第169話あいつ本当に何処の戦闘民族だ!

 澪のストーンニードルがハクアを襲い、ハクアはその鋭く尖った切先を刀技【虚月】で切り裂く。


 だが、魔法を使うと共にハクアの風縮を真似た移動で、澪が【連斬】を使い斬り掛かる。ハクアはその攻撃を【朧月】の見えない斬激で迎え撃ち、同時に【結界】を澪の頭の横に設置し、そこに頭がぶつかる様に設置した方向とは逆に動く。


 互いにスキルを放ち斬り結びながら半円状に移動した為、澪は先程設置した【結界】に頭をぶつけバランスを崩し、ハクアはその隙に刀を使い槍技【一閃】で、頭を狙い高速の突きを放つ。


 しかし澪はその攻撃を【柳】を使い回避しながらハクアの懐に入り込み、拳技【ラッシュブロー】でハクアに腹部に強烈な拳打を連続で叩き込む。

 その怒涛の攻撃を【結界】で何とか防ぐが、その内の何発かは【結界】を抜いてハクアに当たり始め、次第にダメージを蓄積させて行く。

 だがハクアは一瞬の隙を見計らい、澪の拳を勢いに逆らわず包む様に掴み、攻撃の力を利用して一本背負いで澪を地面へと思い切り叩き付た。

 そしてそのハクアの攻撃は一本背負いだけでは無かった。

 投げる勢いで自らも一緒に回転し、地面に叩き付けた澪の腹部にそのままハクアの全体重を込め、落とすと同時に膝を突き立てていた。


 澪も何とか【結界】を腹部に集中する──だが、軽量とはいえ人一人の全体重を込めた一撃は【結界】を砕き腹部へと吸い込まれて行く。


「ぐっ!」と、呻き声を漏らしながらも、腹部に膝を叩き付け無防備になっているハクアに、痛みを堪えながら至近距離でファイアブラストをお返しと言わんばかりに叩き込む。

 しかし、打ち付けられた背中と【結界】で軽減した腹部のダメージは大きく、何とか立つ事が出来たが足元はふらついていた。


(クソ、立つ事は出来るがギリギリだ。何なんだこいつの強さは──流石私の嫁だな! と、そんな事考えている場合では無いな。しかしこいつ、戦う内にどんどん早くなって無いか? それに戦い方も変わって来ている。戦闘中に学んで強くなるとか、あいつ本当に何処の戦闘民族だ! 全く。あいも変わらずたまったものでは無いな)


 至近距離からファイアブラストを食らったハクアは、何とか【結界】で軽減したものの少なくないダメージを負ってしまう。また吹き飛ばされた場所は、運悪く一際大きな炎の中だった。

 慌てて這い出るがその瞬間を澪に狙われ【結界】が薄くなっていた為、攻撃をまともに喰らい痛みに呻きながらも呼吸を整える。

 炎の中に飛び込んだ代償は小さくなく、ハクアのその白い肌も所々火傷し赤くなっていた。


(あ~も~、クッソ、ヒリヒリする! いや、ピリピリか? てか、どっちでもいい! 火傷が! 肌が~!! クッソ、マジで強いなこいつ! 本当に戦闘中に成長するとかマジでやめてよね)


 内心で悪態をつきながら体力の回復も兼ねて澪を観察する。

 周りが火の海と化した事で、ハクアの様に常に【結界】を纏う闘法に慣れていない澪は、避ける場所にも気を配らなくてはならない為、最初程優勢に立てなくなった。

 しかしハクアの方も、ここまでの戦闘で劣勢に立たされる時間が長かった事もあり、澪よりもダメージは多く、だんだんと集中の持続が難しくなっているのを自覚していた。

 互いに体力は限界近く集中力も切れ掛けて要るが、それでも互いに目の前の相手に屈する事だけは我慢できなかった。

 そして何よりも、ハクアはその時が来るまで負ける訳にはいかなかった。


(まだか──もう少し──もう少しで全部が終わる。それまで何としても澪に負ける訳にはいかない)


