第168話「……いや、何か文句叫んで無いか?」
「むぅ、妙なのじゃ……」
「どうしたんですかクー? 何か気が付いたのですか?」
「うむ、少しずつじゃが主様の動きがおかしくなってきておるのじゃ」
「言われてみれば確かにそうかな」
「私には余り変わっているようには──」
「確かに後衛職の人間には分かりにくかもだけど、ハクアの動きが最初より遅くなってる──うんん、鈍くなってる?」
「皆の言う通りです。体のキレもですけど何よりも、判断が遅くなっていっているみたいです。もしかして──ヘルさん! ハーちゃん達の周りの温度って分かりますか?!」
「温度ですか? 待って下さい今調べてみます」
「ルリどういう事?」
「何か分かったんですかルリ?」
「結果次第ではみーちゃんのギフトの力の一部が解るかも知れません」
「これは──なるほど、だからマスターは──瑠璃の想像通りマスター達の周りの温度が下がっているようです」
「温度が下がってるから何なんですか瑠璃先輩?」
「多分、低体温症です。みーちゃんのギフトの力は、どうやら周りの温度を下げる事が出来るみたいです。そして、ハーちゃんの動きが鈍くなってるのに、みーちゃんの動きは変わらない事から、恐らくはみーちゃんは能力の影響を受けないんだと思います」
「ていたいおんしょうって何ゴブ」
「低体温症とは、体の深部温度が極端に下がる事で起きる症状です。軽度の物で全身の震え無気力、意識がはっきりしなくなる、呼吸が早くなる、手足の血管が収縮し蒼白になる等の症状。中度では震えが止まり、筋肉が硬直し始め。錯乱や意味不明の言葉をしゃべったり、呼びかけても反応しなくなる、呼吸が遅くなる等の症状。更に酷くなれば、痛みを加えても反応しなくなり、自発呼吸がなくなる等の深刻な物になります。雪国等の気温が低い地域によくみられる症状ですね。マスターの今の症状は軽度な物ですが、恐らくその影響でパフォーマンスが極端に低下しているのでしょう」
「そんな……何とかする方法は無いんですか!?」
「ここからではありません。今はマスターを信じましょう」
「……ご主人様」
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(クソっ! 寒い、指が冷たい、オマケに思考に靄が掛かるし、あ~も~、最悪だ! こっちは魔領まで使ってるのに、防御するので一杯一杯とか)
「どうやら効いてきた様だな白亜」
「お前──チートも大概にしろよ! 寒いわボケ!!」
「ふん、私は影響の範囲外だからな全然平気だぞ」
「クッソ、ムカつく。覚えてろよ! この借りは絶対返すからな!」
「次が在れば……なっ!」
再びハクアに斬り掛かる澪、今までの様なフェイントは無く、純粋に力を込めスピードを重視した攻撃だった。
だが周りの温度を下げられ、体温が低下している現在のハクアには避ける事も、受け流す事も出来ず、澪の攻撃を凍える手で何とか受けるだけで精一杯だった。
(クソっ! 何とか火魔法を調整して最悪の事態は防いでるけど、これ以上温度上げると私が燃えるんですけど!! 私にどうしろと!!?)
そんな事を考えながらも必死に澪の攻撃を防御するハクア。しかし、その苛烈な攻撃に刀は飛ばされ、足を滑らせ体勢を崩してしまう。
「チッ!」
「終わりだ!」
澪の全力を込めた一撃がハクアに迫る──が、その攻撃はハクアにはどうやっても回避も防御も出来ないタイミングだった。しかし澪の攻撃がハクアに当たる寸前、ハクアの体が刀に引かれる様に急激に遠ざかる。
「なっ!?」
「はぁー、はぁー、はぁー……」
「なるほど電気──電磁力か。お前のスキル、接触ダメージで多少の痺れを感じるからもしやと思ったが、属性はやはり雷か。今のはその性質を利用して、自身を磁石の様に引き付けたな?」
「お……前、はぁー、はぁー、人がギリギリで思い付いた事、ゴホッ、ゴホッ、速攻で見破るなよ!」
「優秀で悪いな」
「苛つくわ~」
「それでどうするつもりだ? そんな一時凌ぎ、他の奴ならいざ知らず、私には通用しないぞ」
(確かに──クソっ! ならしょうがない。やりたくは無かったけど、これ以上体温下げられたらマジで死ぬ! あれをやるか──)
決意したハクアは風縮を使い空高くに飛び上がる。そして、跳躍の頂点に達する少し前に、空間から在る物を取り出し空中でばら撒いた。
(何だ? 何を撒いた? 白亜め何をする気だ? まさか! ──あのバカ! 不味い!!?)
澪は長年の付き合いから、ハクアの撒いた物を推測し青ざめながらも、自分に降り掛かる前に何とか【結界】で自分の周り全てを覆う。撒いた物が地面へと降り注いだのを確認したハクアは、左右それぞれに風魔法と火魔法を作り出しボルケーノを放つ。
その一撃から引き起こされた結果はハクアのばら撒いた油に引火し、大規模化な爆発と共に辺り一面が火の海とかす。
ハクアはその爆風に真上へと吹き飛ばされ、錐揉みしながら落下しつつも、何とか火の無い所へと着地する。
「ふう、死んだか?」
「死んでないわ! ボケ!!」
ボコォッ! と、いう音と共に地面から顔を出し怒鳴る澪は、這う這うの体で地面から這い出してくる。
「クソっ! 相も変わらず無茶ばかりしやがって、少しは後先考えろと何時も言っているだろう白亜!!」
「ふん、知らん!! 後先も何もそれは今の延長線に在る物だろ? なら、今を切り抜ける為なら後何て考える暇在るか!! 今が駄目なら後も無いだろ!」
「そうは言っても見てみろ。軽く地獄絵図だぞ! しかも油まで撒いたから当分消えん。それに爆風にお前の仲間まで煽られて──」
「私が生き残る為だからな、自然には犠牲になって貰えば良いし。私の仲間はこれ位では動じない!!」
「……いや、何か文句叫んで無いか?」
「……空耳だよきっと。そ、それよりもホラ! どうだ! これだけ火があればもう寒くない!」
「そうだな。この状態では私のギフトは役に立たんな。その代わりメチャクチャ暑いけどな──」
「そうだろ、そうだろ。親友とか言ったからには苦労は分かち合わないとな。それに、お前こそ忘れて無いか? 私はこう言うフィールドの方が得意だぞ」
「あぁ、確かにな。それじゃあ第三ラウンドと行こうか? 私もお前のお陰でスキルや魔法を使った戦いに慣れてきた所だからなっ!」
そして再び、炎渦巻く中での最後の攻防が始まった。
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