第167話後は私が一番信頼してる人達に任せます

「……凄い」


 エレオノは未だ目の前で繰り広げられているハクアと澪の戦いを目の当たりにし思わず呟いてしまう。

 単純な体術から剣術、スキルや魔法を駆使した戦術はどれも、自分では思い付かない様な物であり、自分であれば数分と持たずに倒される未来しか見えない。今の自分には絶対に対処出来ないのでは──と、思ってしまう。それほどまでに二人の戦いは、エレオノ達にとってレベルの高い物だった。


「むぅ、ステータスでは主様に勝ちは無いが、技術やスキルで何とか渡り合えてる状態じゃな」

「えっ? 白亜先輩の方が優勢何じゃ無いんですか?」

「私にもご主人様の方が優勢に見えますが?」

「いや実際はあのミオとか言う勇者には余裕があるのじゃ。それに引き換え主様はわりとギリギリじゃな」

「でも、ハクアは──」


 ハクアには【雷速】がある筈なのに何故使わないのか? それに【雷装鬼】を使ってはいるが何故【充電】状態のままなのか? ──その言葉をエレオノは必死に飲み込んだ。

 何故ならばこの戦いが始まる前に、ハクアから自分達だけに向けて【念話】で「この戦いの最中私の動きに不審な所や、おかしな所が有っても、何も言わずに信じて欲しい」と、予め言われていたからだ。

 何よりも、今目の前で熾烈な戦いを繰り広げる二人が親友である瑠璃が何も言わないのに、自分が騒ぐ訳にはいかない──そんな思いがエレオノにはあった。


「……みーちゃん」

「ルリ大丈夫ですか?」

「あっ、はい。大丈夫です──それよりもアレクトラ様、私達がしっかりと守りますから王女様に声を掛け続けて下さい」

「ルリ様──しかし、お姉様は自分の意思で──」

「違いますよ。アレクトラ様から聞いた王女様ならあんな風には言いません。だからどうか諦めないで下さい」

「ルリ様──はい、分かりました。クシュラ、私の事を守って下さいね? お願いします」

「はい、私の命は当にアレクトラ様に捧げています。ですのでご安心を」

「ありがとうクシュラ」


 そしてアレクトラは皆より一歩前に出て、再び姉である王女アイギスに向かって声を掛け始める。


(瑠璃? 何か考えが?)

(すいませんヘルさん勝手な事をしてしまって、でも後の為にも・・・・・・出来る限りの事をしておきたくて)

(そうですね。でも余り派手にはやらない方が良いですね)

(はい、だから私がやるのはここまでです。後は私が一番信頼してる人達・・・・・・・・・に任せます)

(その方が良いでしょう)

(頑張ってハーちゃん)

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

(チッ! 分かっていたけどやっぱり強い! 元々が高スペックなのに加えて、勇者の力まで──オマケにこっちの戦い方を戦闘中に学んでスポンジみたいに吸収していきやがる。こんなんマジでチートだ──って、うわっと)


 ハクアは迫り来る澪の拳を身を捻り何とか避け、その動きで懐に潜り込むと同時に、震脚を用いながら顎に向けて掌打を放つ。が、その攻撃は顎を剃らす事で躱わされ、そのままバク宙の動きでサマーソルトを放ち逆に顎を狙われ、攻撃を受けてしまう。


 しかし、ハクアも只ではやられない。

 澪がバク宙で飛んだ先に【結界】の壁を張る事で、澪は見えない壁に思いきり体をぶつけ、肺の中の空気を無理矢理吐き出す結果になる。


「かはっ!」


 そして同時にハクアは風魔法を使い、拳大の大きさにまで圧縮したウインドブラストを一気に五個作り上げ澪に向かって投げ飛ばす。

 それを見た澪は震脚で地面を割り、捲り上がった岩の欠片を手に取り投げ付ける事で、自分に届く前にウインドブラストを誘爆させる。


 ドパァン!


 直後圧縮された空気が解き放たれ、凄まじい暴風と化し二人を襲う。──だが、二人はそれを全く意に介さず、空気が破裂し乱気流渦巻く中、相手よりも先手を取り戦闘を優位に運ぶ為、一直線にお互いを目指して突き進み激突する。


 澪の剣がハクアの喉を狙いハクアが避ける。その動きと連動して避ける動きと同時に、ハクアの刀が閃き澪に斬り掛かる。避けて反撃し、反撃しては避け、そして受け逸らし流す、その繰り返しの応酬の中でお互いの些細な隙を見付ける為、生死を分かつ応酬の中で互いに集中を高めていく。


 しかしその応酬の中徐々にだが趨勢はハクアか澪そのどちらかに傾き始めた。

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