ったその時言った筈だぞ。私はお前を手に入れる……と」

「だな。……悪かったな。勝手に死んで」

「全くだ。だが──」


 そこまで言うと顔を上げ。


「違う世界ででもこうやってまた会えたんだ。特別に赦してやる」


 そう言って見る者を魅了する様な笑顔で答えた。

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