 その思いを胸に、ハクアはオリジナル魔法、旋迅焔を澪に向けて放つ。旋迅焔は周りの炎を巻き込みながら巨大な炎の竜巻と成り澪を襲う。


 しかし澪は瞬時に避けられ無いと判断し、前面に【結界】を集中して守りを固め【瞬天】のスキルを使い、旋迅焔を一気に突っ切ってハクアに肉薄しながら攻撃を仕掛ける。


「うぁっ!」


 旋迅焔をブラインド代わりに突っ切って来た事で、ハクアに【瞬天】を避ける事は出来ず、防御した刀と【結界】は同時に吹き飛ばされ腹を切り裂かれる。

 だが、今までの戦いで澪の剣も切れ味が落ち、出血はしているが傷自体は余り深くはならず、むしろその攻撃で肋骨が何本か折れた事の方が問題だった。それでもハクアは力を振り絞り、後ろに駆け抜けた澪へと攻撃を仕掛ける。


 そしてまた旋迅焔を無理矢理抜けた為、澪のダメージも見た目程軽いものでは無かった。

 しかしその甲斐も在り、ハクアにもかなりのダメージを与える事に成功した。

 だがそれと同時に今の一撃で酷使した剣は折れ、全ての武器を使いきった澪は、ハクアに最後の一撃を加える為に【瞬天】で、一度通り過ぎたハクアに向き直り攻撃を仕掛ける。


「「おおおぉぉぉお!!」」


 互いに選んだ手は水転流奥義【水破】互いに振り返り震脚を用いながら、相手の間合に踏み込み、ほぼ同時に相手の胸に手を添え──。


「「はあぁぁぁぁ!!」」


 二人の間で同時に炸裂する【水破】。だが、今までの戦いで体力の限界を迎えつつあった二人には【水破】を完璧な状態で放つ事は叶わず、中途半端な物になってしまう。

 しかし、それでも今の二人には十分な威力に成り、互いの攻撃に耐えきれず、足で地面に線を描きながら後退する。

 強烈な攻撃に何とか踏み留まると、ハクアは体力の限界からか膝から崩れ落ち地面に膝を付ける。

 だがそれは澪の方も同じだった。

 何とか踏み留まりダメージで震える足を支え、膝に手を付きながら何とか地面に膝を付かずに立つ。そして──。


「はぁ、はぁ、はぁ、どうやらここまでの様だな白亜! 終わりだ!」


 そう言って澪は風魔法を竜巻の様に放ちハクアを襲う。

 竜巻は周りの炎を巻き込み、先程ハクアの放った旋迅焔と同じ位の大きさに成る。それでもハクアには、もう立ち上がる力も残っていないのか、迫り来る炎を纏った竜巻にそのまま呑み込まれてしまう。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

「ご主人様!!」

「「ハクア!」」

「おねちゃん!」

「先輩!」

「「「ハクア様!!」」」


 竜巻に呑み込まれたハクアを見て、全員が悲鳴の様な声を漏らす。それでも現実は変わる事無くハクアは、吹き飛び地面を何度も転がりながら、微動だにする事も無く只地面を転がり続ける。


「危ない全員下がって!」


 全員ハクアの姿に放心状態だったが、ヘルの声に我に帰り何とかハクアを避ける。出来うる事ならば全員避けたくは無かったが、受け止める事で逆にハクアのダメージが大きくなる様なスピードだった為、仕方がない判断だった。

 そして、仲間達の所に差し掛かる手前で、一際大きく地面を跳ねたハクアの体は、漸く止まった物のピクリとも動かなかった。

 その姿にアリシア達はハクアへと駆け寄ろうと走り出す。


 そして派手に転がって来たハクアに、全員の視線が集り、その場の誰もがハクアに注目し、ハクアしか目に写していない一瞬の隙に、ヘルが安全を確保する為アレクトラの後ろに回り込み取り押さえ、ハクアに駆け寄ろうとしていた瑠璃が「ハーちゃん!!」と、ハクアに呼び掛けながら振り返り、水転流奥義【水破】の構えに移る──。


 瑠璃の声を聞いたハクアは、今までの澪との戦いで何度も窮地に陥りながらも、絶対に使おうとしなかった【雷速】を使い、駆け寄って来た仲間を抜き去り、振り返った瑠璃の隣へと移動すると、瑠璃の【水破】に合せ、アキラ【疫崩拳】と【鳴神】の複合業【雷轟】を、瑠璃の【水破】と共に放った。

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