第410話ご主人様はその……アレですし
「まさかこんなに素直に来てくれるとはね」
街の端、人気の無い郊外で私は一人の男と相対する。
「あんなに熱烈な
目の前の男は飄々としながらも、濃密な殺気を漂わせながら油断なく立っている。
まあ、ああすればこうやって乗ってくると思ったからこその行動だったから、予定通りと言えば予定通りなんだけどね。
「さて、俺も予定を変更してわざわざここまで来てやったんだ。楽しませてくれよ」
男はそう言うとより一層殺気を放ち、身の丈程もあるハルバートを構える。
そのハルバートが鬼系モンスターに特攻効果のある武器だと言う事。
その男、Aランク冒険者のライン・ナグレスト自身も、その武器の効果と過去にジェネラルオーガが率いるオーガ軍団を倒した事から、オーガイーターと呼ばれている事も知っている。
それを知っていて尚、私は一人この男と相対し、今まさに戦おうとしていた。
はあ、全くどうしてこうなったのやら。
▼▼▼▼▼▼
事は数日前、私の復活から数日たったある日、エグゼリアから相談があると呼び出された私はギルドまでやって来た。
本日のお供兼お目付け役は澪とアリシアの二人だ。
いや、おかしくない? なんでいちいちお目付け役なんてものが付いてるの?
とか思って抗議したがあっさりと無視された私でした。……グスン。
「──と、言う訳なのよ」
「えー、それで私にどうしろと?」
「特に何をしろと言うことは無いわよ。ただ……」
「ただ?」
「この手の事にはほぼ毎回関わってるから知っておいた方が良いかと思ってね」
「思ってね。じゃないよ! なんて事言うの!?」
「正しい認識だな」
「そうですね。ご主人様はその……アレですし」
どれですし!?
申し訳無さそうにしながらも訂正する気の無さそうなアリシアに、遂にアリシアまでそんな感じにとも思ったが、ココ最近はそんな感じだったと思い直して落ち込む私。
「まあ、危なそうな奴は元々チェックしてたし、なにかあったら適当になんとかするよ」
「ええ、それでいいわ」
全力でそんなものに関わる気は無いと言う感じで言ったのにとても良い笑顔で返された。
これは恐らく……いや、絶対にそう思ってない。
その証拠に「多分それで十分だし……」とかボソッと言ったのを私は確かに聞いた。
と、言うか澪が笑いを堪え、アリシアが顔を背けているから二人も聞こえてる。
誰も信用してない……だと!?
その後この間アイギスに話した人間電池計画の詳細を話し、その他いくつかの細かな情報のやり取りをしていると、受付嬢のココットが部屋に飛び込んできた。
「た、たた、大変です!」
「ココット。いくら仲が良いとは言ってもハクアは客人なのよ。少しは──」
「いいよエグゼリア。んで、どうしたのココット?」
落ち着かせる為に魔法で氷のコップと水を作り、ココットへと手渡す。
するとココットはそれを受け取り一気に飲み干すと、多少落ち着きを取り戻し私達の顔を見てこう告げた。
「あの、アベルさん達のパーティーが大怪我して帰ってきました!」
んー、面倒事の予感。
そんな事を思いながらココットの先導で下へ行くと、ギルド内では冒険者達の人だかりが出来ている。
そしてその中心では腕が折れ、身体中に傷を作ったボロボロのアベルと、アベル程ではないがそれなりに怪我を負っているエイラ達が居た。
ふむ。あれくらいな行けるか。
「アリシアはエイラ達の方お願い。私はアベルやる」
「はい。わかりました」
回復魔法単体ではアリシアはアクアに次ぐナンバー2の使い手だ。
あのレベルの怪我なら難なく治す事が出来るだろう。
因みに私は外科手術を含めてだったらアリシアよりも上なのだが、一気に複数人治せる訳でもないし、一人治すのに中々の時間を要する為、回復役としてはアリシアの方が上という扱いになっている。
駆け寄るアリシアに続きアベルの元へ行くと、まずは傷の状態を詳しく調べる。
ふむふむ。右腕の上腕骨骨折、アバラも折れてるな、右腕よりも腹部が酷い。内臓にもダメージが行ってる。その他にも各部の裂傷と打撲が多数か。
アクアを呼ぶ時間は無さそうだ。
「澪、手伝って」
「了解」
仕方なく私は魔法を使った外科手術を開始する。
人間相手は初めてだけどまあ、なんとでもなるだろう。失敗してもご愛嬌でい!
▼▼▼▼▼
「ふぅ、終わった」
「通常に比べれば簡単なものだと言え、流石に人間相手は疲れるな」
「だね」
「アベルは大丈夫なの!?」
「平気だよ」
噛み付くような勢いで私に掴みかかるダリアを宥め、アベルを職員用の仮眠室に寝かせると、ギルドの奥で何が起こったのかを改めて聞くことにした。
そして──。
その話を聞いた結果。
私は見事にエグゼリア、澪、アリシアからやっぱりなと言う視線を頂戴する羽目になるのだった。
ちくしょう。こんなはずでは……。そしてこれ私のせいじゃないのに、なんでこんな反応されなきゃいけないの!? 解せぬ。
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